見出し画像

フェルマータ

"相手の女性が僕の存在に気づかないのでは意味がない。僕がやりたいのは、その女性が感知し得る状況で、彼女と共にあることなのだ"1994年発表の本書は、自由自在に時間を止められる男性が女性の服を脱がせることに至上の悦びを見いだす大人のファンタジー小説。

個人的には意識の流れで一瞬の時間を膨大なテキストにして描き出す著者の作風が好きな為、『中二階』『もしもし』についで手にとりました。

まず、そんな本書は発刊当時、全米でベストセラーになったとは言え、いわゆるポルノ小説として捉えると【良識ある方々、特に女性の方々の多くからは嫌悪感を持たれる作品】だと前置きしておきます。その上で本書を簡単に説明すると、ある時から自分には自由自在に時間を止められる秘密の能力がある事を発見した男、アーノ・ストライン。35歳、派遣社員。彼の告白的自伝という体裁で、能力がどこからやってくるか?を『調べることもなく』あるいは能力を使って偉大な事を『起こそうとすることもなく』ただひたすらに【時間を止めては女性の服を脱がす事】に快楽を得てきた"平和で"アブノーマルな日々が描かれているわけですが。

同じくセックス、特にテレホンセックスを題材にした『もしもし』とくらべると当然に?直接的な性描写が多いものの、そこは著者らしく【生々しさというよりは文学的で】語り手のアーノ・ストラインが暴力的な行為を嫌悪するインテリメガネ男という事もあり(相当に性癖は特殊な人物ですが)ユーモア小説として私は読む事ができました。

また、後書きで訳者の岸本佐和子も述べてますが。誰でも浮かびそうな"子どもっぽい"発想から、非凡な美を(膨大なテキストで)浮かびあがらすのが著者の非凡な魅力だと思われ、本書でも『時間の止まった世界』という誰もがイメージとしては共有できるも【わざわざ表現しようとしない世界】をリアリティをもって描きだしている部分はやはり魅力的な著者だと思いました。

ミニマムな日常を意識の流れで細かく表現する作品が好きな方へ。ちょっぴりHな部分を眉をひそめず楽しめる方へオススメ。

いいなと思ったら応援しよう!