生物から見た世界
"この小冊子は新しい科学への入門書として役立とうとするものではない。その内容はむしろ、未知の世界への散策を記したものとでも言えよう。"1934年発表の本書は"全ての生物は客体ではなく主体として独自の『環世界』で生きている。を提唱、特に哲学方面に大きな影響を与えた動物学の古典的名著。
個人的には主宰する読書会の課題図書として手にとりました。
さて、そんな本書ではエストニア出身のドイツの生物学者・哲学者である著者が、当時の生物が【知覚や作業道具、制御機能からなる機械である】とする『機械論』そして、現在にも続く【人間主体でのみ都合よく捉えて語る自然界】『環境』に異を唱え、まったく違う視座。全ての生物は人間が捉え、一位的に決定した時間や空間ではなく【それぞれに特有の知覚世界をもって生きており、主体として行動している】とする『環世界』説を、マダニから始まって、ミツバチやネズミ、カタツムリやウニやクラゲ、ヤドカリやイソギンチャクといった【生物の捉える空間や時間、目的や設計事例】を著者と同じ『環世界研究者』の仲間、ゲオルク・クリサートにより描かれたイラストと共に説明しているのですが。
まず。解説によると、世界は科学的、客観的に捉えるべしとする『環境』説が、当時の主流であった中で『環世界』の着想こそ早かったものの著者の主張は長く認めらず『フリーの立場』で研究を続け【60代になってようやく大学に職を得られた】事を知って、本書の内容とは別に【信念をもって継続すること】の大切さを教えられた気がしました。
また、原発事故や誰の目にもあきらかな温暖化や異常気象が頻発する中で、人間主体で自然や生物を『環境』と捉える傲慢さや限界は充分に実感している現在なので。他者もとい【多生物理解がすすむ本書】動物学や哲学のみならず【あらゆる日常生活においても活かせる大切な視点】を得た気がしました。
カントやハイデガーといった哲学好きはもちろん、スコットランドの生物学者にして植物や動物の構造や形が形成される過程を科学的に解明する道を開いた『生物のかたち』ダーシー・トムソンと共に、アーティストやクリエイターに大きな影響を与えた一冊としてもオススメ。