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ある流刑地の話
"『これは、独特な装置なのです』とその将校は視察旅行者に向かって言い、自分では見飽きたこの装置を、あらためて驚嘆しなおすような表情で、眺めてみる。"20世紀文学を代表する1人として、村上春樹他に影響を与えた著者の1919年発刊の表題作を含む7編が収録された短編傑作集である本書は、幻想的な不条理さ、鮮明なパースペクティブさが刺激的。
個人的には、確か。ファンとの返信記録『村上春樹編集長 少年カフカ』で、カフカ作品で一番好きな作品は?と問われた村上春樹が、即座に『ある流刑地にて』(と『城』)と答えたことで、いつかは読みたいと思っていた表題作が収録されていた事から本書を手にとりました。
そんな本書は、不気味な機械の存在、不条理さと緊張感、途中での主役交代と結末が印象に残る『ある流刑地にて』だけでも解釈を巡って如何様にでも、そして【いつまでも語り合える面白さ】が確かにありましたが。
他にも結婚報告の手紙を書いていたはずが、途中から悲劇的展開に加速する『判決』、祈りにきた男と対話しているだけなのに引き込まれる『二つの対話』、饒舌すぎる老犬による犬の生活報告が圧巻の『ある犬の探究』、淡々と孤独と不安を描く『観察』などなど、どれもカフカらしくも【スタイルの違う新鮮な魅力があって】優れた短編集だと感じました。
著者の『変身』そして長編の『審判』『城』といった代表作は既読でしたが、それとも違う楽しさが凝縮された珠玉の一冊。熱心な村上春樹ファンはもちろん、通勤や通学の忙しい方に。ぜひオススメします。