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雪沼とその周辺

"『絹への道』と書いた紙を掲げると、シル、ク、ロード、です。これが、ぼくの、今年の、抱負、です(中略)飛び入り参加の絹代さんにはすぐに理解できた。頬が少しほてった。"2003年発刊の本書は平凡な田舎町を舞台にした穏やかでしっくり馴染む連作短編集。谷崎潤一郎賞受賞作。

個人的には主宰した読書会で薦められて手にとってみました。

さて、そんな本書は(架空の)北にある山あいの静かな町『雪沼とその周辺』を舞台にした【7篇の連作短編集】になっていて、廃業を決めたボウリング場にカップルがふらりとあらわれる『スタンス・ドット』から始まり、亡くなった料理教室の先生を偲ぶ『イラクサの庭』裁断機の傾きから始まる職人話『河岸段丘』センター試験にも出題された『送り火』レコード店員の拘りが楽しい『レンガを積む』飲食店と常連行員のやりとり『ピラニア』ときて、最後に、亡き友と人生を振り返る『緩斜面』で終わるのですが。

まあ、タイトル通りに『同じ町(とその周辺)』が舞台になっていることから、互いの物語が【それぞれに繋がっている】ことが読み進めるとわかるのですが。それより、個人的には著者のテキスト。各物語の【始まり方と、余韻を残す終わり方】が上手いなあ!と印象に残りました。(ゼミの教え子に人気作家の朝井リョウがいるらしいのも納得)

また、それぞれに派手さはなくも、著者によって『さん』づけで大切に物語られている全ての登場人物たちは私も含め【『人生の午後世代』にとっては特に心情を重ねてしまう】心地良さがあるわけですが。一方で、身体や服装の一部、残した言葉に【まるでカメラが寄るように】しつようにこだわる箇所がテキストに適度な緊張感をもたらしていて、こちらもバランスが良いな。と思いました。

何かに追われるような都市生活に疲れた人へ、また人生を振り返りたい方にもオススメ。

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