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孤独な散歩者の夢想

"こうしてわたしは地上でたったひとりになってしまった。もう兄弟も、隣人も、友人もいない。自分自身のほかにはともに語る相手もない。"1782年発刊の本書は、カント他、ドイツ観念論、フランス現代思想にも影響を与えた著者、65歳の晩年に執筆した哀愁漂う最後の作品。

個人的には著者の本は『人間不平等起源論』『社会契約論』『エミール』と読んできたのですが。晩年の心境を知りたくて本書を手にとりました。

さて。そんな本書は王侯、貴族。そしてカトリックを攻撃を実名で加えて、必然的に焚書や逃亡生活を余儀なくされ、またかっての仲間であったヴォルテールやディドロとも別れ、攻撃され続けた著者が地上でたったひとり。と感じて始めた日々の散歩途中での自己探究が全10章にわたって書かれているわけですが。

確かに自分は見張られている、利用しようとされている。といった【被害妄想が度々顔を出したり】実の子供すべてを孤児院にやった事から子供嫌いと考えられた事を『エミール』を引き合いに出して反論したりといった【感情面の起伏は感じられる】ものの総じて、肩の力が抜けたような心境の告白には(若い人には退屈かもしれませんが)人生の午後、折り返し世代として思想家としてより【人間的に共感する】部分が多々ありました。

また、達観した中での端々の言葉『この世の生活の幸福を求めるわたしたちの計画は幻想なのである(幸福は永続的な状態なので)』や『自尊心はいろんな幻想を描いてみせ、姿を変えておのれを自己に対する尊敬ととりちがえさせる』といった収められた言葉たちには現代にも通じる普遍さがある気がして、印象に残りました。

人生の折り返し世代、午後世代の方や、著者ファンの方にオススメ。

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