手で識る指で読む。standard Productsの鉛筆。#今年買って良かったもの
元々のきっかけは、『ネットバカ』ニコラス・G・カー。ネットサーフィンをすると、短期記憶の機能が弱くなる。本を深く理解するには短期記憶が巧く作用することが必須。記憶は定かじゃないが、そんなことが書いてあったと思う。
短期記憶/フラッシュメモリー(noteのタイトルは此処から来ている)が浅くなると長編小説が読めなくなるし、本を深く読めなくなる。という話。20代からのコンピューター・ライティングなので、思い当たる節が、響いたので、メモは手書きに換えた。でもゲームは止められない。中途半端な状態で、今に至っている。この原稿を載せているnoteにフラッシュメモリーというタイトルがあるのは、分かっているのにいろいろ止められない自分に対する戒めと、ふっと思った考えをどこかにメモしておかないと、あっという間に消えてしまうからだ。
記憶は、本当に弱くて、どこかにも書いたかと思うが、母親、弟と神経衰弱をして、一組も取れないというのが、常であった。どうみても短期記憶が弱い自分をさらに劣化させるネットサーフィンと、ゲーム。しかも依存性もあって、なかなか今もって抜け出せない。
若い頃頃から、筆記具はフェチ。鉛筆から、万年筆から、ボールペンから、新しい筆記具が出るとすぐに飛びつく派ではあるが、基本チープが原則。万年筆もどんなに高くても1万円以下。以前、アメ横にあった[ダイヤ]で、ウォーターマンの女性用万年筆、デッドストックなどを集めていた。デッドストックは当時の定価で、しかもアメ横値段なので、70%くらい。ボールペンもイタリアのホテルの部屋に置いてあるのや、飛行機にのったときにもらう航空会社のロゴが入ったのとか…。鉛筆が一番広範囲に手を出すが、ファーバーカステル (FaberCastell)、STAEDTLER(ステッドラー )とかがメインだけど廃番のコーリン鉛筆とかも…がりがりするロシアの鉛筆、あとは企画ものCaran d’Ach(カランダッシュ)+Nespresso(Nespressoのカプセル再生のコラボ)とか。
短期記憶をこれ以上劣化させないように、メモは手書きにした。筆記具はその時ごとに気に入っている——思考が湧いてきそうな筆記具にしている。最近ようやく、書いていて思いもよらぬものが出てくるようになった。それを可能にしたのが、PH/ペーハーえんぴつという、軸のところが白の塗料一回塗りで、どの硬度でも書きっぷりが、ちょっとがりっとしている。軸の手触りといい、[がり]度合いといい、ベストだったんだけど、製造中止になっているみたいだ。3ダース消費した。ハイタイドという文房具専門店で、ここのメモも大好きだった。
手に入らなくなってロスト感はかなり鬱だったが、いろいろ探した揚げ句、工事のときに使う鉛筆/シャーペン(0.9mmの)の替え芯が近いので、北星鉛筆を秘かに愛用していた。最近、ダイソーの高級版?のStandard Productsができて、店を覗いたら、オリジナルの鉛筆が売られていた。マニアのボクは、当然買うよね。全硬度を買って、使ってみたら、良い感じ。もうちょっとチープにガリっとしてるといいなぁと理性は思うが、アイデアはでやすいので、あ、これかと手が納得した。調べてたら、製造元は北星鉛筆だった。納得。
[手で思考する]は、腸で思考すると、同じくらい重要な人間の機能だと思っているが、なかなか機能を積極的に使えていない。最近、指で読むというか、少し指から行間を引いてこれるようになった。PCの画面では読み取れないものが、間違えなく紙指読書だと捉えられる。これが無意識の中で萌芽するべくの種子になっていたりするから、紙読書はやめられない。教わったのは、ピアニスト高橋悠治から。夜想『カフカのよみ方』のインタビューで、カフカの筆致に自分の指を合わせてカフカの筆致に寄っていきカフカが文を書いたのと同じブレスで曲を作ると語っていた。確かに、高橋悠治の天才指だからのことだが、機能は少しはあるに違いない。
[指の記憶]は、形状も記憶する。人形の顔は、人形作家の顔に似ていると云われるが、それは事実。もっとも触れたことのある鼻だの口だのの形状は自分の顔。毎日顔を洗う時に触るから。それがどこかで反映する。ぬいぐるみは、持ち主の顔に似る。毎日、触っているうちに手が自分の顔をなぞる。ぬいぐるみは中に詰め物がしてあるので、顔の形は変化する。だから如実に持ち主に似る。触らなければ元のまま。ぬいぐるみ作家が吃驚するくらい変形する。人形も持ち主に似ると云うが、それはどうかなと思っている。元々、ぬいぐるみにしろ人形にしろ、買う人はどこかで、自分か好きな人の顔に似ているものを家に連れてかえる。
[手が描く]——画家の建石修志は、若い頃、中井英夫の作品に鉛筆画をあわせた作家だが、今は混合技法を主にしている。もちろん今でも鉛筆を使う。絵を描く前に、鉛筆を削って硬度別にずらっと並べる。鉛筆が今日はこれと囁く。ではとその鉛筆を選んで描きはじめると、絵がどんどん進んでいくと…自分の思わない動きをしたりもする。手が絵を進める。手が絵を描く。頭はその後…らしい。
Standard Productsの鉛筆を使って、自分にそんな素敵なことが起きるわけでもないが、6B、4Bをそれぞれ、6本ずつやや太めに削って、並べて…愉しんでいる。全硬度好きだけど、やっぱりBの上の方が、自在にアイデアが出てくる。