伸びしろしか感じない
人は何かに挑戦した時に一定の成果を期待します。
自分自身に対して「やって良かった・無駄じゃなかった」と思いたいという感情は心の平穏を保つためにも必要なことかと思います。
しかし時に現実は残酷で全くもって無意味で無駄な努力だったり、立ちふさがる壁の大きさに絶望してしまうことだってあると思います。
全てが全て順風満帆に上手くいくなんて虫の良い話はそうそう聞こえてはきません。
誰もが一度は、いや何度もそうした悔しい経験をしたことはあるでしょう。
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これはある男の物語です。もう10年来の付き合いのある同じエンタメ業界のプロデューサーで主にアニメーションの制作を行っている男の話です。
もう随分と前に聞いた話なのでうろ覚えな部分もありますがエピソード自体の軸は変わらないので勢いで書き進めていきますのでイキオイで読んでいただけると助かります。
それではイキオイ良くいきましょう!
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伸びしろしか感じない
ある日、そいつと居酒屋で飲んでる時にふとボルダリングの話になりました。
みなさんボルダリングってご存知ですか?要するに壁にある突起を掴みながら全身で登っていくアレです。たぶん一応スポーツだと思います。
ちなみに私はやったことがありませんでした。
その男が言うにはどうやら先日体験してきたようでした。
その男は私とそんなに年齢も変わらず40代のおっさんで、どちらかと言うとあんまり痩せている方でも無くてぶっちゃけ言うと太ってます。
ただお腹が出ている醜い中年のおっさん体型です。
「へぇ、なんか意外、そんなのやるんだ?」
私は本人にそのまんまの感想を伝えました。
どうやら本人も別に何かを思い立って「やりたい!」と決めたわけでもなく知り合いから誘われてノリでやったようなことを言ってました。
ただノリで行った割には「レクチャー代・装備一式レンタル・施設利用料など含めてトータル5000円くらいかかった」と言っていたので、そこそこお金がかかるスポーツなんだなって思いました。
「で?やってみてどうだった?」
素朴に普通にやった感想を私は聞いたのですが、本人からは予想外の返答がかえってきました。
「全く出来なかった。うん、そう、全く。いくらレクチャーを受けても少しも登れなかった。もうひとつ目の掴むところを握って足を離した時点ですぐ落ちる感じ。もう自分でも笑えるほどに出来なかったね。何度も挑戦はしたけどまるで駄目だった。コースの2時間という設定を後半はちょっと恨んでたね。早く終われって思いながら何度もやったけど全然無理だったよ。え?やってみてどうだったかって?うん、伸びしろしか感じなかったよ」
私はこの言葉を聞いた時に頭の中で大きなガラスが「バリンッ!」と割れる音が聞こえました。
「伸びしろしか感じなかった」
よくもまぁこんなにもカッコいいセリフが吐けるもんだな、って思いながら心底男としての敗北感を味わいました。
自分自身が全力でやって出来なかった時、達成できなかった時、努力が報われなかった時に、このセリフがオレ自身に言えるだろうかと真剣に考えました。
たぶん「あわなかった・向いてなかった・全然ダメだった・もうやらない」とか言って終わりだと思います。
素直に認めることも大事、とかなんとか言いながらまた別のことをやるのだと思います。
言いたい。俺も。こんなタフなセリフを吐けるカッコいい男になりたい。
その日の夜は不思議な敗北感で悔しくてなかなか寝付けませんでした。
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それからはその男のことをやっぱり一目置くようになりましたし、動向を細かくチェックするようにもなりましたし、たまに会って飲む時も言動を注意深く聞くようになりました。
が、それ以来彼の口からそんなカッコいいセリフが出てくることはありませんでした。
いつも通りの仕事の愚痴だったり業界の下世話なニュースの話しかしないやっぱりただの小太りの中年のおっさんです。
けど、私は彼の中には「伸びしろしか感じない」という素敵なセリフが排出できる精神を持っていることを知っていますのでこれからも注意深く尊敬の心を持って付き合っていこうと思います。
最近会ってないなぁ、そろそろ連絡でもして一緒に飲みに行くか。たまにこんなよくわからないツイートをするような奴だけど大丈夫。俺は(俺だけは)シュウイチの心の中の綺麗な精神とタフネスを知っているから。
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さて(ホントは名前を出すつもりは無かったけど結局出しちゃったので)もう少しだけ瓶子修一の話をしましょうか。
ちょっと懐かしい話になるのですが。実はシュウイチは現在はサンジゲンに所属していますがその前はスタジオカラー所属でした。
その当時にカラーのプロデューサーとして連絡&提案をもらって実現したのがこの『スタジオカラーVSサイバーコネクトツー ガチンコ!アニメーション対決』なのでした。
その舞台裏の話をお届けしようと思います。
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