漫画って何回も読むものなんですか
先日、まったくゲーム業界とは関係が無い割と一般的な職業の方々と会う機会がありまして、そこで出てきた言葉がこれでした。
「え、漫画って同じ作品を繰り返し何度も読むものなんですか?え、なんで?一回で良くない?ウケルw」
相手は若い女性の方だったのですが、話の流れから私が「好きな漫画は何回もセリフを覚えるほど読んでいる」という発言をしたことに対するリアクションがこれだったわけです。
えー、まー、わかりますね、その女性のリアクションもたぶん正しくて、きっと世の中の一般常識に当てはめると『漫画を読む』ということは『その作品を読んだことがある』という認識で完結していて、繰り返し読むという感覚が最初っから概念として存在しないんだと思います。
たぶん、同じ理由で映画もドラマも同じものを繰り返し観るなんて概念は存在しないのでしょう。
そして一般人の多くはそういう認識だってことを知っています。
これってたぶんですね、業界の中とか外とかの話でも無くって時代背景的な要素もあって、どうやってオタク人格が形成されていったかというプロセスの話なんだと思うのです。
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我々が子どもの頃って当然ですが今ほどインフラも整っていなくて、なんならまだインターネットもスマホも存在しないどころか、ギリでビデオデッキが家庭にあるか無いかで裕福度が図れる時代でした。
なので自分が好きな娯楽(アニメ・映画・漫画)などをとにかく繰り返し観る(読む)ことしか出来なかった時代だったんです。
好きなものを反復して楽しむことによって「なぜこのシーンがこんなにも好きなのか」ということを理解しようとしたり、時にはビデオをスロー再生やコマ送りしながら観察することがイコールで『理解すること』という感覚だったのです。
ウチにはやっぱりビデオデッキが無くて、私は一回限りの本放送を目に焼き付けることしか出来ませんでした。
だから瞬間的な集中力の爆発というか感覚をギュッと圧縮させる技能を身につけました。
そして買った漫画を何度も何度も繰り返し読むことで理解を深めていきました。セリフを覚えたりページやコマ運びを目に焼き付けることでその作家のクセやテンポの心地よさを盗むクセを身につけました。
私はこうやって一人前のオタクになりました。
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あれから数十年が経ち、現在はとにかくモノが溢れかえっている時代です。
漫画を読む手段も変化して、紙の本よりも電子書籍やアプリのほうが身近な存在になってきています。
ネットフリックスやAmazonプライムを除けば常に数十万もの作品が棚に並んでいて、恐らくは一生かけても全てを観るなんてことは不可能なほどに数が多いです。
あまりにも観るべきものや読むべきものが多すぎて、同じ作品を何度も繰り返して見続けるなんて概念自体がずいぶんと希薄になってきている気がしてならないです。
たぶん、好きなものを何度も体験して楽しむという行為自体がある一定の年齢より上の世代にしか通用しないというか、その世代しか持ち合わせていない概念になってしまっているのだと思います。
「だから若い世代は観察による深掘りが足りない」なんてことを言うつもりはありません。
だってそれは「上の世代は多様性が無くて同じところをグルグルといつまでも回っている」と言い換えることも出来ますからね。
(まぁ我々のような世代は好きなものは繰り返し楽しみつつ分析して同時に多くのエンタメを吸収するという生き方をしていますが)
大事なことは、それぞれの世代に生まれた異能力者たちが違う能力と視点を持ち寄って新しい感覚のエンターテインメントを生み出すこと・そしてその方向に導いていけるようにすることが上の大人世代に求められるビジョンなんじゃないかって思います。
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さて、少しずつ世の中が落ち着いてきているような感覚がありませんか?
緊急事態宣言が解除されてから(*執筆当時)私自身も明らかに福岡・東京・その他の地域への移動や出張が増えましたし、対面での会食や打ち合わせも増えてきました。(もちろんマスク着用&ディスタンスを保ちつつ)
対面で会う人とも「あれ、リアルで会うのってマジで2年ぶりとかじゃないスか?」みたいな会話が飛び出したりします。
久しぶりに対面したことで、まるでなんか時間が遡るような感覚というか「あれ、そのへんの話から聞いてませんでしたっけ?」みたいなことが凄く増えてきました。
たぶん人ってオンラインやLINEなんかだと大事な話とかはやっぱりやりにくいみたいで、同時に噂話とか内緒話も出てこない、だから久しぶりに会った人だったりすると次々に質問が出てきて「そういや、アレって実際どうだったんですか?」みたいなことを聞かれて「あぁそのへんの話からしてなかったか」という感覚になりながらお互いにこの2年分くらいの近況を語り合ったりしています。
後半部分はそういった『最近久しぶりに会った人たちと色々話してみてわかったこと』をまとめてみました。
要約するとこういうことなのかな、ってことです。
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あ――ほっとする
やっぱ敵はオメーみたいなクソがいい
すげえ殺(や)りやすいから
久しぶりに会うとどうしてもお互いに直接話をしていないがゆえにネットやSNSで見た情報や世間の反応を鵜呑みにしてしまいがちになりますよね。
だって本人というか当事者に直接会って確認していないんですから。
だからまるで答え合わせをするように「あれって実際どうだったんですか?」という反応になってきます。
で、だいたいお互いの仕事の話の裏側にあった真実などを語り合うと、不思議なほど笑ってしまうほどに理不尽で不条理でバカバカしいくらい『酷い目に合った話』が飛び出してきます。
しかもそれらの全てが決して表では言葉に出来ない事情を孕んでしまっているものなのです。
「一回作っていいって許諾は出したけどやっぱり駄目だから、あと駄目って言われたことを世の中に言ってもいけないからって、あんまりでしょ」
「自分たちのことしか考えていなくて、結局は巡り巡って自分たちにとっても得しか無いのにやっぱり目の前のことしか考えられないって何なんスか」
「まるで業界全体の恨みみたいなものを今も全身に背負ってそれを周りに被害者顔してブツけて回るなんていい迷惑ですよね」
久しぶりの答え合わせということもあってか、こういった会話が飛び出すたびに不思議なくらい私は身体に力が漲ってきます。
そういうことを言うと「え?なんで?w ムカつかないんスか!?」というリアクションをされるのですが、そういう時はだいたいキルアのセリフを思い出すようにしています。
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