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サーモン養殖のエサに道産ジャガイモとホタテの副産物を利用「我らが北海道 持続可能な社会に資するロールモデルに」

 北海道立総合研究機構は9日、北海道庁で『ランチタイムセミナーおひるの科学「北海道のサーモン養殖ーそのエサに道産素材の副産物!ー」』を開催。一般向けに行われた同セミナーでは、小山達也・専門研究員(道総研 さけます・内水面水産試験場)がサーモン養殖用のエサにジャガイモやホタテの加工した際に生じる残渣ざんさ(残りかす)を利用する取り組みについて説明しました。


講演する小山さん(2024年 北海道庁 撮影:野中)

魚粉エサに代わる新たなエサを開発 道産のジャガイモやホタテの残渣を利用

 同研究の発端はどのようなものだったのでしょうか。小山さんは①1990年代以降のサケの来遊数の減少②世界的な魚食文化の普及③世界的に漁業でとる漁業からとる漁業へのシフトチェンジ④全国的なご当地サーモン養殖のブーム――などを指摘。サーモン需要の高まっていて、養殖漁業の存在感が増していると言います。

 さらにサーモン養殖の経費のうち6割ほどを占めるのが飼料代。しかし、その飼料に使われる魚粉は近年、高騰しています。2020年は1キロ150円ほどでしたが、24年には1キロ260円になりました。

 人々から絶大な人気を誇るサーモンに課題が山積。小山さんはこれらを解決するために、「世界的な需要に左右されない地産原料」という観点で魚粉に代わる植物性タンパク質を検討。輸入に左右される大豆油かすやコーングルテンミールではなく、「北海道が国内で1番の生産量を誇るジャガイモ」に目をつけました。

 北海道を代表する農作物であるジャガイモ。年に200万トンほど生産されています。そしてこれらの生産されたジャガイモの約半分は、デンプンの製造に回されます。

 その加工の際に出る皮などの残りかすは膨大。このジャガイモの残りかすからタンパク質を抽出したらどうかと考えました。

 しかし、いざジャガイモ由来のタンパク質を混ぜ込んだ飼料をあげてみても、ニジマスはうまく育ちませんでした。「ジャガイモの芽には毒素が含まれていると聞いたことがある人も多いはず」。ポテトグリコアルカロイド(PGA)が、魚の成長を阻害していました。

 この毒素を抜くことはできないだろうか、そんな思いの中、酸で飼料を洗浄することでPGAを低下させる事に成功。魚が成長するようになりました。

 ただ、この酸洗浄ポテト飼料のタンパク質は植物由来のため、必須アミノ酸を含む遊離アミノ酸の量が魚粉に比べて不足していました。必須アミノ酸は魚の成長に欠かせず、栄養素として摂取しなければなりません。

 「エサの25%(をジャガイモのタンパク質に)代替するのは可能。しかし50%の代替は難しい」。遊離アミノ酸を補う手立てを考える必要が生まれました。

 日本有数のホタテの産地である北海道。北海道のホタテは北海道のみならず、国内外で愛されています。しかし、ホタテ加工後に残るのが貝殻と内臓。特に内臓の一部の中腸腺(ホタテのウロ)には重金属であるカドミウムが蓄積していて、その量は1キロ当たり数十ミリ・グラムにも達します。

 有害なカドミウムを除去する方法については、道総研でも30年以上前から研究を実施。長年の研究の末、カドミウム含有量が低くて、遊離アミノ酸が豊富なホタテのウロエキスを開発しました。

 「このホタテのウロエキスをサーモンのエサに加えたらどうか」。遊離アミノ酸が豊富なホタテのウロエキスと50%をポテトたんぱく質を混ぜ合わせてエサを作りました。「20~30キロのエサを作るのに3時間ほどかかり大変」だと小山さん。このエサを与えて飼育したニジマスは順調に成長し、エサのパフォーマンスは従来の魚粉を主原料にするエサと変わらなかったと語ります。

食味は従来の養殖サーモンと変わらない 魚粉エサより重金属の量が減った “北海道のサーモン養殖のロールモデルに”

 同研究のエサは試験段階のため、すこし割高。しかし「量産化することで、(従来の魚粉を多く使ったエサより)安くなる」と小山さん。

 さらに開発したエサには大きなメリットがあると言います。同研究のエサを金属分析した結果、魚粉を主原料に使ったエサに比べヒ素やカドミウム、鉛といった重金属の量が半分以下だということが判明。小山さんは「基準を満たしていてもより低い方が望ましい。大きなアドバンテージになる」と強調します。

 「おいしくなかったら元も子もない」。肝心の味を調べるために、22人のパネラーを対象に食味官能試験を実施。結果、魚粉で育てた魚と、同研究で開発したエサで育った魚の食味には違いが認められませんでした。

 さらに北海道には飼料メーカーがないことを指摘。北海道のものを使ってエサを作り、道内でサーモン養殖を行うことで地産地消を実現し、輸送費の削減や資源循環型社会への貢献、CO2排出を抑制できると言います。

 小山さんは「我らが北海道 持続可能な社会に資するロールモデルに」「この大地を舞台にしたサーモン養殖業の勃興」という2つのスローガンを提示。今後の研究・開発への意気込みを語りました。


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