2024年上半期 わたしの好きな映画ベスト10
2024年上半期は新作映画を、映画館で50作品、配信で1作品鑑賞しました。その全51作品の中から、「面白さ」「出来の良さ」の優劣でなく、「わたしの好き度」を基準にして、ベスト10のランキングを作成しました。
(参考リンク→2024年の映画鑑賞リスト)
この記事では、ランキングを明示したうえで、順位づけした理由を赤裸々に書いていきます。選定基準がいかにでたらめかがよくわかり、そこそこ面白いことになる予感があるので、是非読んでみてください。なお、ネタバレには最大限配慮しますが、セーフ/アウトの線引きは十人十色ですので、ジャッジが厳しいと自覚のある方は読まれないことをオススメいたします。
それでは早速はじめます。
■10位:『VESPER/ヴェスパー』
かなり小ぢんまりとしたSF映画なのですが、マーベルやスター・ウォーズなどの大規模SF映画に慣らされているからこそ、逆に新鮮で楽しめました。作中世界のテクノロジーも、メカニカルというよりバイオロジカルで、植物的なものを主とした有機物がベースになっているのが個性的。SF映画の表現が画一的になりつつある中で(といってもSF映画にさほど詳しいわけではないですが)、独自の表現を創意工夫で作り上げているのが、好きになったポイントです。
本当は上位4作品くらいの中に入れたいくらい好きだったのですが、「そういえば連載漫画の打ち切りみたいな終わり方だったな……」と思い出し、つい理性が働いて10位にしてしまいました。「実写版ナウシカ」と称す評もあり、監督も宮崎駿からの影響を公言している作品です。万人受けはしにくいかもとも思いますが、興味があれば是非観てみてください。
■9位:『HOW TO BLOW UP』
巨大資本による環境破壊で身内を亡くした者、住む場所を追われた者や、環境活動家など、若者を中心としたグループがアメリカの巨大な石油パイプラインを爆破する作戦に挑むノンストップ&スリリングな映画です。群像劇風で構成や編集も凝っていて単純に面白かったのですが、「資本主義が暴走した人類の生産活動によってもたらされる環境破壊」に豪快にNOを叩きつけるということもあり、まぁ、なんていうか、個人的にスカッとしたというか……。いや、一考の必要がある、議論を前提として作られた映画だということはわかってるんですが……。でも好き……で……。その葛藤でこの順位となりました。
16mmフィルムの映像の質感、砂漠地帯のロケーションも美しく、そこにも魅入られました。黄昏時に屋外で火を囲むメンバーたちのショットはたまりません。
関連リンク→パンフレット感想記事
■8位:『辰巳』
これはもうシンプルに面白かった。小路監督のあふれんばかりのハリウッド映画愛・ジャンル映画愛がぐつぐつ煮込まれたような集大成的作品で、とにかく楽しめる映画でした。なんといっても登場人物が全員いきいきとして魅力的。顔のクローズアップが多用されるなど演出面の効果も多大にあるのでしょうけれど、俳優たち全員演技が素晴らしいし、映画の中の世界で、あるいはこの現実の世界のどこかで生きているのではと思えるほど。女性キャラクターがパワフルなのも最高でした。
全体的にエンターテインメント性を重視した作劇だとは思うのの、かと思えば「貧困で追い詰められた者“たち”の悲哀」という現代社会の影を見せてピリッとさせるところも好みでした。この作品はランキングのどこかには入れたいと思っていて、ウーンと悩みに悩んだ結果、ここに落ち着きました。
関連リンク→パンフレット感想記事
■7位:『ゴッドランド/GODLAND』
序盤で結構な睡魔に襲われて、鑑賞直後も「ほどほどに面白かったな……」と微妙な反応だったのに、3ヶ月経ったいま、なんかかなり好きになっていて自分でも驚いています。当時は自覚がなかったものの、鮮明に記憶しているショットが膨大にあるんですよね。なによりも、畏怖の念を抱かされるアイスランドの大自然の様々な表情と、その自然に飲み込まれるちっぽけな人間の姿が、じわじわと私の急所に届いたようです。鑑賞中に感動して泣いたり笑ったりして、終わっても満足感に包まれて、「今年ベスト!」と確信したような映画が、消化が良すぎたのか後日思い返した時に心にあまり定着していないことに気づくことがあったりするんですが、まさにその逆のような映画です。
そもそも画面アスペクト比がスタンダードで、大自然に囲まれるシチュエーションで、人同士(男同士)が愚かな争いをする、という点が、私の大好きな映画『ライトハウス』を彷彿とさせ、それが鑑賞する動機だったのでした。本作のエンドロールで流れる歌のタイトルが「燃えろ、灯台たちよ」(灯台=ライトハウス)だったのも、偶然なのか必然なのか、やっぱりなんか好きなんですよね〜。
関連リンク→パンフレット感想記事
■6位:『すべての夜を思いだす』
今年の上半期は、じんわり心が温かくなるようなやさしい映画が豊作だったなあと思っています。心に傷を負った者たちが互いに相手にとっての星となりいつか夜明けを迎える希望が描かれた三宅唱監督作品『夜明けのすべて』や、舞台の土地を主人公のひとりとしてその土地や自然の記憶に触れながら人が繋がってゆくバス・ドゥヴォス監督作品『Here』など、どれもベストに入れたいほど素敵な作品でした。それと同系統、といってしまうといささか乱暴かもしれませんが、この『すべての夜を思いだす』もまた近しい魅力を持った作品だと思っていて、ベストにどれか一つを入れたいと考えた結果、本作を選びました。
決め手は、映像や物語がコントロールされすぎておらず開かれた印象でより自由に感じたこと(実際には素人の私にはわからないだけでしっかりコントロールされているのでしょうけれど)と、こちらが脱力するような人間の天然ぽさが表現されていて笑えたこと(私の好み)、様々な楽器(モノ?)を使用した無軌道にも感じられる不思議な劇伴など、でしょうか。それこそ、記憶と反響の本作が、最も私の心の記憶に残りずっと反響しているといったかんじで。
関連リンク→パンフレット感想記事
■5位:『悪は存在しない』
こちらも7位の『ゴッドランド/GODLAND』と同様、観た直後は「面白かったなー」くらいで「好き!」という感じではなかったのですが、いま、かなり好きです。これを書きながら気づいたのですが「デンマーク→アイスランド」と「都心→自然豊かな村」とか、ラストの展開とか、結構似ている映画かもしれないですね。笑ってしまいました。ということはこういうラストが好きなのか、私……。確かに、不穏なまま終わる映画は好きになりがちかも……。
まぁとにかく面白かったです。ミステリアスな印象を残す作品でありながらも、随所にやたらと現実に即したディテールの細かいあるある描写があり、それは時に笑いをもたらすし、あるセリフでは劇場全体で爆笑が巻き起こっていました。一見いびつのようでも、バランスは整っている映画かもしれません。あの棒立ちと棒読み風の発話、吸い込まれそうになりますね。
関連リンク→パンフレット感想記事
■4位:『人間の境界』
特定の地域と国で起こっている(いた)現実の問題をドキュメンタリーとフィクションのハイブリッド風味に撮られた映画で、大いに引き込まれながら観ましたし、語弊を恐れずいえば面白かったのですが、そこまで「好き」な映画ではないです。なのになぜ「好き度」を基準としたランキングで4位なのかといえば、それだけ現在目を向けるべき問題として重く捉えたからということかと思っています。自分のことながら感覚的な話なので推測でしかないですが。
移民/難民、人種差別、ロシアによる他国への侵略と支配、人間/国家がもつ善悪の両義性など、現在まさに全世界で向き合い考えるべきテーマが多分に含まれています。それを群像劇にして、複数の視点で語っていくのが、議論や思考を促すという点で優れていると思います。人間たちの悪意と同量分、善意も描かれていて、絶望だけでなく救いも感じられる作品で、そのバランスの良さも気に入っています。
関連リンク→パンフレット感想記事
■3位:『ありふれた教室』
ここからのトップ3は、素直に「好き」な作品です(10位のVESPERも)。本作に関して言えば、私の「限定された空間の中で巧みな物語の展開によって事態が刻々と変化していく作品が好き」という嗜好にぴったりはまったのが大きいと思います。主人公なりの善意が、次々と裏目に出て転がり続け、胃が痛くなるような展開が、たまらなく面白く、目が離せませんでした。そしてラストに君臨する王の姿がいつまでも忘れられません。
関連リンク→パンフレット感想記事
■2位:『システム・クラッシャー』
3位、2位と、偶然にもドイツ映画が続きました。ほかにも今年の上半期は『関心領域』『落下の解剖学』とドイツが関係する話題作もあり、ドイツが存在感を放っていたように思います。
無条件に好きだったトップ3のうち、1位は即決でしたが、2位と3位は拮抗していて悩みました。しかし考えれば考えるほど、作品のメインカラーでもあるベニーのショッキングピンクや、主人公の少女ベニーを演じたヘレナ・ツェンゲルの実在するのではと思わせるほどの神がかり的な演技、ハイテンポかつ激しいパーカッションにオモチャ感のある音色が重ねられている楽しい劇伴、エンディング曲のニーナ・シモン「Ain’t Got No, I Got Life」などなど、あまりに「好き」なところが多すぎました。作品を、ベニーを、好きにさせるパワーを持った映画です。
関連リンク→パンフレット感想記事
■1位:『オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルト』
どマイナーな作品を1位にチョイスするとは全くあまのじゃくな奴だな、自分は人と違うとアピールしたいだけちゃうの、というツッコミが自分のことながら頭に浮かびましたが、多分違うと思います。正真正銘、最も好きな作品でした。ま、まぁ結果として個性的なベスト10になったのは満更でもないのですが……。
そもそもこの作品、単体の新作映画として劇場公開されたのでなく、全国4都市5劇場で限定的に開催された「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」という企画で上映されたもの。おまけに昨年末に開始の企画なので、2024年上半期という条件にも当てはまるかややグレーではありますね。とはいえ、各種映画データベース系サイトでは「2023年12月22日劇場公開」とされていますし、鑑賞したのも年明けだったので、ベストの対象作品としました。
さらに本作、難解系の映画だと思います。困惑するほどのクロースアップ多用、時間経過の大胆な省略に、過去に遡ったり未来に飛んだりのシーンつなぎ、セリフやナラティブの削ぎ落としなど、とにかく大胆で独創的。登場人物や物語を把握するのが困難で、観客を突き放しているようにも感じ取れるほど。実際わたしも、時系列や、登場人物に起こったことを完璧に読み取れているかというと、正直自信がありません。
しかし、それ以上にこの映画には神秘的な魅力が溢れています。人物を至近距離から捉えたショットの連続は、観者とスクリーンに映る人物を親密な関係にさせる効果があるように思いました。特に、人物の肌、髪の毛、衣服の布、土、水の接写と、それに触れる手のアップは、わたしの触覚に訴えかけるようでした。
また、自然を強調しつつ、生き物の生と死が濃厚に描かれていきます。水は始まりも終わりもなく、たとえば土に染み込み、植物や動物の体内を経るなどして、人間の中に取り込まれ、何らかの形で排出され、それがまた雨となり土に浸ったりと流転し続けるもの。人間は現在も過去も未来も、遠く離れた場所であっても、水や土を媒介として、常につながり合っている。そうした自然と人、人と人の繋がりと、そこにあるぬくもりが、神秘的に感じ取れる、スケールの大きさに魅入られたのでした。
人間や社会が、人や物を何らかの形で暴力的に規定し、枠にはめ、攻撃したり、そこに対立が生じたりするこの世界に疲れてしまったわたしは、こうした自然に回帰するような作品や自由に開かれたような作品が今の好みなのかもしれません。しらんけど。
以上です。下半期も「好き」な映画にたくさん出会えますように!
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