映画パンフレット感想#38 『アイアム・ア・コメディアン』
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感想
“テレビから消えた芸人”ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏を追ったドキュメンタリー映画『アイアム・ア・コメディアン』。村本氏がアメリカでスタンダップ・コメディに挑戦するひたむきな姿や、国や社会から不当に見捨てられた人々と真剣に目を合わせて耳を傾ける姿などに、思いもよらず胸を打たれ目頭を熱くし続ける108分だった。
映画の内容は明快で、パンフレットで知識を補強したり理解を深めたりする必要はないようにも思えたが、村本氏という人間や彼のパフォーマンスに魅入られたこともあり思い切って購入した。実際には劇中で気になったポイントもいくつかあった。
それは、(1)タイトルロゴの「I AM A COMEDIAN」に潜む白文字の「I AM MEDIA」の意図、(2)映画が中盤以降に村本氏の新たな挑戦の延長でなく彼のパーソナルな原点と家族に向かっていった理由、(3)日向監督が前作『東京クルド』で追った日本に住むクルド人から一見それとは異質であるお笑い芸人へと取材対象を変えた理由と共通する監督の作家性、の3点である。結果からいうと、パンフレットはこれらを全て明らかにしてくれた。
(1)の「I AM MEDIA」の謎については、映画監督・作家の森達也氏が寄稿の中で取り上げて推理を展開した上で、「メディア=村本」説を導き出している。また、森氏の説を頭に入れた上で、「ABEMA Prime」チーフプロデューサーの郭晃彰氏の寄稿の一部分を読むと、さらにその説を補強してくれる。一方で、村本氏と日向監督の対談インタビューに目を移せば、日向監督は「自分の人生を重ね合わせて作った」(大意)と語っている。これを踏まえれば、「メディア=日向」説も浮かび上がるのではないか。勿論解釈は自由であるだろうし、思考を巡らせながらそれぞれの記事を読むのも一興だ。
また日向監督のこの言及の前置き部分において(本記事では引用を避ける)、(2)の「映画がパーソナルな原点と家族に向かった理由」の答えになり得そうなエピソードが語られている。またこの話は(1)の「メディア=日向」説の信憑性を補強するものでもある。そして最後に残った(3)も、これは日向監督が村本氏との対談と、監督の手記にて直接的に触れており、疑問が完全に氷解した。
他にも、村本氏がドキュメンタリーがフェイクになる瞬間を肌身で感じたというエピソードが興味深かったり、劇中で村本氏が披露した複数のトークネタが文字に起こされ収録されているが、村本氏の声の抑揚、リズムなどがあってこその面白さなのだと気づきが得られたり、新たな発見がもたらされるパンフレットだった。