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映画パンフレット感想#46 『ロイヤルホテル』

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感想

映画『ロイヤルホテル』は、女性が男性から浴びせられる様々なハラスメントや性暴力の気配に対して感じる恐怖を、女性の視点から描き、観客もまた同じように体感させられる作品だ。その背景には、男性中心コミュニティやそれと親和性の高いアルコールが存在する。

40年弱のあいだ男性として生き、アルコールと馴染み深い暮らしをしてきた身としては、正直にいえば身に覚えのあることもあるし、罪悪感を喚起させられるシーンもあった。この男性としての感覚は長期にわたりあらゆる環境で刷り込まれ、強く根付いたものでもある。映画で描かれた男たちの愚行の恐ろしさを、嫌悪感を抱くほど理解できたとしても、自分が同じような状況に置かれたとき正しく行動できるのか、十分に信用できない自分もいる。その場の空気やアルコールの作用によって判断力が鈍り、悪しき刷り込みが再び顔をのぞかせることがないとも言い切れない。

だからこそ、映画を一度観るだけで済ませず、ていねいに振り返り、作り手や寄稿者らの言葉に触れ、徹底的に思考する必要があると考え、パンフレットを購入した。男性が意識的/無意識的に関わらず女性に対してする加害について何度でも客観的に“知る”必要がある。有害な刷り込みには、刷り込みで上書きしていくしかない。またこのパンフレットは、そうした目的を満たすものであったとおもう。

「振り返る」という点では、映画パンフレット定番のストーリー記事が、あらすじを“全編”網羅しており、大変役に立つ。違和感や恐怖を抱いた印象的なシーンをおさらいすることができた。また、「作り手の言葉」も、キティ・グリーン監督へのインタビュー記事とプロダクションノートだけで、パンフレットの1/3を占めるほどのボリュームとなっており、自力で看取できなかったポイントもいくつか知るきっかけとなった。ただ、監督へのインタビュー内容が製作・制作上の各セクションごとの細かい質問となっていることもあり、プロダクションノート記事の内容と重複している箇所が多数見受けられた。

キャスト記事には、主要3キャラクターに限るが、演じた俳優のコメントが掲載されている。ありがちな宣伝文句や通り一遍の撮影時のエピソードでなく、作品の重要なポイントを示唆するような内容で、深い思考を促されるだろう。実はこのコメント、公式サイトのキャストの項にも掲載があるのでパンフレット未購入の方は是非読んでみてほしい。

なかでも、主演のジュリア・ガーナーが「パブ文化」の有害性について言及していたのには納得感があった。鑑賞中、男性および男性中心コミュニティの有害性/暴力性を理解しつつも、それを助長するアルコールの存在の大きさも気になり、『ソフト/クワイエット』や『アナザーラウンド』等のアルコールがきっかけで事態が悪化する映画を頭に浮かべていたからだ。なお、監督インタビュー記事でも「飲酒文化」について触れられており、作り手側の中でもアルコールの問題にいかに重きを置いていたかがよくわかる。

そのほか、監督インタビュー記事で興味深かったのは、監督のジュリア・ガーナーへの思い入れの深さや、男性キャラクターのキャスティングで「あの映画での演技が良かったから」といくつか作品名が挙がっていたこと。前者は、2作連続で監督&主演タッグを組むのだから相性が良いのだろうくらいには想像していたが、それを遥かに凌駕するほどの親密な表現で語られていた。後者は、パンフレットで是非楽しんでほしいのでここでは引用を避ける。

寄稿記事は3本あり、それぞれに学びになる知識があり読み応えがある。とりわけ映画文筆家の児玉美月氏の論評は、本稿の冒頭で述べた目的にはうってつけの内容で、大変ありがたかった。男性が女性に対してするハラスメント/加害の種類が複数挙げられる箇所では、初めて目にする言葉もあり新たな知識となった。また、「男性が女性にする性的な加害」を描いた過去の映画作品が複数挙げられており、その作品を改めて思い出し復習することにもつながった(過去に観た映画を思い出すのは単純に楽しい)。さらに、本作では「凄惨な性暴力を受ける決定的な局面には至らない」ことから、キティ・グリーン監督の前作『アシスタント』と本作で“ある点”が一貫していると指摘する箇所には、思わず膝を打った。おすすめだ。

おまけ

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