映画パンフレット感想#15 『オッペンハイマー』
感想
豪華キャストが演じる人物が多数登場し、目が回るほどに膨大なセリフと情報が溢れ続ける、上映時間180分の超大作映画『オッペンハイマー』。そんな映画に相応しい、特大ボリュームのパンフレットだった。A4、横開き、全52ページ。映画を観るのも疲れたけどパンフを読むのも疲れた。
記事の種類が多彩で、寄稿もプロダクションノートも一般的な作品のパンフよりボリュームがあるが、最も特徴的といえるのは、「キャラクター&キャスト」の記事。主要キャラクターだけでなく、総勢16名分のキャラクター紹介と、演じた俳優のコメントが掲載されている(2名のみコメントなし)。登場人物が多く、それぞれを著名な俳優が演じ、重要な役割を果たしている本作だからこその必然ともいえるが、有り難く感じるファンも多いだろう。
俳優によるコメントも、当たり障りのないものでなく、それぞれに個性的な独自のエピソードが含まれている。監督への印象が言及されるコメントが散見されるのは、おそらくインタビュアーが全員に共通で質問したからなのだろう。そこからノーランの人物像を想像するのは面白かった。なお、主要キャストのみインタビュー記事も掲載がある。わたし個人的には、印象に残る話は多くはなかったが、ニールス・ボーアを演じたケネス・ブラナーが語った「監督がある有名キャラクターに喩えたオッペンハイマーとボーアの関係性」の話は映画ファンなら楽しめると思う。
ストーリーの情報整理に役立つのは、前述のキャラクター紹介のほか、オッペンハイマー年表、時代背景と用語解説などの記事があり、非常に手厚い。込み入った状況が複雑な構造で語られる本作だからこそ、理解の助けとなるガイドブックといえる。
プロダクションノートは、6ページにわたり、細かい文字でぎっちり詰め込まれている。赤の背景に黒文字なのも相まって、やや狂気を感じる(ちょっとだけ読みにくいかも)。取り上げられたカテゴリーを一部抜粋すると、「製作背景」「キャラクター」「撮影」「衣装デザイン」「音楽」などがあり、全部で10項目にもわたる。私の関心に最も合致したのが「編集」。『シン・ゴジラ』ばりに情報量が多くテンポが速いばかりか、時間軸まで複雑にシャッフルさせたことについて、作り手は一体どう考えていたのだろうと興味を持っていたのだが、そこにも言及があった。
寄稿は、「映画評論家の尾崎一男氏によるIMAXフィルムと映像に特化した解説」「映画監督の李相日氏による映画監督視点の感想」「映画評論家の森直人氏による作品の内容に関する解説」「第二次大戦を経験した映画評論家の秦早穂子氏による戦中の記憶を主とした解説」「素粒子物理学者にして本作の字幕監修を務めた橋本幸士氏の物理学者としての感想」の、全5本。それぞれに印象的な箇所があるが、本記事の字数に歯止めが効かなくなるので割愛する。
といいつつ、少しだけ……。森直人氏の寄稿では、ダーレン・アロノフスキー監督『π<パイ>』と本作の共通点について指摘されているが、森直人氏は現在公開中の『π<パイ>』のパンフレットでも濃密な作品解説を寄稿していたのでその繋がりに密かにニンマリした。また、秦早穂子氏が記した玉音放送時のエピソードには背筋が凍った。戦争が人の目を曇らせ、分断を生んでいる。パンフを購入された方は飛ばさずに読んでほしいところ。
3時間の鑑賞を乗り越えて、「2度は観なくてもよいかな……」なんて思っていたのが、パンフレットを読んで、「もう1度観たいかも……」と気持ちに変化があったくらいには魂のこもったパンフレット。1200円とお高めではあるものの、それに見合ったボリュームと内容であると思う。