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キット・コナーの強制カミングアウトから考える、BLファンも演者も生きやすい世界
私のnoteを見てくれている方は、実写BL作品、特にタイをはじめとする、アジア作品のファンの方が多いと思う。
なので、今回書く出来事を知らない方もいるかもしれないが、実写BLファンの方は是非知っておいてほしい。
実写BLファンが改めて自分の発言や行いを振り返る機会になることを願って。
キット・コナーのカミングアウト
キット・コナーとは、イギリスの俳優で、幼い頃から子役として映画やテレビに出演している。
中でも近年注目を集めたのは、Netflixの(わかりやすく表記するが)BLドラマ「HEART STOPPER」でニック・ネルソン役を務めたこと。
「HEART STOPPER」はイギリスで有名な青春ロマンス漫画が原作で、チャーリーとニックという二人の男の子の恋愛模様を描いた作品となる。
この男性キャラクター同士の恋愛作品にメインキャストとして出演したことで、一部のファンがキット自身のセクシュアリティを詮索し始めたのだ。
それに対して、彼はツイッターやポッドキャストなどを通じて抵抗してきた。
この記事の内容、今回のこととは関係なく、ティーンとは思えないほど大人で聡明で、素敵な考え方だと思ったので、是非たくさんの方に読んでもらいたい。
記事にも記載がある通り、彼は元々自身のセクシュアリティについてカミングアウトをする必要性を感じておらず、公表する予定もなかっただろう。
しかし、先日別作品の女性共演者と手を繋いでいる写真が拡散され、クィアベイティングなのではないかと一部で議論を呼び、更に彼に対する圧が強くなっていった。
クィアベイティング:実際にはクィアではないのにクィアのように見せかけ、話題性に乗っかり、“クィアを釣る行為”とされている。
クィアではない役者などがクィアの役、匂わせる演出をすることに対し使用されることもある。
その世間からの声に耐えかねたキットは、写真の拡散をきっかけに離れていたツイッターを、数ヶ月振りに更新することとなる。
back for a minute. i’m bi. congrats for forcing an 18 year old to out himself. i think some of you missed the point of the show. bye
— Kit Connor (@kit_connor) October 31, 2022
「(ツイッターに)一時的に戻ってきました。僕はバイです。18歳にカミングアウトを強要するとはなんとおめでたいことなんでしょう。ドラマの趣旨をちゃんと理解していない人がいるみたいですね。では」
本人が望んでいない形で、タイミングで、公表に追い込まれたのだ。
「HEART STOPPER」でキットの相手役、チャーリーを演じたジョー・ロックも、このツイートの数日前に(原因は不明だが)ツイッターアカウントを削除するという出来事があった。
オープンリーゲイであるジョーに対しても風当たりは決して弱いものではなく、セクシュアリティを明かしていないキットに対しては更に過酷なものだっただろう。
ファンには出来ないサポートを
この出来事に胸を痛めた人は、私を含め、世界中に何万人といると思う。
「HEART STOPPER」の原作者であるアリス・オズマンや共演者のジョー・ロック、セバスチャン・クロフトをはじめ、同じくNetflixのBLシリーズ「ヤング・ロイヤルズ」でメインを務めたエドヴィン・ライディングとオマール・ルドバリ、タイの人気BLシリーズ「TharnType」で主役を演じたミュー(Mew)など、本当にたくさんの著名人がキットのツイートに応援コメントや反応を寄せた。
I truly don't understand how people can watch Heartstopper and then gleefully spend their time speculating about sexualities and judging based on stereotypes. I hope all those people are embarrassed as FUCK. Kit you are amazing 💖
— Alice Oseman Updates (@AliceOseman) October 31, 2022
でも、こうなる前に何か出来なかったのか、防ぐためにはどうすれば良かったのか、第二の犠牲者を増やさないために、考えなければならない。
今回、彼を追い込むような言及がされたことは、彼自身や本当に彼の意見を尊重して応援している多くのファンにとっては苦しいものだった。
ネットでの誹謗中傷被害は日本でもかなり問題視されているし、(年齢は関係ないが特に)10代の彼に対してセクシュアリティを断定させたがるコメントが良くないのは確か。
しかし、その書き込みをした人たちだって、自分たちの意見や立場を守りたいが故の発言だったかもしれない。
キットが傷ついているのと同様に、批判していた人たちも、同じように傷ついた経験があるのかもしれない。
だからと言って許されるわけではないが、正義の反対はまた別の正義。
批判した人達を批判してしまえば、また同じことの繰り返しだ。
誰でも簡単に、世界中へ意見が発信できる世の中で、群衆の意見を完璧にコントロールすることは不可能。
残念だが表に立つ人間は特に、批判を浴びることは避けられない。
だからこそ、周りの大人達はもっとサポート出来なかったのだろうかと思う。
フリーランスのジャーナリストであるマックス・ガオが寄せたコメントが印象的だった。
Kit, I’m so sorry that it had to come down to this, because you deserved so much better. You don’t owe anyone anything, but I hope you’re doing okay. Please take care of yourself and know that you are loved. ❤️
— Max Gao • 高俊鹏 (@MaxJGao) November 1, 2022
キット、こんなことになってしまって本当にごめんなさい、と。
キットもジョーも、その他の出演者たちも、多くはまだまだ未熟な面だってある普通の若者だろう。
彼らを守るために、矢面に立って批判を受け止めるスタッフや、専門的なメンタルケア、SNSの管理、気軽に相談できる人。
そんな風に頼れる大人はいなかったのだろうか。
もちろん、この世に批判を浴びて良い人なんていないが、例えば昔のハロプロでは、プロデューサーを務めていたつんくさんがファンからのヘイトを買う役だった。
それは、つんくさんがプロデュースする10代、20代の若い女の子達を守るため。
このヘイトを集める役がいなければ、必然的に表舞台に立つ本人達に白羽の矢が立つこととなる。
「HEART STOPPER」というLGBTQを優しく描く作品で、現実世界でのケアを怠っては意味がない。
シーズン2が動き出したばかりだけど、撮影なんてしている場合ではないと思う。
キャスト達が心身ともに健康でいられるために、まずは周りの大人達が動いてほしい。
どうか、彼らが「HEART STOPPER」への出演を後悔しないように。
そしてファンが出来ること
実写BLファンが一番注意しなければいけないこと、それは役と役者の同一視ではないだろうか。
ヘテロ作品でも「このカップル、現実の役者同士でも付き合えばいいのに」と思い発言する人はたくさんいるだろう。
「愛の不時着」や「逃げるは恥だが役に立つ」のように、実際に作品内でカップルを演じた二人が結婚した例もある。
本来は、ヘテロと同じように、「本当に付き合ってたりしないかな~」と気軽に発言し、スルー出来る世界であって欲しいけれど、現実はそうじゃない。
生物の性質上、異性愛者が大半の世の中。
ファン達の実際に付き合っていてほしいという無邪気な妄想に、プレッシャーを感じた出演者は今まで数多くいただろうと思う。
実写BLに出演する役者達にとって、数多く演じた役の中の一つがたまたまLGBTQキャラクターだっただけ。
上記で説明したクィアベイティングという批判もあるが、出演者のセクシュアリティと役は関係ないし、どんな役でも受けたからには演じ切るのが役者の仕事だと私は思う。
それを言ってしまうと、極論、医者も、殺人犯も、高校生も、一般人も、すべて実際に”そう”じゃないと演じられないことになってしまう。
(セクシャリティは中でもかなりセンシティブな問題なので、必ずしもこれらと同じとは思わないが)
だからこそ、ファンが出来る最大の応援は、役と役者を同一視せず、役者の心を尊重することではないだろうか。
ファンフィクションを書きたいのなら、なるべく本人の目に触れないところで、フィクションであると明記した上で書く。
タイでよく見られる”〇〇 is Real"発言も、本人たちが見て楽しめる範囲内で投稿する。
〇〇 is Real:〇〇の中にはキャスト2人の名前が入る。BLドラマでカップルを演じた役者のファンサービスや仲がいい様子に対してコメントされる。
おそらく、ナマモノにうるさい日本では特に、徹底している方が大半だと思う。
しかし、今一度改めて考えてみるきっかけになれば幸いだ。
特にツイッターなんかは、その時のテンションや勢いで投稿が出来てしまうツール。
思考は自由だし止めようがないけど、それをアウトプットしてしまうと責任が伴う。
自分にとっては何気ないたった一言でも、その一人一言が積み重なれば、群衆の意見となってしまうのだ。
「万が一本人がこの発言を見たとして、傷つかないかな、悲しくならないかな」と一歩立ち止まってから発言する、ただそれだけでいい。
ファンは、どんなときでも推しの味方であって欲しいと思う。
以前にもnoteのどこかで書いたような気がするが、キャスト達を叱ったり方向を導いたりするのは周りのスタッフや親、友人、知人達、あるいは法の役目であって、ファンじゃない。
ファンは、推しを一番無責任に甘やかして良い存在。
彼らが少しでも多く笑っていられる世界になりますように。