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品質の良いものが勝つとは限らない

先日ご紹介した、竹下大学さんの新著
『日本の果物はすごい』から、
マーケティング的に興味深い話
ピックアップして紹介させてください。

今日は、第3章「ブドウ」の話から
取り上げてみました。

サントリーの「赤玉ポートワイン」
というのはご存知でしょうか?
原産地呼称の規制に伴い、1973年
以降は「赤玉スイートワイン」
名前に変わっているようです。

このサイトに紹介されている通り、
1907年にサントリーの前身である
当時の寿屋
が売り出したのが、
このポートワインでした。

このワインが人気を博す少し前に、
茨城県の牛久に、日本初の本格的な
ワイン醸造場として知られている
「シャトーカミヤ」が開設されて
います。

「シャトー」というのは、

大規模な自社農園を持ち、ブドウの生産からワインの醸造・瓶詰めまでを一貫して行うワイナリーのみに与えられる、ボルドー流の呼び方

『日本の果物はすごい』139頁

とのこと。

神谷伝兵衛という、伝説のワイン王
作ったこのシャトーは、彼が生涯を
かけて追い求めてきた夢の総決算の
ようなもの。

元々、17歳の時に原因不明の腹痛で
衰弱
していた伝兵衛が、見舞い品の
赤ワインによって劇的に回復
し、
その滋養効果を身を以て知ったところ
から、日本人が誰でも飲める手頃な
価格のワインをつくろうと決意
した
そうです。

その志を、最初は「蜂印香竄こうざん葡萄酒」
という大ヒット商品を世に出すことで
叶えた彼は、更に前に進むべく、
純日本産ワインの生産を実現する
ためにシャトーをオープン
したの
ですね。

婿養子をボルドーに派遣し、本場の
ブドウ栽培とワイン醸造技術を習得

させ、取り組んだ結果生まれた
「牛久葡萄酒」は、ロンドンとパリの
トレードショーでいずれも金賞を獲得

するなど、本場でも認められるだけの
高い品質を実現したようです。

しかし、どんなに本場で認められても、
日本の消費者が喜んで買って、飲んで
くれなくては、商売は立ち行きません

当時の日本人の味覚に合わせた、
甘口のワインである赤玉が市場を席巻し、
滋養効果にこだわった本格志向の
神谷伝兵衛は、商売としては苦しい
展開となったのです。

マーケティングを生業にする中で、
この手の「葛藤」に遭遇することが
ままあります。

本当に体に良いものをつくっても、
結局はより甘くて口当たりのよい
ものや、1円でも安い方が買われて
しまう現実。

お客様が神様で、
お客様が絶対善
お客様の選択こそが正しい
確かにそうなんですが、
どうせ消費してもらうなら
より良い品質のものを届けたい

神谷伝兵衛さんはきっとそのように
考えていたのだと思うのですが、
当時はまだ日本人の舌が本格ワインの
味に慣れていなかった
のです。

このような「葛藤」もまた、
マーケターを成長させる良き薬

あることは間違いありません。

唯一絶対の正解などなく、
その時々、場面場面で正解は
変わります。

そこでどれだけベストを尽くし、
消費者に対して自信を持って
商品を届けられるかが大切
なの
でしょう。



己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。