長府工産という無名の一流企業
「CHOFU」というロゴが、
家の裏手などに設置されている
ボイラーの類に書かれているのを
見たことがある人も多いと思う。
これは、長府製作所のロゴ。
東証一部上場、下関市に本社を置く、
給湯機器や空調機器など、住宅設備
機器の製造販売メーカーだ。
その長府製作所の元社員が起こした
長府工産という会社がある。
同じ下関市の長府という地に本社を
置く「メーカー商社」だ。
(因みに両社は資本関係は全くない。)
その長府工産の社長、伊奈紀道氏の
「奇跡のストーリー」が、佐村河内
事件報道で有名なノンフィクション
作家の神山典士さんによって、本に
なった。
ストーリーに引き込まれ、あっという
間に読み終えてしまったこの本。
ポイントを二つに絞って紹介したい。
その前に「前説」しておくと、
伊奈社長は、以前同社で専務を務めて
いた後に一旦退職し、悠々自適の生活を
送っていた。
しかし、時代の変化についていけない
組織に危機感を抱いた幹部が、
「伊奈さんしかいない!」
と呼び戻し交渉を行い、
社長として復帰したという経緯がある。
その「復帰戦」で、見事な経営の差配を
見せ、赤字を2年で解消し、売上を激増
させて今に至っている。
その経営の様子がありありと浮かぶ
具体的なエピソードの数々は、実際に
同書を読んでいただきたいところと
して、まず一つ目のポイント。
それは、会社を「営業」体質から
「マーケティング」体質へと見事に
転換された点である。
復帰前の同社は、市場が求めている
「エコ、節約、非常時対応」という
価値を提供できず、ジリ貧であった。
これは、元々同社で培ってきた灯油の
燃焼技術を生かすことを経営の中核に
据えるという戦略がもたらした必然の
結果。
お客様が求めているものを提供せず、
お客様に半ば無理矢理、作れるものを
押し付けてきた。
厳しい言い方をすれば、そういうこと
になる。
どんなに灯油の燃焼技術が優れていた
としても、消費者にとってそれが
「価値」となっていなかったら、
早晩行き詰まるのは見えている。
伊奈社長は、これを真っ先に改める
ことに着手。
自社製でなくても良いから、お客様が
求める商品を届ける、つまり「売る」
営業から、「売れる」マーケティング*
へと方針へと大きく転換したのだ。
*本書の中ではマーケティングという
言葉はあまり出て来ない。あくまでも
私の解釈であり、言葉遣いである。
更に、営業マンに顧客との勉強会を
開くようにさせ、とにかく業界の中で
一番勉強熱心な集団を創り、顧客が
知りたいことに即座に、徹底的に応答
出来るようにしていった。
正に「ソリューション営業」であり、
「マーケティング」そのものと言い
換えてもよい活動と言える。
こうした体質転換を、就任後速やかに
決断、実行していったことが、同社の
躍進に大きなプラスとなったことは
間違いない。
ここでもう一つのポイントを挙げよう。
それは、本のタイトルにもなっている、
「社員の幸せを創る」という意識の
置きどころである。
「社員ファースト」と言い換えても
よい。
この話を始めると、かなり長くなりそう
なので、明日に続けることにしたい。