三方よし、四方よし、八方よし
近江商人の「三方よし」は、
商売上大切な原則を説いたものと
してつとに有名だ。
「三方」が意味するのは、
「売り手」「買い手」「世間」の
三つである。
これに、時間軸を加えて
「将来もよし」
とした「四方よし」を提唱するのが
伊那食品工業の最高顧問である
塚越寛さん。
以前にこちらで取り上げさせて
もらった。
こちらが、その「四方よし」を塚越さんが
語られている著書である。
この「四方よし」でもまだ足らず、
「八方よし」を語られている経営者が
いらっしゃる。
つい先日こちらでも取り上げた、
鎌倉投信創業者の新井和宏さんである。
近江商人の活躍した頃は、まだまだ
ステークホルダーが少ない時代。
しかし現代社会では、ビジネスの
複雑性が増しており、利害関係を
持っている存在がとても増えていて、
三方、四方では足りないと考えた氏は、
考え抜いて「八方よし」を理念に
据えようと決めた。
その「八方」とは、
「従業員」
「取引先」
「顧客」
「株主」
「地域」
「社会」
「国」
「経営者」
である。
「売り手」=「従業員」+「経営者」
「買い手」=「取引先」+「顧客」
「世間」=その他4つ
という具合に、あえて「三方」の中に
組み込むことも可能ではある。
ただ、そこはやはり敢えて切り出した
方が経営理念として正しいだろう、
との価値判断があったと思われる。
新井さんは、鎌倉投信を
「いい会社」
に投資するという基準を設けて
マネージして来た。
当然、鎌倉投信自体も、「いい会社」
であろうとして来たはずだ。
その「いい会社」というのが、
売上とか利益とかの数値で測るのでは
なく、友だちを応援したくなるような、
そんな気持ちにさせられる、質的な
評価でもって測ろうとされてきた。
言い換えれば、数多のステークホルダー
から好かれ、その存在意義を認められ、
「この会社には頑張って欲しい」
「是非存続して欲しい」
「ずっと商品・サービスを使いたい」
と思ってもらえる会社に投資すると
いうことだ。
だからこそ、各々のステークホルダー
を「三方」の中でまとめて扱わずに、
「八方」に分解して把握しようと
考えられたのだろう。
並んでいる順番にも意味がある。
まず真っ先に「顧客」や「株主」では
なく「従業員」が来ているのは、
下記、約1か月前の日経新聞の記事にも
「社員ファースト企業」が業績を伸ばして
いるとして取り上げられており、最近の
トレンドと言ってよい感もあるが、
鎌倉投信の取り組みはかなり先進的
だったと言ってよいはずだ。
最後に「経営者」が来ているところが、
とても奥ゆかしい。
その前の「七方」が全て喜んでくれる
状況をつくれたなら、きっと経営者は
悔いのない経営ができていると言って
間違いないのではあるまいか。
最初に「八方よし」と聞いたときは、
「四方よし」のパクリ!?という
必ずしもポジティブではない印象を抱いて
しまったが、話を聞くと確固とした哲学に
裏打ちされていて、最初にそんな印象を
抱いた自分が恥ずかしくなった次第。
身近なところから喜んでいただき、
その喜びの輪を少しずつ、着実に広げ、
それが最終的に自分に返ってくる。
自分が経営に関わる組織においては、
是非とも取り入れるべき思想だと
感ずるところである。