買いたくても買えないシャープペンシル
「ロシア政治経済ジャーナル」という
息の長いメルマガを書かれている
北野幸伯さんが、
「日本企業の進むべき道」と題して
とある企業の紹介をしていました。
会社の名前は、野原工芸。
木でできた筆記具などを制作、販売
している企業です。
中でも、北野さんのご子息が欲しいと
念願しているのが、シャープペンシル
だそうです。
しかし、木曽の山奥にあるこのお店、
入店するにも制限があって、
今からだと早くて7月以降しか
チャンスがありません。
一日3組限定、毎月はがきによる応募を
抽選でさばいているという状況なのです。
オンラインショップで買おうにも、
ボールペンにせよシャープペンシルにせよ
すべて「売り切れ」の表示。
仮に在庫表示が切り替わったとしても、
「”秒”で売り切れる」のだそうです。
それだけ、野原工芸が作るペンの
出来栄えが素晴らしいのでしょう。
そして、そのことがファンの皆さんに
十分伝わっており、確固とした
ブランディングが浸透しているのだと
評価して良さそうです。
北野さんがメルマガで伝えたかった
ことは、日本企業の進むべき道は
安売り競争ではなく、野原工芸の
ような高いブランド価値での競争で
あるということだと理解しました。
私個人的に、全くもって同感です。
コスト競争力で、インドやアフリカに
勝てる見込みはありません。
中国や東南アジアも、随分と日本との
差が縮まりましたが、まだまだ日本が
有利に戦うには及ばないでしょう。
そうではなく、付加価値をいかに高めるか、
それ以外に勝ち残れる道は残されていない
のは明らかなのです。
野原工芸は、家族経営の小さな会社で、
あえて手を広げずに小さくやっている
からこそ、希少性がより一層高まって
いるのは間違いありません。
大量生産で同じ品質を保つことができる
のかどうかは、私もあずかり知らぬところ
なので、いい加減なことは言えませんが、
仮にそれをやってしまったら、間違いなく
供給量が増え、価格は下がります。
そうすると、途端に有り難みが減り、
今ほどの熱狂的な人気というものは
持続できない可能性が高いことが
大いに想定されるでしょう。
大量生産に向けた投資を行うべきか否かの
判断は、非常に難しいものです。
自分たちが大量生産に動かなかった場合、
仮に他社が大量生産に成功したら、
根こそぎ需要を持っていかれるリスクが
存在するわけですから、そう簡単に
決断できるものではありません。
しかし、そもそも大量生産が難しい、
あるいは大量生産することで何かしら
本来の価値が失われてしまうような
事態が生じるのであれば、少量生産に
よる希少価値アップへの強力な説得力が
生まれることになりますよね。
もちろん、いつどこでイノベーションが
生まれるかは分かりませんから、
永遠にそのようなポジションを維持し
続けられる保証もありません。
それでも、現在の希少価値の源泉を
しっかりと見つめ、お客様からの評価に
絶えず晒されつつ品質を維持向上すれば、
極めて高いブランド価値を創造し、
それをテコにビジネスを継続できる
安定した基盤が作れるでしょう。
野原工芸の木製筆記具の数々は、
そのような極めて高いブランド価値の
創造に成功した理想的な一例として
挙げられると言ってよさそうです。
己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。