見出し画像

「ブラジルの歴史を知るための50章」 伊藤 秋仁 ・岸和田 仁(編著) 書評 布施直佐 月刊ピンドラーマ2022年10月号

タイトルの通りブラジルの歴史を知るための主要事項がコンパクトにまとめられており、何より説明のわかりやすさに驚かされる(編著者は月刊ピンドラーマで「ブラジル版百人一語」を連載している岸和田仁氏と京都外国語大学教授の伊藤秋仁氏)。

ブラジル「発見」から共和制までのポルトガル、フランス、イギリス、オランダが絡み合ったややこしい時期の動きや、16世紀の砂糖生産に始まり、金・コーヒー・ゴムと、新たな輸出品が登場するごとに人口が移動し都市が隆盛し、政治権力の担い手が変わってゆく仕組みも、当時の海外情勢と絡めて簡潔かつ要所を押さえた解説がなされ、今まで日本語で書かれたブラジル史を読んでもわかりづらかった部分がすんなり理解できた。

新発見の資料、新たな史観による人物・出来事の再評価が随所で紹介され、たとえば16世紀初頭から19世紀後半までにアフリカからアメリカ大陸へと連れ出され生きて到着した黒人のうち45%はブラジル(アメリカ合衆国は4%弱)に入った事実(ここ20数年間の研究でわかった)などはブラジル人でも知っている人は少ないかと思われる。

ブラジル社会と日系移民との関わりにもいくつか章が割かれており、中でも最近、国際的な注目を集めているトメアスー式農林複合経営(SAFTA)が成り立ちの経緯を含めて詳しく紹介されている章が興味深かった。

カルドーゾ、ルーラ、ボルソナーロの3人の政権の特徴を、経済面(大きな政府か小さな政府か)と政治面(価値観の多様性に寛容か不寛容か)の両軸で評価したマトリクスを元に分析した章は大統領選挙を目前に控えた今、切実な関心を引いた。

50章の本論のほかに17のコラム(半分以上は岸和田氏が書いている)が設けられており、食べ物(フェイジョアーダのルーツ、シュラスコの歴史)、ファミリー史(ブアルケ家、イタリア移民)、ディアスポラ(ユダヤ人、解放奴隷、コロニアセシリア)、サッカーに見るブラジル社会の背景等々、多岐にわたっており独立した読み物として楽しめる。中でも、ブラジル「発見」当初から現在まで、ブラジルを訪れた外国人が見たブラジル像がコラムの中でいくつも紹介されており、これまた興味深い。

・植物学者マルチウス(19世紀)
「この偉大な河(サンフランシスコ河)は、ドイツからの旅人をしてライン河をおもいださせる」

・博物学者ダーウィン(19世紀)
「(リオの宿泊先について)イギリスの小屋やあばら家でもこれほど完全に居心地の悪いものは見られないと思う」

・渋沢敬三(20世紀半ば)
「南米のポテンシャリティーは地下から地上から大声で人類によびかけている」

ブラジルの歴史をちょっとのぞいてみたい人から、今まで以上に深く学んでみたい人まで広くお勧めできる一冊だ。

(下の写真をクリックすると楽天ブックスのページへ行きます)

「ブラジルの歴史を知るための50章」
伊藤 秋仁 ・岸和田 仁 編著 
明石書店 2022年 
404ページ
2000円+税

布施直佐 (ふせなおすけ)
月刊ピンドラーマ編集長

月刊ピンドラーマ2022年10月号
(写真をクリックすると全編PDFでご覧いただけます)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?