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『科挙 中国の試験地獄』を読んだ

読了日不明。8月後半から9月前半のどこかだとは思う。宮崎市定著、中公文庫。

科挙制に興味があって読んだ。中国全土の膨大な人口が官僚登用を目指して殺到する、その想像を超えたダイナミックさに惹かれたのかもしれない。

受験者は、現代でいう予備試験のようなものも含めて幾回も試験を受ける。最低第十次試験まで受けなければならない時代もあった。受験者達の並外れた精神力を思うと気が遠くなる。実際受かると、そのあまりの嬉しさに気が狂う者までいたらしい。

詩の判定基準はある程度試験官の主観に左右されるので、日頃から品行方正にすることで試験本番のための運を蓄積しておこうという発想が、非常に儒教的で興味深かった。受験者に怨みのある人間が試験中に幽霊となって現れるという怪談が数多く例示されていたが、これらは上記の儒教的観念の証左となるものだろう。日頃の素行が試験本番の自身の状態を左右するのである。

科挙とは別に、武科挙という武官登用のための試験もあったようだ。しかしこれは今でいう「脳筋」のような扱いを受けており、科挙と比べると大いに軽んじられていた。

初めて知ったことを挙げ連ねるとキリがないのでここらでやめておくが、科挙の実態を知りたいひとはこれを読めばおおよそのことは掴めるのではないかと思う。少なくとも1984年の出版当時、研究者が一般向けに著した科挙の本は本書のみであったということだ。

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