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『ピエール瀧の23区23時』〜セカンドシーズン 荒川区編

ピエール瀧が東京23区の各区を夜中に散歩したら一体何が起こるのか?!という自由徘徊実験企画。決まっているルールは“23時になったら写真を撮る事”“100円自販機を見つけたら興味本位で味見をする事”のふたつ。それ以外は基本行き当たりばったりのゆるゆる企画。ファーストシーズンは2010年に開始。その模様は『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター/刊)として2012年に書籍化されている。10年後の2020年、セカンドシーズンがスタート。

荒川区編

23区_荒川区

日比谷線南千住駅スタート

−では、始めていきましょう。第一回目は荒川区です。昭和7年(1932年)に南千住、三河島、尾久、日暮里の4つの町が合併して誕生しました。今日はこれから、南千住仲通り商店街にある劇場「アトリエ5-25-6」を所有しているgekidanUの代表、遠藤遊さんに案内してもらう予定です。

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東京メトロ 南千住駅

瀧:実は今どこにいるのか全然わかってない(笑)。上野の近くとか?

−南千住は、荒川区の右端で、足立区・墨田区・台東区と面している位置関係ですね。

瀧:南千住駅前にはちゃんとでっかいビルがあるんだなあ。お、いきなり知らない人(像)を発見!

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松尾芭蕉像

−これは松尾芭蕉ですね。

瀧:芭蕉? なんで芭蕉なの? なんか書いてある。『元禄二年(1689年)三月二十七日、松尾芭蕉はここ千住の地から、奥の細道の旅へと出立しました。』マジっすか!『この像は矢立初めの句を詠む芭蕉の姿を表現したものです』と。“矢立初め”ってなんだろうね?

−(スマートフォンで検索)“矢立”は筆と墨壺を組み合わせた携帯用の筆記用具一式のことで、芭蕉が腰につけてるのがそうですね。ここで“奥の細道”の最初の句を詠んだから“矢立初めの地”と呼ばれているようです。芭蕉は当時深川に住んでいたようですから、ここを東北への入り口ととらえ、日光街道を歩いたんでしょうね。ちなみに芭蕉は三重県の伊賀出身です。

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瀧:ふーん。あ、一句書いてあるね。「行く春や 鳥啼き魚の 目は泪」、それと「荒川区俳句の街宣言」って書いてある。ていうことはよ、荒川区の小学校は学校で俳句を詠む授業とかやってんじゃないのかな? 逆に、ここまで言っといて、やってなかったら俺許さないよ(笑)。そういえば芭蕉ってさ、奥の細道に行ってから有名になったの?

−(引き続きスマートフォンで検索)いや、伊賀上野にいた頃からもう弟子がいて、その人と住んでいたみたいですね。

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瀧:そうなんだ。松尾芭蕉って、服部半蔵説あるよね。それくらいの健脚じゃないと、当時のあの年齢であの距離を歩けないよねって。じゃあ俺も今夜の最後に一句詠むよ。だって荒川区長がそう宣言してるんだし、次世代まで続けようって言ってるわけじゃんか。

−そうしましょう。では、劇場に向かいましょうか。瀧さん、荒川区は遊びに来たりしますか?

瀧:全然ないね。俺にとっては、「伊集院の地元」ってくらいの印象しかない。前から思ってるんだけど、皇居より西の地方出身の人は、皇居より東には住まない気がしてるんだよ。

−確かに、東側に住んでいる人は、地方出身でも埼玉県や茨城県出身の人が多い気がします。

瀧:そうでしょ? 俺もあんまりこっちに住んでみようと思ったことがないんだよね。静岡から東京に引っ越してきて、ただでさえ他所者なのに、この辺に住んじゃうと余計に他所者感が増しちゃう気がしてさ。もちろん住んでみたい気はあるのよ。人が優しそうっていうか、サッパリしてそうだし。お祭りとかも楽しそうだしさ。しかしここら辺は本当に普通の商店街だね、ここに本当に劇場があるの?

−はい、民家を改装して劇場にしているそうです。

瀧:あそこ夜中なのに爆笑しながら子どもが走ってる、良いトコだね(笑)。コレ何だろ? あ、「えがおの棚」って書いてある。何のことだろう。あー、物々交換するところだ。「不要となったものはこちらに自由においてください、必要なものはご自由にお持ちください」だって。

棚
えがおの棚

−なんか持っていきます?(笑)

瀧:いやいや、俺のための棚じゃないでしょ(笑)。これはなんだ、ハンガー? で、こっちはちょっとしたご飯いれる御櫃か。「防犯カメラを設置しました」だって。

ゴミを捨てる人もいますからね。

瀧:そっか、きっとそういう人もいるよね。捨てるのにお金取られるんだったらここにって。そういうのは良くないよねえ。あと余計なお世話だけど、夜ここに取りにくる人もいるだろうからさ、明かりつけておいてあげればいいのにね。小っちゃい電球でも良いからさ。こういうシステムってタイの街角とかにもあるよね。

棚コラ

−あと、駅に本が置いてあったりする場合もありますよね。

瀧:あるね、あるある。あれは良いよね、本を交換していいよってやつ。そんな物々交換が出来る場所もあるし、住宅街と商店街のグラデーションがある通りだね、ここは。

住宅街道

案内人の元へ到着

−劇場が見えてきました、あそこですね。

家外観

瀧:完全に家じゃんか。劇場なのここ?ただの住宅街の一軒家じゃん。二階の窓のとこ、誰かギター弾いてるのが見えるわ。ピー!ピー!(瀧、指笛を鳴らす)

劇団員:(窓を開けて出てきて)あ、こんばんはー、よろしくお願いします!今、降りますね!

ベランダ

瀧:こんばんは! 今のキミ、マイケル・ジャクソンみたいよ(笑)

−こちら、劇場主でgekidanU主催の遠藤遊さんです。

瀧:こんばんは。はじめまして、ピエール瀧です。

遠藤:はじめまして、遠藤です。

遠藤バストショット

瀧:ここで壁に映画映して、みんなで観たいね。激ヤバカルト映画とかは厳しいだろうけど、ジブリとかならさ(笑)。あの「3」て壁に書いてあるのは何?

遠藤:昔、演出で書いてそのまま残ってる感じですね。ここで喋るのもなんなので、上がっていただいて…。

−(道の方に目をやり)あれ?今、裸で自転車漕いでる人が通りましたね…。

瀧:マジで? 嘘? 全裸で?

下も履いてなかったですね…。

遠藤:ああ、この辺はそんな人ばっかりですよ。あ、瀧さんこちら、ウチの100円自販機です。この贅沢メロンラテを是非飲んでください。

メロンラテ

瀧:メロンラテがオススメなのね。紀州の梅とかも気になるけど、じゃあオススメいっとこうか。とりあえず買っておいて……これを飲みながら中で話を聞こう。では、お邪魔しま~す。

(玄関を見て)

瀧:家じゃんか! 完全に。しかも、「呪怨」に出てくる家じゃん!奥菜恵やのりピーがギャーと叫んで、そこを子どもがスーッと通り過ぎるんでしょ?(笑)

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遠藤:(笑)まず一階を案内します。和室をこんな感じで、機材庫にしてるんです。

瀧:あーなるほど、機材庫にしちゃうと怖くなくなるね。

瀧:この家は借りてるの?

遠藤:ここは僕の家族の持ち家なんです。元々は祖父の家で、今はもう僕も住んでいないんですけど、17歳の頃からここで一人暮らしを始めました。

瀧:自分の家なんだ。じゃあ自分の家を改造して、劇場にしてるのね。

遠藤:そうです。この部屋、最近発見したんですけど、謎の床下収納がありまして。……これです。

秘蔵っ子
秘蔵っ庫取説

瀧:おお、すげえじゃん。ここも元々ついてたの?

遠藤:そうみたいです。お婆ちゃんに連絡してみたら、「なんか権利書とか入ってなかった?」って言ってました。

瀧:そういう権利書とか物騒目な物を隠しとくとこだったんだ。コレ、人も入れちゃう広さだよね。えーっと、ナショナル住宅製。名前が「秘蔵っ庫」って言うんだ(笑)

遠藤:次に二階へどうぞ、上が劇団のアトリエになってます。今日は他の劇団員も呼んでます。

瀧:じゃあ行っちゃおうか、ちょっと失礼して。うわ、二階は結構暑いんだな。お、みなさんいたいた。こんばんはー!

一同:こんばんはー!

劇団員たち

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