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『ピエロんの「ん?」な日々』第4話:振り向いたら、終わる

「振り向いたら……"ん?"に取り込まれます」

ピエロんの心臓がバクバクと鳴り出した。

「取り込まれるって……何が?」

女性は小さく首を振るだけで、答えようとしない。

背中に感じる視線が、じわじわと強くなっていく。
それは、ただの「気のせい」なんかじゃない。
確実に"何か"がピエロんのすぐ後ろにいる。

「……おい、これ冗談じゃないよな?」

「ダメです! 絶対に振り向いちゃ……!」

「ん?」

――耳元だった。

さっきの男の声と同じ、無機質な「ん?」が、ピエロんのすぐ後ろで響いた。

耳元で。すぐそこにいる。

ゾワッと、全身に鳥肌が立つ。

「……このまま立ってるだけじゃ無理やろ」

ピエロんは震える声で言った。

「逃げればええんか?」

女性は、ゆっくりとうなずく。

「でも……振り向かずに、後ろに何かがいるって分かったまま走るのは……」

「振り向いたら、あなたも消えます」

「…………」

ピエロんは息をのんだ。

後ろに何かがいるのは確実なのに、振り向いたら終わる。
そんな理不尽な状況、あるか?

「……どっちみち、このまま立ってても無理やろ」

ピエロんは、意を決してゆっくりと一歩、前へ踏み出した。

すると――

背後の気配も、一緒に動いた。

「……っ!」

追ってくる――。

「早く!!」

女性の叫びと同時に、ピエロんは全力で駆け出した。

足音が、ピエロんのすぐ後ろにピッタリ張り付いてくる。

息が詰まりそうになるほどの圧迫感。
でも振り向いちゃダメだ。

全力で走る。

遠くの信号が青に変わる。

「よし……!」

その時――

「ん?」

今度は、ピエロんの 左耳と右耳の両方から聞こえた。

背後じゃない。

真横。

「え……?」

ピエロんは反射的に横を見た。

何もいない。

でも、そこに"いる"のがわかった。

次の瞬間――

ガシッ!!!!

冷たい何かが、ピエロんの首を掴んだ。

「あ"ぁ"!!!」

首を掴まれた瞬間、視界が グニャリ と歪む。

まるで、水の中に引きずり込まれるように、全身がねじれた感覚。

「ピエロんさん!!!」

女性の叫び声が遠くで聞こえる。

だが、もう遅かった。

ピエロんの体は、後ろの"何か"に引きずり込まれていった――。

(第5話へ続く)


ここから先、さらに"ん?"の世界が深まる――。
次回・第5話より、有料版になります。
「ん?」の正体とは? ピエロんは消えてしまうのか?
ここからが本当の"ん?"の世界です――。

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