街の選曲家#Z1ZZZ1
なにかしらの表現で、そのときの思いを残せればいい。それが音楽ならどんなにいいだろうか。音楽好きの思いが重なって、楽器をやる気があり、好きで続けられるのならできなくはないし、誰だって鼻歌くらいは歌えるだろうと考えてみた 。アーティストの楽曲にもそういうもはあるのだろうか、そんなことを考えれば歌詞にたどり着く。そのときの思いではなく、夢の世界の話や現実的な恋愛の話、歌詞では如実に表現されていて感じることもできる。しかし私のプアな思考では解釈の齟齬があるかもしれないね。それなのに私は抽象的な歌詞が好きだ。現実的な歌詞は特に恋愛や愛、いわゆるプロテストソングに多いと感じる。その直球さが私には聞いていて少し恥ずかしい。だが聞いていると好まないにしても分かりあえそうな曲もある。実際聞いているのだけど、避けているようだと損しているね、そういう性癖がなければもっと何かにたどり着けるのだろうか、という思いもある。それでもこればかりはどうにもならないね。ただのとりとめもない話。
Tumbling - taffy
いつものようにリコメンドから知ったバンドの楽曲、リコメンド元が洋ロックだったので、聞いたときには海外のガレージバンドかと思った。それがtaffyとの出会いで、後に調べてみると私が遭遇した"Lixiviate"というアルバムは二枚目のリリースとなるようで、しかも彼らはイギリスでブレイクした日本人のバンドということだった。例によって遭遇して聞いて気に入ったとしても、その音楽サブスクリプションに一枚目があればそっちを聞くはずだった、だがそのサブスクリプションには存在していなかったようで、"Lixiviate"というアルバムを重点的に聞いたという流れだ。私にとって突き抜けたLOVEというものではないが、最初に出会ったときにとてもいい感じでいい印象があり、聞いていればどんどんと気に入っていった。
オルタナティブロックというくくりなのだろうが、ガレージロックの雰囲気が十分にあって、ブリットポップの雰囲気も感じる。一聴するとシューゲイズ風にも聞こえたりしたが、その一つのジャンルの中の複数のサブジャンルのようにいろいろな顔を持つ。ただ私が頭でっかちに聞いているだけかもしれないし、答えは何でもいい。基本的にはオルタナティブロックのくくりで、実際はインディーロック、そしてガレージロックの雰囲気がただよっている。いかにも商業化されているような音ではなくて、バンドメンバーで好きにやっているという感じがいい。私は使わないが、人によっては演っているという字を当てたりするやつだ。そういう雰囲気がいい。この曲は聞いていてやっぱりギターの存在が一番重要と感じ、気に入っている。もちろんボーカルもコーラスも好きで、力強いドラムやちょっと独特な音のベースもいい。だが、やはり思うのはガレージロックの雰囲気が漂うスタイルだ。いわゆるガレージロック・リバイバルというものだろうが、言葉や概念だけではなく、歌や演奏がストレートに伝わってくるイメージなのだ。それがとても心地よく、ボーカルの声や演奏がとても温かみというのもおかしいが、商業化されてないようなイメージというのも、完成されていないわけではないこの楽曲は、ひとつの緩やかな完成系を表しているような気がするのだ。自分でも思うが、なんという面倒な言い回しだろう。
You Keep Me Hangin' On - The Supremes
今でこそスプリームスだが、私が知った頃はザ・シュープリームスと呼ばれていて、レコードにもそう書かれていた。そんな頃から認識していたが、そのときにはすでにダイアナロスさんもソロになっていて、もう大ブレイクしていた。そして制限付きサブスクを利用するようになって、制限的には新譜はそろっていなくても古めの名盤は多数存在し、日本の歌謡曲とかもそうだが、枯れた定番だからということだったのかは分からない。その中にスプリームスを発見した。JBつながりか何かのリコメンドで発見し、ベスト盤を聞いたという流れ。一時期自分でも興味本位で一枚のレコードを買っていてよく聞いていたが、それもベスト盤だった。そして年月は過ぎ、ブロードウェイのミュージカルを映画化したドリームガールズが公開され、当時知人のつてで試写会を見に行った。聞けばその記憶が鮮明に蘇ってくる。それは以前この"選曲家"で、ジェニファーハドソンさんが歌っているドリームガールズの曲について書いたりもしているときも同様だ。その流れを思うとリコメンドはドリームガールズのサントラつながりだったのかもしれない。
この曲は特徴的なギターリフがまず存在し、それをいかにもステレオにしてみました的な音の振りかたで始まる。そしてそこに力強いドラムが入ってくるという鮮やかな構成だ。と、同時にベースとボーカルも入ってきて完成系になってしまったかと思えるが、短い特徴的なギターのリフのイントロからいきなりサビに相当するコーラスに入るタイプの曲で、イントロからギターのリフと、上記のようなシンプルな構成で続くが、Bメロに相当するプリコーラスに突入すると歌にもコーラスが加わり、曲の広がりを感じる。そしてそこでは特徴的なギターのリフからシンプルなコードに変わることによってシンプルで温かい感じの響きに変わるのが印象的だ。曲としてはその繰り返しだが、歌にはコーラスが増え、短いブリッジなども入り、間奏となるインターはない。曲が進むにしたがって歌のコーラスが増え、入り交じり、それはたどたどしいように聞こえる部分もある。だが、その雑然さがとてもいいと思える。完成され過ぎていないよさを感じる。ボーカルのダイアナロスさんの声はかわいらしく、歌詞も聞こえて理解できた部分だけでも多分恋愛のことを歌っているのだろう。女の子の思いを綴った歌という感じなのかなと思い、これはこのグループならではの曲なんだろうなと思い何度もくり返し聞いている。
Moonlight in Vermont - Johnny Smith featuring Stan Getz
以前ボサノヴァの曲を探していたときに絶対に誰も通る道だろうが、"Getz/Gilberto"というアルバムを何度も聞いた。そのアルバムに入っている曲について書いたこともある。"Getz/Gilberto"で抒情的なギターとヴォーカルを披露していたジョアンジルベルトさんもそうだが、彼とともに印象的だったもう一人の主人公であるスタンゲッツさんのサックスもまた静かで寄りそううような情緒あふれる演奏だった。それはジャズというものだろうが、多分"Getz/Gilberto"以降は、本場のボサノヴァでもホーンセクションにおいて新たにサックスが加わったり、すでに存在していたとしても意味が変わったりしたのではないか、と思えるほどだ。そしてそれ以降数々のボサノヴァの曲を探したりもしたが、同時にスタンゲッツさんも目に留まるようになった。そういうときに出会ったのがこの曲だった。
この曲はジャズのスタンダードナンバーらしく本来はボーカル入りの曲で、フランクシナトラさんもカヴァーしているような有名な曲らしい。しかしこの題名の曲は、私にはこれ自体がインプリンティングされてしまった。このインストゥルメンタル版の曲が私にとっての"Moonlight in Vermont"だ。その曲名の"月光のヴァーモント"が表すように、本来は歌詞にバーモント州の美しい自然や風景を月光が照らすようなことが書かれているようで、実際にこのインストゥルメンタルバージョンでも同様のことは感じられる。ヴァーモントと名指しはできないまでも、曲名からそれらに思いをはせることができるし、美しい自然を感じられるようなアレンジだ。ジョニースミスさんのギターの音がヴァーモントの世界を表現していて、そこにジョニースミスクインテットのドラムもベースもジャズを何も知らない私にもジャズを感じさせてくれる。それらと同時に登場するスタンゲッツさんのサックスと、そのハーモニーはとても繊細で、とても広大で、雨と風と雪と山、それに月光が出会うような、そういうものを感じる。ときおりベースの躍動があったり、少ないがクインテットのピアノが登場したり、そこにも突然の自然のようなものを感じてしまう。曲が名曲というのもあるのだろうが、このアレンジはとても心に染みるものだ。ギターとサックスのコンビネーションも素晴らしい。そして実際にはヴァーモントかは分からないが、それでもヴァーモントの大自然を思い浮かべてしまう。とてもこころ落ちつく名曲だと思う。