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【おはなし】 タイトル未② 「白線」

エレベーターの中には、ボタンが3つある。

上、下、真ん中。

僕が知っているエレベーターとは違って、階数はどこにも書かれていない。さっき話した声の主は「地下道」と言っていたので僕は下のボタンを押した。

ウイーン

扉が閉まると機内は左右に揺れてから下降を始めた。時間にして3分も経たないうちに揺れは収まった。カップラーメンが大好きな僕は、時計を見なくても羊を数えなくても正確に3分を測れる特技を持っているから間違いない。

チーン

電子レンジみたいな音が鳴り終えると扉が開いた。僕は機内から外に出た。

天井があり地面のある地下道に僕は立っている。上下共に見慣れた灰色のコンクリート素材が使われている。道幅はそれほど広くはなく、中央に白い線が一本引かれている。僕は左手に壁の存在を感じ、右側の白線を越えないように歩き始めた。

しばらく進むと天井にスピーカーが取り付けられているのが見えた。トンネルの中みたいに赤い非常ボタンが壁に埋め込まれているのも見つけた。ゆるやかにカーブを描く道はスタート地点からゴールが見えない仕様になっている。分かれ道はないから迷うことがなさそうだけど、僕は少しだけ不安な気持ちになってきた。

もう少し進むと制服姿の警備員さんが見えた。近づいていくにつれて輪郭がハッキリとしてきた。警察官の制服を少しアレンジ加工した警備会社の制服みたいだ。帽子を被っているおじさんは僕を視界に捉えると声をかけてきた。

「おはようございます」

「おはようございます」と僕も元気よくあいさつをした。天井が低い地下道では反射した声が遠くまで響いていく。

あいさつ以外は何も言われなかったので僕も何も言わないことにした。おじさんの機嫌を損ねてここからつまみ出されるもの困るし、僕は黙って通り過ぎた。

もう少し進むとエレベーターの入り口が見えてきた。向こう側に上がるエレベーターだろうか。僕はボタンを押して扉を開けようと思ったけど、壁の右側に階段があるのを見つけた。

どうしよっかな。

特に理由はないけど、僕は歩いて地上に出ることにした。

階段の壁側には手すりがついている。エスカレーターみたいにゴールが見える仕様ではなく、踊り場があり何度か折り返して地上を目指すいつもの階段だ。僕はいざとなったらいつでも手すりを持てる状態に左手を添えながら階段を登っていく。

ホッホッホ

降りてくる人とぶつかると困るから、僕は大きく息を吐きながら歩いていく。

「一生懸命に歩いてますよ、でも不審者じゃありませんからね」というギリギリのラインをキープしながら音声を発する。こうしておけば降りてくる誰かと踊り場でぶつかる心配は少ない。

何度か折り返し地点を通過して僕は地上に到着した。

さっき降っていた雨は止み、太陽が空から僕を見下ろしている。地面がまったく濡れてないことを疑問に思った僕だけど、次の瞬間にすっかり忘れてしまった。

ズドーン!!

巨大な音が僕の背中から響いた。まるで宇宙空間から地上に隕石が落下したみたいな揺れを感じる。ビックリした僕は数メートル先にある電柱の影に隠れてから、揺れが収まるのを待ち、ゆっくりと後ろを振り返った。

灰色の煙が舞い上がっている先には、黄色と黒のビニールテープが貼られている。エレベーターのあった場所には、大きな穴が口を開けていた。



『食堂にて』につづくよ

はじまりは『地下道』だよ



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