短編 | 上野のラブホにて
はじめに
この小説は「郡山のラブホにて」の続編ですが、単独でも読むことができます。
(1) ある夏の休暇
ある夏のこと、私は思いがけず、1週間の休暇を得た。突然のことではあったが、このチャンスを満喫したいと考えた。
休暇の初日に、当時付き合っていた陽子と、福島へ旅に出た。時間に若干ルーズな陽子のおかげで、スケジュール通りの場所に行けたわけではないが、楽しいひとときを過ごした。
休暇はまだ3日残っている。私は近場へ遊びに行くことを陽子に提案した。
「じゃあ、ディズニーランドに行こうか?」
「ああ、それはいいかもしれないね。オープンしてから30年以上経ったけど、まだ行ったことがないから」
「えっ?マジ?昔の彼女と一緒に行ったこともないの?」
「まぁ、ことさら避けていたわけじゃないけど、そんなに面白いとも思えなくてね」
(2) ディズニーランド
翌日、ディズニーランドに行くことになった。車でも行けないことはなかったが、渋滞していたら運転が面倒だから、電車で行くことになった。
「昭夫さん、おはよう。初ディズニー楽しみでしょ?」
陽子には珍しくテンションが高めで、しかも遅刻せず、待ち合わせの10分前にやって来た。そうとうディズニーランドがスキらしい。
園の中に入る。とりあえず空いているアトラクションから見て回った。カリブの海賊。最初の「落ちる」ところは若干スリルを感じたが、それ以外は退屈そのものであった。
ビッグサンダーマウンテン。これは怖すぎた。
ホーンテッドマンション。これはなかなか面白かった。お化けが私のとなりに乗っているようで、連続して2回乗った。
イッツアスモールワールド。意味がわからない。何が楽しいんだか。ロスタイム的な感じがした。
(3) 上野のラブホにて
「運良く」、エレクトリカルパレードは強風のために中止となった。しかし、食べたり、グッズの買い物に付き合わされて、けっこう遅くなってしまった。
「せっかくだから、泊まって行こうか?」陽子が言った。
そういう流れで、当時比較的良く行っていた上野で一泊することになった。
私は出入り自由なビジホに泊まりたかったが、あいにく満室で泊まれない。やむなく、ラブホに泊まることになった。
運良く、料金も安いラブホが見つかった。たいていのラブホは従業員と出会うことはないが、私たちが泊まることになったラブホは、おばあちゃんが経営してるっぽいところだった。
「お二人様、一泊ね。こちらの部屋へどうぞ」
ラブホとは名ばかりで、普通のビジホと同じで出入りも自由だという。ひとつビジホと違ったのが、オロナミンCを2本手渡されたこと。
「じゃあ、頑張ってくださいな」
何をどう頑張ればよいか?、ということは理解できたが、あからさまに言われるといささかテンションが下がった。
(4) 疲れていたから
私が風呂に最初に入り、そのあと陽子が風呂に入った。相変わらず陽子の風呂は長い。先に寝ようかと思ったが、女性とベッドをともにするのに、指一本触れずに先に寝てしまうのは失礼ではないか?
そう思ったから、私はベッドに横になったまま、テレビを見ながら起きていた。
いよいよ温もりタイム。さっさとことを済ませようとしたが、ビッグサンダーマウンテンで、手の力を使い過ぎたせいか、うまく装着できなかった。
1個無駄にしてしまった。仕方ない。2個目を使おうか、と思いきや、どうやら1個しか置いていなかったようだ。
「ごめん。今日はできないね」
「気にしないで。そういう時もあるよ」陽子は優しかった。
(5) 言ってくれればよかったのに
明くる日、清算の時に、陽子を先に外へ出したあと、私はおばあちゃんに猛抗議した。
「何で1個しか置いてないん?最低2個くらい置いてあるでしょ?」
「あぁ、足らなかったの?おっしゃっていただければ、私が何個でもお部屋へお届けしたのに」
そうか。私は何でしかるべきときに、連絡しなかったのだろう?
いや、待てよ。ことの最中に部屋まで届けられても、おばあちゃんの顔を見たら萎えるではないか。。。
長い人生、いろいろなことがあるものだ。ひとつ勉強になった一泊であった。
「せっかくだからさぁ、久しぶりに二人で動物園🐼行こうか😄?」
陽子の笑顔に私は大いに救われた。パンダもカバもかわいかった。
おしまい
フィクションです。
あらぬ想像をなさらないように。