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連載小説🛸宇宙語インフォーマント(上)
私は比較言語学者。印欧語の研究に明け暮れていた。一通り研究成果を論文にまとめたのだが、学会発表が迫っていた。私はあらゆる質問に答えられるように、宿泊先のホテルの部屋で準備していた。そんな中、今になって思えば、私の研究の方向性を変えてしまった一通のメールが届いた。
「琴野葉先生。お忙しい中、失礼いたします。先生は宇宙語に関心はありますでしょうか?インフォーマントが数名見つかりましたので、先生に宇宙語の記述をお願いいたしたいのですが」
宇宙語?
宇宙人が発見されたのだろうか?
インフォーマントとは、未知の言語を操る人で、記述文法の知識を持つ言語学者の聞き取り調査に協力してくれる人のことをいう。
私もアマゾン奥地の未知の部族語を研究するときに、インフォーマントとの交流を持ったことがある。しかし、宇宙語となると、さすがに経験はなかった。
「琴野葉です。宇宙語にはたいへん興味があります。しかし、よく宇宙語のインフォーマントが見つかりましたね。どこにいるのですか?」
私はメールに返信した。
しばらくしたあと、返事があった。
「宇宙語のインフォーマントは、複数人いますが、全員、日本に在住しています」
驚いた。日本に宇宙人がいるなんて。「学会発表が終わって、日本に戻ったら、彼らに会いたい」という旨の返事をすぐに送った。
私の論文に関する学会発表は満足できるものであった。そして、ここで印欧語の研究には一区切りをつけて、新たな分野の研究に舵を切るのもいいだろうという気分になった。
日本に帰ったあと、学会発表のことを紀要にまとめる作業をしていたとき、再びメールが届いた。
「琴野葉先生、来月はお時間ありますでしょうか?例の宇宙語の件ですが。どうやら、ここ数週の間にも、宇宙語が蔓延するようになっていて。是非とも、先生のお力を貸していただきたいのですが」
言語の研究というものは、そんなに緊急性の高いものではない。
たしかに、ある言語の使用者が高齢化して、急がないと言語が消滅してしまうということはある。しかし、使用者が増えている場合には、なにも急ぐことはない。
メールには「宇宙語が蔓延している」と書いてある。なぜ、宇宙語の記述を急ぐ必要があるのか私にはわからなかった。
私は宇宙語に関心を持ちつつも、どう返事をしたら良いのか逡巡していた。
つづく
https://note.com/piccolotakamura/n/n342cdabb124e
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