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雨の日は雨に濡れて

 今朝、家を出るときは快晴だったから、傘をもたずに外に出た。無事に試験が終わって、いざ帰ろうとしたとき、ポツリポツリと雨が降り始めた。試験会場から駅までは、それほど遠くないから、多少濡れてもいいか。

 無事に駅に辿り着いた。電車に揺られておよそ2時間経ったころ、自宅の最寄り駅に到着した。

 黒い雲が空を覆っていたが、こちらはまだ、雨が降り始めていなかった。私は、参考書や筆記用具、そして読みかけの文庫本の入ったリュックサックを背負いながら、家のほうへ歩き出した。

 都心に近いと言えば近いところに住んでいたが、私の住む町はかなり寂れている。駅から家まで、ちょっと立ち寄れるような場所はない。

「まぁ、でも何10キロある訳じゃあるまいし、歩いちゃおうっと」と独り言をいいながら私は歩き出した。

 ポツリ、ポツリ。

 額と頬に雨粒を感じた。「まぁ、大丈夫だよね」とまた独り言。気にせず歩きつづけた。

 ピチャッ、ピチャッ。

 路面に水たまりが出来はじめた。
「ちょっとヤバいかなぁ」と思った瞬間、ザーザーと雨が降り注ぎ始めた。

「こりゃ、ちょっと、どこかで雨宿りしなくちゃ」
辺りをキョロキョロし始めた。

「あぁ、そう言えば、あそこの公園に、たしか四阿があったなぁ」と思い出して、そちらへ向かった。

 近所とは言え、こんなチッポケな公園で遊ぶほど、私はもう小さくなかったから、この公園を訪れたのは、とても久しぶりだった。遊具は私が小学生の頃あそんでいたものが、さすがに新しくなっていたが、懐かしい鉄棒はそのままだった。

 雨が降りしきる中、私は四阿で、雨宿りしながら、幼い頃の記憶を辿りながら、目の前にある鉄棒を眺めていた。

 あの鉄棒で、何回泣いたことだろう。何回も何回も泣きながら、父や母や姉に励まされながら、逆上がりの練習をしたなぁ。結局、逆上がりがはじめて出来たのはいつだったっけ?

 雨が降り注ぐ中、過去の自分が、あの鉄棒で涙したようすを思い浮かべた。

 ピカッ。ドドーン。
 ピカピカ。ドドドーン。

 横風が強くなってきた。気がつけば、辺りは泥濘だらけになっていた。

 ピカピカ、ピカピカっ。
 ドドド、ドーン。

 身の危険を感じるくらいの大雨になっていた。ぼくはどうすべきか?
 このまま、ここに立ち止まっているべきか、それとも家まで猛ダッシュで帰るべきか?

 ポツリ。ポツリ。

 おっと、小降りになってきた。ここはダッシュで家に帰ろう!

 ダッシュ。ひたすらダッシュ...

 あと500m。
 もう少し、っと思った刹那、

 バシャッバシャバシャバシャッーー

 あり得ないくらいの雨が降り注いだ。これ以上、濡れることができないくらい、めちゃくちゃ雨がぼくに降り注いだ。

 家に何とか辿り着いたときには、服を着たまま、プールに飛び込んだくらい、ズブ濡れになっていた。

 どうせこんなに濡れるんだったら、最初から駅からダッシュして帰ってくればよかったなぁ、と、今になって述懐している。

 奇跡的に、リュックサックの中に、ビニール袋に包んでおいた文庫本一冊が、まったく濡れていなかったこと。
 そして、もうこれ以上濡れないくらい濡れてしまうのも、色々と気づきがあって、なかなかオツなものだということ。
 その2つが、この雨の日を、私のとても大切な思い出にしている。




フィクション30%、
事実70%のお話です♥️

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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします