一語の宇宙 | not (~ではない)
「not」。
英語を学び始めた初期の頃に学ぶ。
この単語が1つあるだけで、正反対の意味になるから、非常に大切な「否定」の言葉だ。
しかし、「否定する」のはけっこう大変なことだ。考え出すと、想像以上に厄介な代物に思えてくる。
(1) 次の文を否定文にしなさい!
中学1年生の頃から、
「次の文を否定文にしなさい」なんていう問題をやらされる。
「I have a dog. 」を否定文にするならば、
「I don't have a dog. 」で良い。
犬を飼っているか、飼っていないか、どちらかであるから。
しかし、次の文はどうだろう?
「I have a dog and a cat. 」を否定文にするには?
英語の問題として出題されたなら、
「I don't have a dog or a cat. 」となるだろう。
「私は犬も猫も飼っていません」
「私は犬あるいは猫を飼っていません」という意味だ。
だから、こう書いてもいいだろう。
「I have neither a dog nor a cat. 」
=「I don't have a dog or a cat. 」
中学生の頃はあまり深く考えず、
「A and B」を否定文にするときは、
「not A or B」にすると暗記したが、これって正しいのだろうか?
「私は犬と猫を飼っています」という『両方とも飼っている』以外のケースは次のような状態が考えられる。
①犬は飼っているが猫は飼っていない。
②犬は飼っていないが猫は飼っている。
③犬も猫も飼っていない。
「I have a dog and a cat.」を否定文にした「I don't have a dog or a cat.」は③を表現しているが、①あるいは②の範疇は含まれない。だから、私には違和感が残る。
だから、すべての場合を網羅するなら、
「I have a dog and a cat.を否定文にしなさい」という問いに対する私の答えは、次のいずれかになるだろう。
「~である」「~でない」かのどちらか一方である場合(排中律が成り立つ場合)は、肯定文を否定文にすることはたやすい。しかし、否定には「全否定」だけでなく「部分否定」もあるので、想像以上に複雑だ。
「many」とか「some」とかいう「漠然と数量を表す言葉」が入っている命題を否定する際には厄介な問題が含まれる。
英語というより、「論理学」の話に発展するので深入りしない(出来ない)。
話題を変える。
参考
「ドモルガンの法則」
(2) notの管到(かんとう)
漢文法(漢文の文法)の用語に「管到」(かんとう)という言葉がある。以前記事(↑)にも書いたことがある。
「管到」とは、「どこまで意味が係るのか」ということを指す言葉。よく学生時代、英語の時間に「関係代名詞節」を括弧でくくり「先行詞」に矢印を書いたりしたが、「not」にも「管到」の問題がある。
分かりにくいと思うので具体例を挙げてみる。
[例文]
She did not marry him because he was poor.
この文は二通りの解釈が可能だ。
①
彼が貧しいから、彼女は彼と結婚しなかった。[彼女は彼と結婚しなかった]
②
彼女は、彼が貧しいから結婚したのではない。
[彼女は彼と結婚した]
①の解釈の場合、「not」の「管到」は、「marry him」だけである。
「not」が否定するのは、「marry him」だけと考えている。
She did not (marry him) because he was poor.
誤解のないようにするには「語順」を入れ換えればよい。
Because he was poor, she did not marry him.
②の解釈の場合、「notの管到」(notで打ち消される部分)は、not以降のすべての部分である。
She did not (marry him because he was poor.)
「彼が貧しいから結婚した」ではない。
結婚した理由は「彼の貧しさ」ではない。
前後の文脈がないなら、普通に解釈すれば、①の解釈をする人が多いだろう。けれども、彼女の自身が貧しく、金持ちと結婚することを不相応だと考えており、結婚するなら自分と同じ貧しい人が良い、と考えていたならば②のように解釈したほうが良いだろう。
文脈により、「not」の管到(意味の係る範囲)は変わり得る!!
結び
「not」の宇宙は、とてつもなく広い、と私は思う。
単に英語の問題だけでなく、notについて考えるときには、論理学を避けることはできない。少なくとも、高校数学でも学ぶ「ド・モルガンの法則」くらいはきちんと理解していなければならない。
「一語の宇宙」では、1つの英単語を取り上げて、1つのエッセイを書きます。
こちらのマガジンに収録しています。
「数学マガジン」では、数学に関するエッセイを集めています。
なるべく簡単に直感でわかるように書くことを心がけています。
ちなみに私は文系でした😄。
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