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エッセイ | 鳩の巣原理と小説の書き方




鳩の巣原理


 「鳩の巣原理」とか「鳩の巣論法」と呼ばれるものがあります。
 算数や数学の教科書では見かけた記憶がありませんが、子ども向けの算数の図鑑かなにかで読んだ記憶があります。
 初めて知ったときは、思わず「なるほど!」と思ったものです。


 今、鳩の巣穴が10コあり、鳩が15羽いるとします。
 このとき、どの鳩も必ず巣穴を持っているならば、同じ巣穴に入っている鳩のペアが必ずありますね。なぜなら一羽ずつ順番に鳩を10コある巣穴に入れていけば、巣穴の数よりも鳩の数は多いので、残りの五羽はすでに他の鳩がいる巣穴に入れるしかないからです。
 このような考え方を「鳩の巣原理」と言います。

 もしかしたら、空いている巣穴があるかもしれません。極端な話をすれば、1つの巣穴に15羽がいる可能性もありますが、いずれにせよ、鳩の数が巣穴の数より大きい場合は、複数羽が入っている巣穴が存在することになります。


 このような「鳩の巣原理」という考え方によれば、大都市に住む人たちの中には、必ず同じ数の頭髪をもつ人がいることが説明可能です。

 いま、百万人の人が住む都市があり、人間がもつ頭髪の上限数が20万本だと仮定すれば、必ず同じ頭髪数の人が存在することになります。

 百万の鳩がいて、巣穴の数が0から20万しかないのならば、複数羽の鳩がいる巣穴は必ずありますね。混雑している巣穴や、誰もいない巣穴があったとしても、鳩が複数羽いる巣穴は確実に存在します。


 鳩の数がm羽で、巣穴の数がn羽で…というように、抽象度を高めていけば、精緻なモデルを作ることが可能でしょうね。


文章 vs 数式


 話は逸れますが、私はかつて経済学部でした。
 学部時代・院生時代を通して、何人かの指導教官がいましたが、経済学の教科書を執筆するときには、なるべく数式を使わないほうがいい、とおっしゃっていました。数式が多ければ多いほど、本が売れなくなるからです。

 抽象度が高くなると、一般の読者はついていけない。けれども、数式やグラフをいっさい使わないで説明するとなると、それはそれでイタズラに文章が複雑になります。要はバランスの問題でしょうね。


 経済学の基本的な考え方に「需要・供給曲線」という考え方があります。
 横軸(X軸)に「数量」をとり、縦軸(Y軸)に「価格」をとるとき、需要曲線は右下がりとなり、供給曲線は右上がりになります。

 「曲線」ですから、需要曲線は「反比例」的、あるいは「2次曲線」的になりますが、本質的なことを伝えることが目的ならば、変化の割合(傾き)が負の数である1次関数で表しても、大きな不都合はありません。


 不特定の読者を想定する場合には、具体性と抽象性のバランスが大切でしょうね。文字だけで説明するよりも、簡単な数式を書いたほうがわかりやすいならば、数式を用いる。複雑な数式で説明するよりも、単純な言葉で説明できるならば、言葉で説明する。今の私はそんな感じです。


数学的な小説


 この前、「青い服の予言者」という3万字程度の小説を書きました。
 思ったより、通読してくださる方がいて、とても嬉しかったです。

 けれども、3万字ですから、時間はかかりますし、「必ず読んでください!」とも言えません。だから、少しネタバレさせておくと、この小説は簡単に言えば「あみだくじ小説」です。アイデア自体は、あみだくじそのものです。

 「あみだくじ」はご存知の通り、どのような横棒を引いたとしても、上からくだっていけば、すべて別々のゴールにたどり着きますね。そういう「あみだくじ」の性質を利用して小説を書きました。「魂」と「体」のあみだくじです。

 本当は、長い話を書くのならば、創作ノートをちゃんと作ったほうがいいんでしょうけど、面倒くさいんですよね。

 だから、私が長い話を書く場合ときは、最初の初期設定以外は、複雑な方程式を少しずつ変形しながらズラズラと数式を並べていくようなイメージで書き綴っています。

 「こういう初期設定(初期条件)にしよう!」ということがイメージできたら、それ以降の文章は、方程式を解く途中の数式変形をズラズラ並べていくだけ、みたいな感じです。だから、小説を書いているときは、ほぼ機械的に書くことになります。


 私は読書家ではないので、たくさんの本を読んでいるわけではありませんが、ボルヘス村上春樹東野圭吾の小説は、きわめて数学的だな、と思っています。
 作者の提示した初期条件を読み解ければ、あとは「こうなるんだろうな?」というパターンは、ある程度予測できます。とかいって、外す時も多いんですけどね。
 読者に伏線と思わせない伏線が仕掛けられていることがあり、読み終わった後に「あぁ、あの伏線に私が気がつかなかったから、予想が外れたのかぁ」みたいなことがあります。

 「小説が数学的だ」と言っても、数学そのものではありません。必ず遊び的な要素がありますね。



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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします

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