短編小説 | イヴの夜に
(1)
「 24日の土曜日は、都合はいいですか?」
別に他の日でもよかったのだけれど、一応イヴにあの子を誘ってみた。
「土曜日ですか?はい、学校もちょうど休みですから」
はじめてデートに誘うのがクリスマスになった。前から気になっていたのだが、ずるずるとこの時期になってしまった。
でもやはり言ってみるものだ。どうせ断られるだろうな、と思っていたから。
(2)
「こ、こんにちは。その紫のコート、かわいいですね」
「ありがとうございます。いつも着ているものですが」
約束の電車の中で、彼女と会うことができた。そのまま、向かい合って席にすわった。しかし、一言会話を交わしたあとは、なぜか急に口の中が乾燥してしまって、うまく話すことができなかった。
(3)
電車の中では、終始無言になってしまった。そのまま、電車を降り、約束の水族館へ向かった。
頭の上を通過するアシカや、ライトアップされたクラゲを見たりした。彼女といるだけで僕は嬉しかったけれど、水族館は、「まぁ、こんなもんかなぁ」という感じ。
ゆっくり見て歩いたから、あっという間に夜になった。
ここらへんの地理はまったくわからない。情けないことに、彼女に頼りっきりだった。
「マックでもしていきますか?」
「あ、はい」
僕は、俺について来い!というタイプではないが、やっぱりなんか情けないなぁ、と思った。彼女と一緒にいる時間があればいいな、と思っただけで、彼女をどうもてなそうとか、全く考えなかったのだから。
(4)
マックしているうちに、僕はなんだか気分が悪くなってきた。寒い中を、空きっ腹で歩き回ったからだろう。
「ごめんね。なっちゃん。あの、気持ちが悪くなったから、先に帰ってもらえますか。僕はここで休んでいくから」
「それはたいへん。ちょっと失礼するね」
なっちゃんは、僕の額に手を当てた。
「熱が出てるみたい。どっか泊まっていきましょう」
僕たちは初めてのデートのイヴの日に、ラブホに泊まることになった。
なっちゃんは、顔に似合わず、ラブホ慣れしているように思えた。
「ラッキーでしたね。イヴの日に、空き部屋があるなんて奇跡です」
(5)
なっちゃんの指示にしたがって、僕が先に風呂に入り、その後でなっちゃんが入った。
先に寝ててね、って言われたが、気分が悪いことさえ忘れてしまうほど、妙な緊張感があって全く眠れない。
二時間後、長い風呂を終えたなっちゃんが、僕の布団の横に入ってきた。
「あら、君、まだ起きていたの?」
そう言ったあと、なっちゃんは、僕の額に手を当てた。
「あっ、熱、下がったみたいだね。よかった。よかった」
そういい終わるや否や、なっちゃんは熟睡してしまった。
僕は一晩中、眠ることができなかった。
おしまい
フィクションです。
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