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短編 | 未解決事件

「あ、いたたた。首が痛い」

「また、痛くなっちゃったか。早く治るといいね」

「治らないよ。むち打ちなんて。今生きていることさえ奇跡なんだから」

 僕と出会ってから、奈美から何度も同じ話を聞かされている。だが、僕に言える言葉は「早く治るといいね」しかなかった。

「絶対許さない、あのクソ親父」

 奈美はまた今日も怒りを新たにしている。この先に奈美の言うことは予測がついた。

「チャリに乗ってる私の後ろから、あのオヤジは突っ込んで来たの。チャリは原形をとどめないほどグチャグチャになったけど、その時はなんともなかった。ただ背中が痛むだけで」

「それから、警察が来たんだよね」

「そう。警察を呼んだのも私だった。痛かったけど、逃げられないように、ナンバーの写メをとって。その間、私に一言も『すみません』なんて言わなかった」


 その間にオヤジが語ったのは…

「うちの息子は身体障がい者でして。早くうちに帰ってご飯を食べさせなくてはなりません。だから、もうこれで失礼したいのです。あなたは元気そうだ。警察なんて呼ばなくても大丈夫でしょ?私を引き留めて、どうしたいんですか?」

 
「あったまにきたから言ってやったわ。あんたの息子なんて私にはどうでもいい。怪我をさせた私に一言の謝罪もないわけ?って。そうしたらなんて言ったと思う?」

「もういいでしょう。それだけあなたは元気なのだから。だいたいあなたが私の車の前を自転車で走っていたのが悪いんだ。こちらは急いでいるのに、チンタラ自転車なんてこいでるから」


 警察が来たあとも、オヤジは私に一言も謝らなかった。絶対許せるはずはない!
 実際に、次の日から首と背中が痛くて仕方なかった。
 病院に行って、リハビリの医院を紹介してもらって。事故から間もない頃、示談の提案の電話が何度もかかってきたわ。私はいつも言った。
 「まだ、何も解決していません」ってね。

「もう今は、痛みは事故直後の一週間よりは小さくなってきた。痛みを感じない日も少なからずある。だけど、やっぱりたまに夜に痛くなることもある」

 お母さんからも、いろいろ言われるんだよね。

「そう。あんたまだ示談してなかったの?」ってね。示談なんてできるわけない。一言も謝罪がないのだから。それに、ホントに身体が痛くなるのも事実だし。これから先も治らないし。絶対「ごめんなさい」の一言を聞くまでは示談なんてしない!!

「でもさ、そういつまでもイヤなことを覚えているより、ある程度の金額をもらって終わりにしたらどうだろう?そのオヤジは、これから先も謝ることなんてないと思う」

「あなたまで、そんなことを言うの?失望したわ。あんたも加害者だわ。悪いのはあのオヤジ。なのに、私に全く関係ないのない身障の息子のことを引き合いに出すなんて卑怯者だわ。なぜ謝ることができない人が多いのだろう?そして、被害者である私にも非があるみたいな言い方ばっかりするあなたのような人。みんな私と同じ目にあってみればいいのよ」



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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします

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