緒真坂(著) |「君に届かない」を読んで想起したこと。
あれからそれなりに長い時間が過ぎてしまいました。
すぐに書こうと思っていましたが、年末になってしまいました。
物語の感想をnoteの記事にするときは、ネタバレになってもいけないし、かといって内容にまったく触れることなく書くことは出来ないし…と色々悩みます。
いろいろ考えた結果、少しだけ「君に届かない」という作品の中で、印象に残った一節だけ引用してみたいと思います。
緒真坂(著)「君に届かない」
pp.154より。
ほんとうはもう少し前後の文章を引用したいのですが。。。
この一節を読んだとき、想起したのはフィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」でした。
少し長くなりますが、「グレート・ギャツビー」のラストシーンは、次のようになっています。
以下しばらく、読み飛ばしていただいて構いません😄。
村上春樹さんの翻訳(「グレート・ギャツビー」、中央公論新社)を引用します。
村上春樹(訳)「グレート・ギャツビー」
前掲書、村上(訳)、pp.324-326より。
※スマホで読む人の読みやすさを考慮して、適宜改行します。
海岸沿いの地所には豪邸が並んでいたが、その大半は既に閉ざされており、海峡を横切っていくフェリーボートの揺らめく仄かな明かりのほかには、灯火はほとんど目につかなかった。
月が高く上がるにつれて、家屋などという取るに足らぬものはどんどん影が薄れ、オランダ人の船乗りたちに向けてかつて花開いたこの古き島の姿が、徐々に浮かび上がってきた。
彼らの目にはおそらく、この島は新世界の鮮やかな緑なす乳房として映じたのであろう。
消え失せてしまった見渡す限りの樹木はかつては---それらの樹木はギャツビーの屋敷にあとを譲ったわけだが---人類にとって最後の、そして比類なき夢に向けて、甘い言葉をさやかに囁きかけていたのだ。
束の間の恍惚のひととき、人はこの大陸の存在を眼前にして思わず息を呑んだに違いない。審美的な瞑想(そんなものを本人たちは理解もしなければ、求めもしなかったはずだが)の中に引きずり込まれ、自らの能力の及ぶ限りの驚嘆をもって、その何かと彼らは正面から向き合ったのだ。二度と巡り来ぬ歴史のひとこまとして。
そこに座って、知られざる旧き世界について思いを馳せながら、デイジーの桟橋の先端に緑色の灯火を見つけたときのギャツビーの驚きを、僕は想像した。
彼は長い道のりをたどって、この青々とした芝生にようやくたどり着いたのだ。夢はすぐ手の届くところまで近づいているように見えたし、それをつかみ損ねるかもしれないなんて、思いも寄らなかったはずだ。
その夢がもう彼の背後に、あの都市の枠外に広がる茫漠たる人知れぬ場所に---共和国の平野が夜の帷の下でどこまでも黒々と連なり行くあたりへと---移ろい去ってしまったことが、ギャツビーにはわからなかったのだ。
ギャツビーは緑の灯火を信じていた。年を追うごとに我々の前からどんどん遠のいていく、陶酔に満ちた未来を。それはあのとき我々の手からすり抜けていった。でもまだ大丈夫。明日はもっと速く走ろう。両腕をもっと先まで差し出そう。
・・・・・・そうすればある晴れた朝に------
だからこそ我々は、前へ前へと進み続けるのだ。流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へと押し戻されながらも。
F. Scott Fitzgerald, The Great Gatsby
同じ箇所の原文。
Most of the big shore places were closed now and there were hardly any lights except the shadowy, moving glow of a ferryboat across the Sound.
And as the moon rose higher the inessential houses began to melt away until gradually I became aware of the old island here that flowered once for Dutch sailers' eyes -- a fresh, green breast of the new world.
Its vanished trees, the trees that had made way for Gatsby's house, had once pandered in whispers to the last and greatest of all human dreams; for a transitory enchanted moment man must have held his breath in the presece of this continent, compelled into an aesthetic contemplation he neither understood nor desired, face to face for the last time in history with something commensurate to his capacity for wonder.
And as I sat there brooding on the old, unknown world, I thought of Gatsby's wonder when he first picked out the green light at the end of Daisy's dock. He had come a long way to this blue lawn, and his dream must have seemed so close that he could hardly fail to grasp it.
He did not know that it was already behind him, somewhere back in that vast obscurity beyond the city, where the dark fields of the republic rolled on under the night.
Gatsby believed in the green light, the orgastic future that year by year recedes before us. It eluded us then, but that's no matter---tomorrow we will run faster, stretch our arms further. . . And one fine morning---
So we beat on, boats against the current, borne back ceaselessly into the past.
最後に
緒先生の作品を何冊か拝読していますが、翻訳された海外文学を読んでいるような気持ちになることがあります。
文体が翻訳調というわけではないのですが、日本人の名前が出てこなければ、舞台がどの国でもいいというか。
そういうところは、村上春樹さんっぽい気もします。
むずかしい言葉が出てくるわけでもなく、普段、小説を読まない方にも敷居が低く、楽しめる作品なんじゃないかな、と思います。
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