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読書会レポート『ドーナッツホール読書会 vol.3 』

2025年が明けました。昨年は12月に読書会を開けず年を越してしまいましたが、年明けはすぐに読書会で迎えたいと募集したところ今回も定員まで応募いただきました。ご参加いただいた皆様ありがとうございました!

今回みなさんが持って来られた本と、各本についての紹介や感想を要約してみました。当日の読書会の雰囲気や、読書会自体に興味のある方はぜひこちら読んでみてください。


1冊目は夜食をテーマにした短編を集めたアンソロジー『眠れぬ夜のご褒美』。Oさんは夜寝る前に本を読むことに憧れていたため、「眠れぬ夜のご褒美」というタイトルに惹かれて買ったそうですが、表紙のイメージとは異なり、甘い話ばかりでなく、少しダークな話も含まれているとのこと。

もう1冊の『調査する人生』は、社会学者の岸政彦さんと、他の研究者との対談をまとめたもの。社会学は、歴史のように確立された情報ではなく、一見役に立たないと思われるかもしれないが、遠回りな個人の視点から社会を見る学問だと感じていると熱く語っていました。

岸政彦さんは特に生活史を研究していて、インタビューを通して個人の経験から社会を考察されているのがお仕事の特徴です。東京、大阪、沖縄の各地域についての調査をした著作があり、これらの本も、150人程度のインタビューが掲載されていたりして、社会を見るための斬新な試みをされているそうです。

他の参加者で岸さんの著作を知る人からは、岸さんの本が「鈍器本」と言われるくらい分厚い!イメージがあるということや、岸さんが福岡に来るかもしれないことを期待する声がありました。

『眠れぬ夜のご褒美』については、色々な作家を少しずつ知るのに良く読んでみたいという感想の他に、アンソロジーの文庫にしては720円と高いなぁという率直な感想もありました。

『じい散歩』藤野千秋

90歳近いおじいさんとおばあさんの夫婦に中年で独身の3人の息子という家族をユーモラスに描いた小説。

この家族は、長男は引きこもり、次男は自称「長女」、三男は借金まみれで何かとお金を無心するわで、いかにも難ありな感じがして、夫婦は息子たちを頼れないと思っているくらいです。夫婦も夫婦で、おじいわんは若い子好き、おばあさんは痴呆気味なのか夫の浮気を執拗に疑っていたりと、みんな問題ありの波乱万丈なエピソードが次から次へ起きる話のようで、それがおかしみのある話として描かれているのが紹介されたEさんの話しぶりからわかります。

奥さんが焼きもちを焼くのが可愛らしいと感じられたり、おばあさんが倒れた際に救急車を呼ばずに他の家族がおばあさんを見殺しにしようとして息子の一人にブチ切れ説教をされたりしていたのがおかしかったりと、我が身だったら疲弊してしまいそうなことが笑えてしまうように読めたというEさんの感想が印象的でした。

他の参加者から親族にはなりたくないという冗談な感想も出たほどでしたが、まわりの人はみんな温かい人ばかりだったり、ほっこりしたり切なくなったり。介護や引きこもりなど人生こんな感じだけど面白いと思える本を楽しい語りで紹介してくれました。

『コンビニ人間』村田沙耶香

主人公は36歳のコンビニアルバイト店員の女性。コンビニ店員としては天才的に能力が高く、コンビニ店員としての自分に非常に満足して安心感も覚え、「世の中の正常な部品になれる」と自負しているが、小さな頃のエピソードなどからいわゆる普通の感性の人ではないことがわかってきます。そんな主人公に対して周囲は「なぜ結婚しないのか」「子どもはまだか」と慮りのない言葉を投げたり、同棲することになった世の中に対してもかなりの偏見をもった男性からも好きなように言われます。紹介してくださったHさんは最後まで読んで、自分自身の人生とは何か、普通とは何かを考えさせられたそうです。

「私はコンビニという動物だ」とコンビニ店員として自分に合った生き方を貫くことにした主人公の姿勢がかっこいいという話がありました。
一方で、村田沙耶香さんの作品を読んだことがある他の参加者からは、気持ち悪いが面白い話を書く作家ということへの賛同の声も。村田沙耶香は頭の中に20人ぐらいの人がいて、それと会話して作品を作っているという話を聞いて「怖い」と感じたり、最近はさらに「気持ち悪さ」が増していて、それが良いと感じるそうです。

古賀及子『おくれ毛で風を切れ』


日記形式のエッセイ。日記だと長すぎる本になることがありますが、こちらの本はエッセイとしてまとまっていて読みやすいそうです。

古賀さんは物事の捉え方が独特で、かつ肯定的。その独特な感性にKさんは惹かれたそうで、日常のちょっとしたこと、他の人がスルーしそうな感情までも捉え、表現する姿勢が素晴らしいと話していました。

Kさんの紹介の中で、古賀さんが大福屋で目当ての大福が目の前で売り切れた時、それを残念がったり悔しがるのでなく、逆に「そうでしょう」と誇らしい気持ちになった話がありました。このエピソードにも古賀さんの考え方が面白いです。

古賀さんの夫や子どもたちも個性的で、お互いを尊重しながら生活している古賀さん一家の姿が浮かびます。古賀さん自身は、少し変わっていることで学生時代は周りから理解されにくい面もあったそうです。しかし、自分らしく大人になったからこそ、このような作品が書けるのだろうと紹介してくれました。

他の参加者からは、「今日はこの日の日記しか読まない」という気持ちに共感できると感想や、Kさんのように本を中身を見ずに買う気持ちが理解できる、という感想がありました。

Kさんも岸さんの著作を買っているそうですが、それぞれの生活史に面白さがあり、そこからその人の生活や価値観が分かることに共感していました。匿名化されるのではなく、その人しか持っていない人生の要素を救い上げるところに、エッセイの良さがあるというのがみなさんに伝わる本の紹介でした。

福岡県立美術館で先日(12月)まで開かれていた山下清展へ行かれたOさんが山下清の2冊の本を持ってきてくれました。奇しくもKさんに続いて日記本でした!

山下清はちぎり絵が有名ですが、展示ではグラバー邸などのペン画で細かく描かれた絵もあったそうです。またテレビドラマで日本を放浪しているイメージが強いですが、ヨーロッパなど海外にも行って景色も描いてたり、焼き物も作っていてもいたそう。

本書では弟や先生も付き添って行った旅のことが書かれていますが、本人は文章を書くのはあまり得意でないことを自覚していて、バカにされるのもいやだったのですが仕方なく書いていたそうです。

人と話しても、相手の感覚が分からないことで笑われたり嫌がれたりすることに山下は傷つきます。
山下清の服装といえばの白いタンクトップは(スティーブ・ジョブズのようという人も)、山下としては裸が一番良いかったのが、怒られるから仕方なく服を着ていたというのも山下の苦心が窺えますが、寒い時はタンクトップを5枚重ねていたというのにはやはりおかしさを覚えてしまいました。

そんな山下が、新聞記事は嘘が多いと感じ、世の中の真実が分からなくなると書いているのは、今の世情を知っている私たちには身につまされる話です。

他の参加者も山下はテレビドラマのイメージだったので、Oさんの紹介した山下像が新鮮で、山下の純粋さ、こだわり、才能がすごいという感想をみなさん話していました。

『一日一菓』木村宗慎 『和菓子のアン』坂本司

一年の初めということで、和菓子の名店を巡ったり、季節を感じたりするのに良い本としてMさんが紹介されたのが『一日一菓』でした。和菓子は京都がダントツでレベル高く、紹介されているお店も末富など京都のお店が大半ですが、福岡のお店としては大宰府の藤丸も紹介されています。中州にあった松屋も紹介されていますが、このお店は2012年に倒産。このように後継者不足などでなくなっているお店もあるはずとのことでした。

掲載されているお菓子のほとんどはお茶席で使われるような上生菓子です。「お茶は写ってないのですか?」という質問に対して、木村さんが書かれているようにお茶席を単にトリミングしたのでなく、美術館にあるような器に美しいお菓子がのっている写真として楽しめるのがこの本の価値あるところとのことでした。

木村さんのセンスや、『一日一花』の成功などいろいろな条件が揃って生まれた、今後はこういう本が作られることはないのでないかという程の本ですが、5000円という価格にはみんな「高い!」という声。それを受けてもう1冊紹介されたのが『和菓子のアン』でした。デパ地下の和菓子屋でアルバイトをするようになったアンちゃんの成長譚であり、ミステリー仕立てで和菓子のことが紹介されているのが楽しい本ですが、「考察の時代」(三宅香帆さんの言葉)の今に合っている本でもあるとのことでした。


今回は1名の方が体調不良で欠席となり6名での開催でした。次回は定員を増やしたり場所を変えたりと読書会を開く側としてできることを増やしたいと考えています。あと未定ですが、この日の終わりにちょっと企画案を出してみました。その企画で参加者が集まるか、楽しんでもらえるか、、、もう少し詳細を詰めて検討して、開けるようになりましたらまたこちらでもお知らせします。

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