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<第20回>クーポンはたんなる値引き商法にあらず

『Hot Pepper ミラクル・ストーリー』 
平尾勇司著(東洋経済新報社)

❶イントロダクション~ホットペッパーのCMを覚えていますか?

本書は2008年の発刊、ホットペッパー事業の立ち上げ部長が書いた、実践ビジネス読本です。また、著者はリクルートを退社後、楽天㈱の執行役員や㈱ワールドインテック(総合人材ビジネス業)の代表取締役社長を歴任されたプロ経営者でもあります。

ホットペッパーといえば、クーポンですよね。お得に予約できるので、私も学生のころ、1冊もらってきて自分の部屋に置いていました。
ネットやアプリでの予約が主流となったいまでは、ポイントとクーポンの合わせ技がメインになってきています。

そして、ホットペッパーといえば、やはりCM。インパクトがあったので、覚えている人も多いのではないでしょうか。ちなみに、いま見ても笑えますよ。(笑)

今回も、本書の「はじめに」から、気になった部分を抜粋してみます。

”『ホットペッパー』はリクルートが創った事業ではありません”
”この本は、ホットペッパーの事業を立ち上げ、成長するなかで生まれた工夫やアイデアを整理し、その背景にあったものを明らかにしたものです”
”「こうすれば成長する事業、強い組織、いいチームができる」という具体策です”
”あなたもまた、なりたい自分を発見し、あなたがあなた自身のリーダーになれば、まだ見たこともない自分を発見するでしょう”

さて、いま新規事業に取り組んでいる企業はたくさんあります。
大企業だけでなく、中小企業の新しい市場へのチャレンジも、盛んに行われています。
しかし、新規事業の成功する割合は「100分の3」と言われており、また事業として成長させることも簡単なことではありません。

この本には、ホットペッパーがどうやって成長していったのかだけでなく、組織や不採算事業の立て直し、営業の方法に至るまで、日常の仕事にすぐに使えるものもたくさん書いてあります。
あなたの悩みの解決の糸口が見つかるかもしれませんよ!

では早速、読み解いていきましょう!!

❷独断と偏見のお勧めポイント:目標と目的には大きな違いがある

質のよい仕事をするための仕組み化とは?

本書は、ホットペッパーが成功するまでの舞台裏から、収益モデル、営業実践に至るまで、ほんとうに細かく書かれています。
そして、その仕組み化されたビジネスモデルやマーケティングについては、十数年経ったいまでも十分通用する内容です。

そこで一部ですが、ホットペッパーの特徴的な仕組みや考え方、ビジネスモデルなど、内容を紹介します。

⑴狭域ビジネスモデル
”ひとつひとつのエリアの半径2~5キロのなかで人は「衣食住働遊」の行動を行っている。そして消費の8割をそこで行っている。その行動に必要な情報を必要な生活圏に限って提供するメディア、それが『ホットペッパー』である”
⇒全国の主要な県庁所在地に当たる都市のほとんどに展開。エリアを「日本」といわず、「114の生活圏」と定義し、「114の生活圏×領域」という、いままで見えていなかったマーケットを見出した。

⑵クーポン
”クーポンは値引きではなく、まだ見ぬお客さんへの招待状であり、いつもお世話になっている常連さんへのギフト”
⇒クーポンは、失敗が怖くていつもの店に通っている人に、「保証付きの冒険」を可能にしたのである。

⑶原稿作成のテンプレート
”テンプレートを選択し必要なアイテムをカセット方式で埋めていく。コピーやキャッチの位置、写真の位置の違うパターンが並ぶと、あたかも自由につくったかのような仕上がりになる。専門性の必要なコピーを少なくして、慣れれば誰でも使えるデジカメで撮影する写真を中心に原稿をつくっていく
⇒営業マンが自分で原稿をつくるため、お客さまのクリエイティブ欲求を完全に満足させる原稿ができあがる制作システムになっているのだ。

⑷一つのやり方で揃える
ホットペッパーの前身である『サンロクマル』(長いあいだ採算が取れずにいた)は、地域ごとにやり方が違っていたが、それを全国レベルで統一し、型をつくった。
”「大阪は札幌とマーケットも戦略も違うのか。わかった。じゃ、お前の大阪のマーケットの戦略を説明する前に、お前が違うと断言する札幌のマーケットと戦略を、お前が説明してくれ。そのうえで、大阪との違いについて聞こう」”
”「違うと主張するのに、相手のことを知らないで、どうして違うと言える?」”
⇒剣道には決まり手が「小手・面・胴」の三つしかないように、相手の攻撃には傾向があって、それに対応する技があり、これは営業も同じ。

⑸念仏
決定したコンセプトを「念仏」として唱え、自分の行動がその行動基準から外れていないかを毎日チェックする。
⇒具体的には、コア商圏として飲食・居酒屋がターゲット、1/9の広告を3回連続受注、20件訪問などがある。

⑹プチコン
リアルな経営経験がない営業マンでもできる、以下の四つの領域を絞り込んだコンサルティングを指す。
 ①原稿表現プチコン
 ②クーポン内容プチコン
 ③集客スケジュールプチコン
 ④メニュープチコン
⇒お客さまの苦手で気づかない領域で、自分たちのちょっとした工夫やアイデアの共有と蓄積を図ることでプロフェッショナルになれると、著者はいう。

このようにどれも、とても仕組み化されているのですが、ちょっとしたことで自分の仕事にも応用できそう! だと思いませんでしたか? また、仕事の質もかなり高くなりそうですよね。

効率化やシステム化の話をすると、業務改善と思いがちですが、実際は提案の質を上げ、売上げをあげるために行う、というのが重要なポイントです。

また、どの仕組み化、考え方にしても、「目的達成のため」というベクトルが一致していることに気づいたでしょうか。「目標=売上げ達成」のためではなく、ホットペッパーに掲載されたお店にお客さんが増えることや、お客さまがクーポンを使ってくれる目的のためにある、ということが大切なんですね。

よく目標と目的を一緒にしてしまうのですが、じつは別なもの。目標と目的に大きな違いがあることも、本書は教えてくれます。

❸深掘りの勧め:リーダーは、同性にも異性にも嫌われてはならない

なぜ、あの人のチームはくすぶっているのか?

最後に、マネジメント・リーダーとは、どうあるべきか? について採り上げたいと思います。
本書には、リーダーが抱えるよくある悩みも、たくさん書かれてあります。

さて、なかなか成果の出ないチームのリーダーは、いったい何が問題なのでしょう?

本書には一つ、わかりやすい例が紹介されています。それは、
"リーダーは、同性にも異性にも嫌われてはいけない"のです。
これがどういうことが、わかりますか?

世の中には、男性と女性がだいたい半分ずついます。つまり、市場もだいたい半々。仮に、異性に嫌われるということは、50%の市場から支持されないということになります。

上記の例は少々極端かもしれませんが、言い方を変えると、
リーダーとは、「メンバーからの承認によって、リーダーとしての存在を許される」のです。承認されるためには、まず嫌われてはいけない、ということになります。

また、メンバーから承認を得るためには、リーダーが自分で判断をすることが大切、と本書は語ります。
たとえば、リーダーとのあいだで、「上に相談して回答する」といったやりとりがよくあると思います。しかし、そんなことがたび重なれば、メンバーたちはリーダーと見てくれるでしょうか? リーダーは、「上」の人になってしまいます。
リーダーの育成とは、「決めるチカラ」を身につけさせることだといえるでしょう。

ほかにも、本書のなかには、事業成功の工夫やアイデア、強い組織のつくり方について、参考になることがたくさん書かれてあります。興味のある人は、ぜひ読んでみてください。

◆今回の名言◆

「人の限界は能力ではなく、想像力で決まる」
松本恭攝(まつもと・やすかね/1984年~/実業家 ラクスル㈱創業者)

10年後、世の中がどうなっているかを想像することが大切だそうです。他人から、「そんなの無理だよ」といわれて、提案が終わりになっていませんか? 成功するためには、まず想像することから――なのです。

★おまけ★最近読んでいる本

『ペーパーバック版 スティーブ・ジョブズ 1・2』 
ウォルター・アイザックソン著/井口耕二翻訳

本書は取材嫌いで有名なスティーブ・ジョブズが唯一全面協力した、本人公認の決定版評伝。世界を変えたといえるほどの商品を、なぜ生み出せたのか? 亡くなられたあとも、いまだに大きな影響力を持ち続けるジョブズの真の姿を知ることができた気がします。世の中が一変したアフターコロナの次の一手は、このなかにあるかも? いまこそ再読の一冊です。


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