おばちゃんにありがとう 唐揚げにさようなら
毎日歩いている家路が、今日はなぜか全然しらない街に見える。
僕の住む街だけど、僕の住んだことない街。
パラレルワールドの、同じ住所なだけで、着いてみたら九龍城みたいな建物が聳え立っていたらどうしよう。207号室、あるかな、と急に立ちくらみがするほど不安になる。
昨日も似たようなことがあった。
日記をサボるくらいに仕事を頑張った。僕を粉々にして、燃料にして、働いた。
自分へのご褒美に一杯啜るか〜と思って仕事終わりに家系ラーメンの店まで20分かけて向かう。
席について、一応、メニュー表を見る。
正直もうメニュー表なんて見なくても呪文みたいに注文できるし、おばちゃんは俺が絶対ねぎを追加することを覚えてくれている。
いつも通りの商品名が並んでいて、唐揚げセットとか餃子セットとか、メニューのラインナップも変わりない。
でも、商品名の下に印刷されているラーメンの写真が、どれも僕の知っているものと異なっている。
横浜家系ラーメンだったはずなのに、海苔もほうれん草も乗っていない。
アーリーレッドを刻んだものに、パクチーみたいな草が添えられている。砕いたナッツが入っているのもある。
店内をよく見たらいつものおばちゃんがいない。
かわりに別のおばちゃんがいて、もう何十年もここの店主をしていますといった面持ちで店をまわしている。
この時点で、並行世界に存在する同じ名前の店に来てしまったのではないかという疑惑が脳内に浮上する。
あのラーメンが食べたくて来たのに!と思いながらも仕方なくラーメンと唐揚げのセットを注文する。
大丈夫、このお店は唐揚げがほんまに美味しい。
ザクザクの衣に甘辛いタレがかかっていて、これだけでお茶碗一杯の白米が消えるほどに。
さて今日もまずは唐揚げで大勝利♪するかと待ち構えていると、普段通り、ラーメンより先に唐揚げが運ばれてくる。
目前に置かれた唐揚げを見て、魂が椅子から転げ落ちる。
甘タレがかかっていない、いつもより一個少ない……ざ、ザクザク系衣じゃなくなっている……
ここまできて僕の中に渦巻いていた疑惑は確信に変わった。
僕がパラレルワールドに迷い込んだか、もしくは宇宙人に乗っ取られたんや、この店は。なんということだ。
大切だった店とのお別れ会のつもりで啜らせてもらおうと厳かにラーメンを食べる。
アーリーレッドが辛くて鼻がつんとする。もしかしたら泣いてしまっているかもしれない。
さよなら。たしかに愛してた。
たぶん僕はそのまま並行世界をさまよっていて、今日の家路の風景に見覚えがないのも仕方のないことなんだろう。
スーパーでポケモンパンを買ったら、バウッツェルのシールが出た。写真を撮って友人に送ったら、「なにこのキャラ、犬?」という返信と共に、犬っぽい生き物のスタンプが送られてきた。
国民的人気を誇る激マブキャラであるパピモッチの進化形を知らないようなものが僕の友人なはずがない。
たぶん、僕はこのまま九龍城へ帰ることになる。