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[読書日記」いのちの車窓から 2

「いのちの車窓から 2」 著者/星野源
2024年9月30日 初版発行

興奮、
放心、
感動、
静寂、
感謝、

私が「いのちの車窓から 2」を読んで感じたことを簡潔に時系列順に表現すると上記の通りとなる。
前作から約7年半、本当に待ちに待った。
その間音楽や役者業で多忙だったのは周知の事実で、無理はしないでほしいし、ご本人も気長に待っていてねと仰っていたので言われた通り大人しく待っていた。
暴れることなく発売のその日までちゃんと”待て”が出来たので、今ここでは思いの丈を叫ばせてほしい。
(以下ネタバレも少々含みます)

最高でした。
こんなにも自我を忘れて読書に没頭したのは初めてです。
源さんの言葉の一つ一つを漏らさずキャッチしたいと全集中しました。
そして興奮して読み終わったあと、静かに泣きました。
それは多分あまりにも壮絶な文章で、文字通り命を削って執筆して下さったのではないかと思ったからです。

ドラマチックな展開が多くあるわけでもなく、
著者の視点からの事実がどちらかというと淡々と描かれているだけで、とてもシンプルな表現なのにどうしてこんなに読者の懐に入り込んでくるのだろう。

私が読んでいるのは星野源と言う人のストーリーのはずなのに、いつの間にか私の人生のストーリー(おそらく他の読者の人生とも)と交差している。
書かれている内容は内省的なのに、その世界を限定するでなく広く開放して読者にゆだねるその潔さが凄いと思った。
そしてゆだねられた読者は、自分の中でほんの少し色味が足されたそのストーリーを編み続けていくのだろう。
まさにContinues…

本作の中で7年半の時間が経過しているので時間の移ろいとともに変わる著者の心情や視点の変化は大変興味深い。
私は雑誌ダヴィンチの連載も読んでいたが、当時の原稿から加筆修正されている箇所もとても多いように思う。
それはすなわち著者自身の意識のアップデートを意味するところであり、2024年の今出版する作品として、きちんとそこを手抜きせずご自身の現在地まで引き上げているのが作品や読者に対して誠実だと思った。
その点については、あとがきでも触れられていて、こんなに親切に説明してくれるのかと驚いた。
このあとがきもとても良かったので、ぜひ正座して読んで頂きたい。
※本編の「今を生きる」でも考え方やアンテナのアップデートについて書かれています。

「心の扉」「恐怖」は真顔で面白いことを言ってるシュール感がたまらなく好き。文章の構成が上手い!と素直に感心する。

帯にも抜粋されている「出口」は定期的に読み返すことになるだろう。

生きるのは辛い。本当に。
だけど、辛くないは、生きるの中にしかない。
(中略)
自分が生きてさえいればいい。なかなかそう思えないからこそ、そう強く思いながら、今日も私は出口の辺りでパンケーキを食べながら、無理矢理笑うのだ。

出口/いのちの車窓から 2
星野源 著

今回の書籍化に際して書き下ろされた4編のエッセイも非常に良かった。
その中の「東榮一という人」は読みながら大号泣した。
作中で東さんが著者に送った本の中の一節はまさに星野源そのものを表していた。これはさすがに何もかも溢れてしまう。
ここは著者の心が震える音が聞こえたようだった。

そして最後、
本のタイトルと同じ「いのちの車窓から」
ただただ圧倒された。
一度読んで、私は何を読んだのだ?ともう一度読み直してこれはフィクションじゃないよね?ともう一度読み直した。
圧巻。
まるで星野源が二人いて、二人でディベートしているような言葉の応酬。
すごい、本当にすごい。
全く同じではないと思うが、私もあの感覚はなんとなく分かる気がする。
”落ちたっぽい”と言われてなるほどと思った。
しかしあれを著者のように検証しようという発想も出てこないし、ましてやそれを言語化してしまうのが凄いを通り越して恐ろしいと思った。
そのうえ途中で日常のワンシーン(連獅子のような寝癖を携えたパートナーが起きてきたくだり)を挟むことで、著者の脳内会議がただの妄想でなく、ちゃんと現実の中で繰り広げられていることを読者に示している。
そこも含めて素晴らしいエッセイだった。

既に何回も読み返しているが、何度目でも新鮮な感想が湧き出てくる。
そしてざわついていた自分の心が静寂に包まれ和らいでいることを感じる。
私にとって本書は、美味しいものを食べることや、アロマオイルを香ること、散歩をすることと同じセラピーの一つになった。

単純に好きな文筆家が生み出す言葉に癒されるのだ。

だいぶ先のにんじんになるかも知れないけれど、次回作を楽しみに生きていきます。

素敵な作品を世に出して下さって有難うございました。
大切に読みます。

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