カレーは神々の糧か。カレーとトリップ【検閲前完全版】
某店のカレーを摂取した人から、トリップ症状を体験したという報告が相次いでいる。
ある人はそのカレーを食べた数十分後に耳が遠くなり、目の前が霞み、身体感覚が変容し、手足がどこまでも延々と伸びていくような感覚に陥ったという。そのあと短時間で元に戻ったものの、その症状はある種のインドール系幻覚剤を摂取した際の意識変容、いわゆる"トリップ体験"と酷似している。
本稿では、物理的な旅と対比される精神的なトリップを引き起こす、「カレー」のドラッグ的な側面について考察していく。
ドラッグとは飛ばされるもの
"Magic Spice"というスープカレー店がある。本店は札幌にあり、東京と大阪にも支店を持つ。私自身は何度挑戦してみてもトリップできないが、久しぶりに下北沢の店舗に食べに来てみた。
大きなガネーシャやサイババをモチーフにしたらしきキャラクター、ガンギマリの配色など店作りやコンセプトは完全にサイケデリックシーンを意識しており、一部のファンから熱烈な支持を得ている。メニューには麻の種やCBDオイル、「マジックのマッシュ」という名前のキノコなど怪しいトッピングが多数取り揃えられている。辛さの段階が仏教用語に準えて複数用意されており、中でも最も辛いオプションである「虚空」にはこのような説明書きがついていた。
ナチュラリストですね。この「望む望まざるに関わらず」という言葉は実にトリップ体験の本質をうまく言い表していると思う。
マイケル・ポーラン著『幻覚剤は役に立つのか』にはLSD、サイシロビン、DMTというインドール系幻覚剤により引き起こされた"旅の記録"がそれぞれ克明に記されている。
幻覚物質の作用は摂取した後一定時間が経過すると完全な効果を発揮するのだが、ひとたび物質が展開するとヒトの意識に非常に強烈な印象をもたらす。眠ることはできず、発進した飛行機の座席に縛り付けられ強制的に景色を見続けさせられているような状態となる。数時間後にその物質が分解されるまで、時間感覚の喪失、幻視、離人感、気分の変容など様々な体験が起こるらしい。
なんとも不思議だが、植物から抽出された毒を食らって普段とは違う精神状態を体験することにメッセージ性や"意味"を見出し、ヒトという生き物は「トリップ」を楽しんでいる。
実際に「虚空」を食してみると野菜がたくさん入ったスープに骨つきの鶏もも肉がドカンと一本入っている。インドネシアのチキンカレーであるソトアヤムがルーツの一つらしいが、確かにアジアの屋台料理を一杯の中でごちゃ混ぜにしたような料理だ。「虚空」はピッキーヌ25本という辛さ目安が示してあり確かに辛いのだが、唐辛子以外にもスパイスが加えられており、何より素材のうまみが引き出されているので単に辛いだけというわけではない。
食べながら説明を読み進める。このカレーを食べるときには「セット」と「セッティング」が重要だという。
この考え方は1960年代にティモシー・リアリーとラルフ・メツナーによって確立された。つまり、カレーを始めとしたドラッグの効果や体験は目的意識の「セット」と環境や背景などの空間情景という「セッティング」に大きく依存するということだ。
「よーし、今日はたっぷり楽しんじゃうぞ」とか「健康になるぞ!」といった心構えを定めた上でしっかり体調を整え、楽しい仲間たちや大好きなフィッシュマンズのアルバムを用意し、自身が真剣に人生を楽しめるシチュエーションや状況を作る。
当たり前のことなのだが、忙しい生活をしていると何かと忘れがちなことかもしれない。何となく興味本位で手を出したり、不愉快な状況や人間関係、不安なことを放置したままでカレーを食べると、十分に効果が得られなくなったり、恐ろしいことに出会うなどいわゆるバッドトリップを体験する羽目になる。
最初は咽せてしまったが、このカレーは一口食べることになぜかもう一口が欲しくなる。トウガラシのカプサイシンの作用なのか食べるごとに集中力が増し、瞑想状態に入り口数が減ると書いてある。思えばトウガラシはずっと旅をしてきたし獣医学の半分は生殖の話をしている、先輩夫婦の子供は遺伝子の乗り物、人間独自の行動は認識能力のダンス、ソーマの缶詰、オディシャ出身ポカラッパー、闘争本能による鬱、嘘!時速20000チャパティ、東インド会社の人と400年ぶりに知り合った、カルパシのミクソロジーは椎茸の出汁、私のティファン力は53万だから納豆は食べない、イドゥリの先っちょ、南インド料理のこと見切った、バイヤァの肩に蠅、動きがあるから海よりYouTubeの方が面白えじゃん、五重魔沙羅建立、自我の出方がヤング、笑うと歯の数が多い、 जय गुरुदेव ॐ、ようやくテージパッタに火がついたようで、ビートルズが止まって見える(A Day in The Lifeに差し込まれた悪意も見える)。
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