木槌で叩いて作るひき肉はおいしいのか?:カレー哲学の視点(22/02/26〜22/03/05
2月は飛ぶように短く、人生全体において2月の日数は少ない。少ないものが希少価値を持つというのならば、2月の日々は濃厚で貴重な日々だ。
濃厚といえばカシミール料理である。ほとんどが山岳地帯であり寒冷な気候のため生鮮な野菜が手に入りにくく、肉や脂がたくさん使われた料理が多い。ヨーグルトや乳製品を多用し、カシミールチリ、フェンネルパウダー、ジンジャーパウダー、ブラウンカルダモン、グリーンカルダモンを使うとカシミールっぽい香りになる。
寒い時期にちょうどよいので、2月はずっとカシミール料理について嗅ぎ回っていた。カシミール料理を提供しているお店は日本にはないが、北インド料理を提供する店ではローガンジョシュやアルーダムなど一部のカシミール料理が紛れ込んでいることがある。
カシミール料理をいくつか実際に作ってみた。
木槌で叩いたひき肉を使ってグシュタバを作る
15世紀に中央アジアから移住した職人の末裔と言われているワザが作る伝統的なパーティ料理がوازٕوانワーズワーン。ほとんどが肉料理で構成されており、タラミという大皿を4人で取り囲んで食べる。
ワーズワーンの中で必ず提供されるものにグシュタバやリスタという肉団子の料理がある。YouTubeを漁っていると、のどかな大草原の中、歌いながら木槌で肉を叩きまくるおじさんたちの姿が見られる。
毎週木曜にしか出現しないフレッシュなラム肉が手に入ったので作ってm似た。
まずは脂肪分を切り分けておく。肉を石の上に静置し、木槌で叩く。なかなか形が崩れてこないが、すりつぶすようにハンマーを使うと徐々に組織が崩れてくる。筋繊維が崩壊してくると石に張り付くように白い筋が残るのでその度にひとつひとつ丁寧に取り除いていく。
ある程度ピンクスライム状になってきたら脂肪も加え、カルダモンパウダーと塩を振ってさらに叩く。すり身と同じく、塩を入れることで弾力が出てくる。
このプロセスを繰り返し、表面がつるつるのミートボールをつくる。脂肪が溶けるので丸めるときは氷水で手を冷やしながらやる。手間ばかりかかるように思えるが、普通のフードプロセッサーではこのような仕上がりにはならない。
手前が叩いたもので、奥がフードプロセッサーで挽いたもの。脂肪を混ぜ込む量も違ったかもしれないが、フードプロセッサーのものは筋が取り除けていない。
本来はりんごくらいの大きさの肉団子で作ったりもするらしい。そもそもここまで柔らかくするのは老人でも食べられるようにという配慮もあるようだ。
これをヨーグルトベースのグレイビーに入れてグツグツ煮る。フープロと木槌叩きを食べ比べてみると、フープロの方はスジも含んでしまっているので固いものが残っている上、少しギュムッとした弾力がある。対して、叩いてひき肉にした方は崩れるような食感で柔らかく仕上がっていた。
詳しくはカシミール料理まとめnoteに残すが、その他にも骨付きチキンの赤い煮込みチキンローガンジョシュやじゃがいものヨーグルトグレイビーアルーダム、ほうれん草煮込みのハーク、羊のスペアリブのギー焼き、タバックマーズなどたくさん肉料理を作りワンプレートのワーズワーン風にした。材料費がバカ高い。
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