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考える部屋#11 京都タンドール会議2020レポート

先日、京都へ行きタンドール窯で遊ばせてもらい、定番のチキンティッカから高級食パン、バナナまで思いつくままに色々なものを焼いてみた。

とても楽しかった上に学びの多い貴重な体験であった。実際に触ってみて、タンドールに対する考え方が900度くらい変わった気がする。


タンドール窯、またはタンドリー窯。それは日本でもあまりにも有名であろう。日本にたくさんあってどこでも食べられるインド料理といえばでっかいナーン、バターチキンカレー、タンドリーチキンのイメージが強いかもしれないが、そのすべてがタンドール窯がないと作れない料理だ。

タンドールは土でできている。甕のような形で、ステンレスやドラム缶などのケースで覆われている事が多い。タンドールは重いし、扱うのは非常にめんどくさい。オーブンと同じように使う前に窯全体を温めなければならないので、炭火を起こして使えるようになるまで数時間かかる。さらに、焼き物に最適な350度位を炭でキープし続けるのも大変。当然だが窯の内側は熱いので腕の内側を火傷する。(それがタンドール使いの勲章だという話も聞く。)

これらの作業を、日本全国に2000店舗以上あるインネパ店ですべて毎日地道にやっていると思うと涙がちょちょぎれそうである。


炭火を扱うのでタンドール窯を使うのにはリスクもある。大田区のインド・ネパール料理店ではタンドール窯による死亡事故が発生している。

その苦労やリスクを上回ってもなお、タンドール窯で焼く料理には魅力が存在しているのである。もちろん火事や一酸化炭素中毒には細心の注意を払おう。

当たり前だがこれだけ扱いが大変なタンドール窯はインドでは一般家庭にはほとんど普及していない。しかし、インドの家庭ではタンドールを使わない、と言い切ってしまうのも違うようだ。

伝統的にパンジャーブ地方のシク教徒の集落では共同炊事場(サンジャー・チュラー)にタンドールが置いてあることが多く、毎夕主婦が集まってロティ(インドの主食のフラットブレッド)を焼きながら井戸端会議ならぬタンドール端会議に花を咲かせていた、という。そういう習慣はもう過去のものなのかもしれないが、パンジャーブ地方では簡易的なタンドール屋台も多く、朝からタンドール料理が食べられるなど、生活の中に身近にタンドール窯がある。(小林真樹 著『食べ歩くインド』より)


日本でのタンドール窯の普及に大きく貢献し国内で圧倒的なシェアを誇るのは神田川石材商工という会社らしい。見学に行きたい。




タンドール調理はなぜ美味しくなるのか?ピザ窯との違い

窯といえばピザも窯で焼くが、タンドールとは何が違うのだろうか。インド雑貨販売のティラキタさんのサイトにまとめられていたので引用する。


ピザ窯は横に長く、狭い中で焚き火を行っているイメージ。直火ではなく、火の熱や輻射熱で、窯の中を温めて料理をする窯。
対して、タンドールは輻射熱を利用した縦型のオーブン。上から食材を出し入れし、窯に直接貼り付けたり材料を串に刺したりする。
下に火があるので直接炭火で調理したのと同じ効果が得られ、窯やオーブンと同じように均等に焼ける。炭火なのでスモーキーな風味も得られる。

つまりタンドール窯は炭火とオーブンの両方の効果をいいとこどりした、魔法のような窯というわけですね。


実際にタンドールで遊んでみた

今回タンドールで遊ばせてもらうにあたり、事前に確かめたいことがいくつかあった。

・タンドールで焼いたチキンティッカとオーブンで焼いたチキンティッカの違いとは?
・安い食パンもタンドールで焼くと高級食パンを超えられるのか?
・タンドールでピザは焼けるのか?

その他にも面白そうなものは全部焼いてみようと思い、スーパーで見かけたものを片っ端からかごに突っ込んで購入した。完全にBBQに行くときの悪ノリである。最終的には時間が足りず全部は焼けなかったが。

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釜の余熱

オーブンと同じく、タンドールは使えるようになるまで余熱で数時間かかる。まずは炭に火をつけて熾火になるのを待つ。

ただ、待つということ。タンドール窯が使えるようになるまでの時間はとても豊かな時間である。レンチンすれば食べられるものばかりの世の中に対するアンチテーゼ。

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ソーセージ

ようやく窯の準備ができた。タンドールは縦型のかまどのため置く場所がなく、焼く物は全て串(シーク)に刺すか、壁面に貼り付けることになる。

いきなり変則的だが、宴のスターターはソーセージと洒落込んだ。シークに刺して窯に立てると、脂が滴れて煙が立ち、うまそうな香りがする。

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香ばしく火が通り、引き上げて梁にシークごと垂らす。

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実食。

ソーセージといえばフライパンでコロコロ転がしながら煎るように加熱したときに皮がパリッとなり中のジューシーな脂と肉汁がジュワッと滲み出るのが何よりの醍醐味。

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しかし、タンドールで焼いたものは皮がパリッとはならず、若干シワッとなっていた。美味しいんだけど少々物足りないというか、お前ならもっと上を目指せる!と言いたくなる味。

考察:まだ温度が低かったのだろうか?炭火の香りがついていて風味がいいのだが、ぱりっとした食感を求めるなら多分鉄板やフライパンで焼いた方がうまい。


イカの炙り比較

お次はすでに炙ってあるイカをタンドールで加熱した場合とガスバーナーで表面だけ炙った場合を比較してみた。

イカがシークに突き刺さっているシュールな絵面。

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比較用としてガスバーナーで表面をあぶる。

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見た目からして結構違う。上がタンドール焼き、下がガスバーナーでの炙り焼き。短時間だが、タンドールで加熱した方はスモーキーな香りがつき、さきいかのように水分が飛んでいて弾力が加わっている。ガスバーナーは表面が焦げただけの味。それにしてもなかなかイカ臭い。

考察:イカの大きさに対して温度が高すぎたのかもしれない。
また、すでに加熱してあるものだったためすぐに焦げそうになってしまった。生の丸イカを買って、低温で干すようなイメージで長時間加熱を試してみたい。



焼きリンゴ焼きバナナ

お次はタンドリーリンゴとタンドリーバナナにトライ。

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りんごとバナナが仲良くタンドールで並んでいる光景は、なんだか微笑ましい。

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こちらは4分で取り出したバナナ。軽く温めた程度だが、ねっとりとした実がシナモンシュガーとよく合う。

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続けてバナナは15分、りんごは20分加熱してみた。
バナナは甘い芋のような食感に変わり、皮が焦げて水分が飛んでいる。ホイルで包んで焼くのもありかもしれない。

20分焼いたりんごはなぜかディズニーシーを思い出させる味と香り。なんだろう。シナモンとよく合い、柔らかくほどけるような味。

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考察:
果物のタンドール焼きには可能性を感じる。

果物は水分が多いので焼くだけでかなり違った食感になっておもしろい。
バナナは青バナナと黄色いバナナで仕上がりは違ったものになりそう。黄色いバナナも水分が飛んで焼き芋のようになった。
もう少し焼いて焦げ気味にしたバナナもおいしいかもしれない。りんごもバナナもシナモンシュガーで食べたが、クローブなんかも合いそう。


チキンティッカのタンドリーとオーブン比較

今回タンドールを使って確かめたいことの一つに、

・タンドールで焼いたチキンティッカとオーブンで焼いたチキンティッカの違いとは? 

というものがあった。


たまたまパキスタン料理のプロの方が一緒にいたので、チキンティッカを仕込んでもらい(油とフライドオニオンをわんさか入れるレシピ!)、3時間程度マリネしてからタンドールとコンベクションオーブンで焼きの比較をした。皮はとらず、そのまま使う。

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オーブンは450°F設定(約230℃)でグリル。皮目を上にしてセット。

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タンドールの方は串にさすのだが、骨がない肉なのでグニグニして難しかった。手で掴んで、曲げながら複数箇所を刺すようにしてシークを通す。

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オーブンで25分加熱したものがこちら。全体に均一に火が通っていて、ソースが十分にまとわりつき、身がぷりぷりしている。安定した味といえる。皮は柔らかく、ぷにぷにと柔らかい。ジューシーで美味しい。

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タンドールは15分くらい焼いたところ、表面がいい具合に焦げて美味しそうになったので取り出す。皮から脂がたれて煙があたりに立ち込めていた。

皮を含めて表面がパリッとしている。炭の香りがして美味しい。中はジューシーでもちもちとなり、オーブンで焼いたものより水分がかなり残っている。マリネに入れたフライドオニオンがいい味を出している。

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考察:
オーブン、かなりうまいんじゃないか?

オーブンで焼いたチキンティッカは均一に火が通っており、安心して食べられる安定感がある美味しさであった。一方タンドールで焼いたものは焼き加減には少々ムラがあるものの、スモーキーな香りがまとわりつき、水分も多くてジューシー・
インド料理店で食べるタンドリーチキンやチキンティッカがパサパサしているのは、インド人の好みもあるが、二度焼きが要因のようだ。
お店では、一度焼いたものを注文を受けた後に温めて出しているため水分が抜けている。時間がかかってもいいから一度焼きしたものを食べたい。

オーブンで焼いたものも悪くない。悪くないどころかかなり美味しいと思った。もっと低温でじっくり焼いたらさらによくなりそう。


高級食パンと安食パンの比較

安食パンは、タンドールで焼くことで高級食パンを超えられるか?!
以前Twitterで見かけたこれをやってみたかった。


安食パンとして、スーパーで88円5枚切りの食パンを購入。写真はないが、色々と混ぜものが入っていたりする一番安いパン。

対する高級食パンは、京都発の「別格」を2斤購入。果たして、安い食パンでも高級食パンを超えられるのか?

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まずはそのまま食べてみる。安い方は、ああ食パンね、という味。対する高い食パンは、ミルキーで甘くやわらかく、上品に香る。率直に言えば高い味がする。はんなり京都美人、といったところか...。

高級食パンは安食パンと同じ厚さに切り、タンドールで焼く為にシークに刺して吊るす。

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パン焼き器に投入。

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2分15秒ほどで引き上げる。断面の差なのか、焦げ具合には差がある。
トースターとは仕上がりが違って、耳がかなり柔らかい。

そのまま食べたときはそんなに美味しいと思わなかった安いパンもタンドールで焼くとかなりおいしい。
ただ、高い食パンはもっとおいしい!高い味がす!、としかいいようがないのだが美味しい!

ギーがなかったのでそのまま、もしくはチキンティッカのソースをぬぐって食べたりした。

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考察:
高いパンは高い。
安いパンもタンドールを使うとトースターで焼くより柔らかくもっちりと仕上がりおいしくなる。そのまま食べてもかなりおいしい高級食パンは、トースターで焼いても十分おいしいのかもしれない。
パンの切り方はもっと厚焼きにしても美味しいのかも。


タンドールでピザは焼けるのか?

ピザ窯とタンドール窯の方式の違いを上の方で取り上げたが、逆にピザはタンドールで焼けるのか?が気になってしまい、スーパーでチルドのピザを購入した。

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ただ、御存知の通りタンドール窯はピザ窯のように横からスライドさせて焼く事はできない。

ならばどうするか。ナーンを焼くときは、生地を濡らしてタンドール窯の内側に貼り付けて焼くのだ。窯自体は素焼きの壺なので無数の孔が空いており、生地が吸い付くのである。ちなみに日本製のタンドールの方が密度が高いため濡らしすぎるとくっつかなくなり、インド製のタンドールは粗めにできているので水分は多めに塗ったほうがくっつく。


それを応用して、ピザ生地を濡らし、壁面に貼り付けて焼くことにした。果たして、うまくいのだろうか。。

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ビシッ!とピザが貼り付いた!!深夜テンションもあり、ここ一番の盛り上がりとなってしまった。

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2分程度焼いて、ナンと同じように串を2本使って取り出す。

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タンドールでピザが焼けた!ちなみに具は全部落ちた。
端っこの焦げ具合がかなりクリスプであり、オーブンとはかなり違う仕上がりとなった。タンドールピザおいしい!

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考察:
ピザはピザ窯で焼いたほうがよい。
インドのピザ的なものにクルチャがあるが、クルチャは何の生地の中に野菜やチーズなどの具を詰めてタンドールで焼いたものだ。
当たり前だが、ピザのように上に具を載せただけだとタンドールでは落ちてしまう。
中に具を閉じ込めたピザ生地ならばタンドールでも焼けるのだが、それは果たしてピザなのか。ピザとは何かという新たな問いが生まれてしまった。


秋刀魚

おまけでサンマも焼いてみた。塩をふってタンドールで8分。
炭火焼き、想定の範囲内のおいしさ。脂が滴ってかなり煙が上がった。

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おわりに:締めのチャイを飲みながら

深夜テンションで駆け抜けたタンドール実験だったが、振り返ってみても本当に楽しかった。なかなかメンバーの予定が合わず、21時頃からタンドール窯を温め始め、実際に焼き始めたのが24時過ぎてから。最終的にすべて終わって四条烏丸のホテルまで戻ったのが午前4時頃だった。

タンドールとは、インド料理店にいくたびに物理的にはかなり近いところにいたのだろうが、間近で自分で使ってみる機会というものはなかった。それゆえ精神的にはちょっと遠かった。また、「インドの家庭ではナンは食べない〜」云々の風説によりタンドールを使う料理は自分の目指すところではない、と決めつけていたフシもある。

しかし実際に触れてみるとタンドールはかなり心をくすぐるアイテムだ。焼いたものはもちろんおいしいし、なんというか、アナクロ・不便ゆえの愛おしさというものがある。小さめのサイズを入手して、ぜひ東京マサラ部室におきたい。

そういえばインド・ネパール料理店に行くとネパール人はダルバートみたいなものよりナンとカレーを食べていることが多い。ネパール人的にはインドの正当な外食料理として、ナンとカレーは高い位置にあるのだとか。

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スペシャルサンクス
■次の日バイトにも関わらずタンドールを快く使わせてくれたそうりょうりちょう 
https://twitter.com/sonosuke20
■コオロギキーマとチキンティッカを作ってくれたジョニーさんhttps://twitter.com/biryani_s
■深夜にも関わらずイーターとして駆けつけてくれたクニモチさん
https://twitter.com/knmcurry


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