生食用トマトと加熱用トマト、どちらがカレー作りに向いているのか?トマト実験Vol.2【カレーのカガク】
カレー作りに欠かせないアイテムであるトマト。世界中で10000を超える品種があり、日本でも240種類ほどが栽培されているという。
前回の実験でホールトマト缶について調査したが、トマトの選択肢はトマト缶以外にもトマトピューレ、トマトペースト、生トマトなどいくつかある。今回は生トマトにおける生食用トマトと加熱用トマトの違いについて比較してみた。
前回の実験↓
生トマトには調理したときにおいしくなる調理用のトマトと、生でそのまま食べたほうがおいしい生食用トマトがある。日本のスーパーで一般的に流通している横長の形をしたトマトはほとんどが生食用だ。
しかし、これを比較してみるとどうなるのだろうか?生食用トマトと加熱用トマトを数種類用意し、生食での比較をしたあとカレーにして食べ比べてみた。
今回もいつもどおり、八丁堀wacca 三浦さんに全面協力していただいて実験を行いました。waccaは大阪は関目から東京は八丁堀まで移転してきて早一年が過ぎましたが、フロンティアスピリッツを忘れず挑戦を続ける姿勢が素晴らしいお店です。ぜひ食べに行ってください。
玉ねぎ実験やバスマティライス比較など、過去の「カレーのカガク」実験についてはこちらにまとめています。
生食用トマトvs調理用トマトの基礎知識
生食用をピンク系、加工用を赤系と分類することもある。
生食用トマト
ピンク系トマト。日本でスーパーで流通しているのはほとんどが生食用で、熟してもピンク系の浅い色づきになる。
ハウス栽培で一年中収穫できる。
水分が多くジューシー、酸味や青臭さが少なく皮が薄く果肉が柔らかいため、冷やしてカットしてサラダなどで食べるのに向いている。
加熱すると水分が出て水っぽくなったり色が褪せる。
横に長い平たい形をしている。
調理用(加工用)トマト
中まで真っ赤な赤系トマト。
酸味と甘味が強い。
生で食べるトマトよりも野生の姿に近い種類。
盛夏にのみ収穫できる。
生のままで食べると風味が薄く、果肉も硬くて食べにくい。粉っぽく感じることもあるが、加熱することで味が濃厚になり、果肉も柔らかくなる。
色が鮮やかに仕上がるのも特徴で、海外では圧倒的に調理用トマトの方が使われている。
うまみ成分グルタミン酸の量が多い。リコピン濃度は時期にも左右されるが生食用トマトの2~3倍もあるらしい。
ロケット型をしている。
今回比較用として用意されたのは以下5つのトマト。
まずはそのまま食べてみる。
①スーパーで売ってた生トマト
横長の典型的な生食用トマト。スーパーで流通している大玉サイズ(150g以上)のトマトのほとんどがピンク系トマトの「桃太郎」シリーズの仲間。
食べてみるとまだ青みが残る風味。硬めで甘みと酸味はやや物足りない。生食用トマトはハウスで作られることも多く、少し熟したりない印象。
②シシリアンルージュ
"シチリア島の口紅"の異名を持つロケット型のトマト。
イタリア・シシリア島のブリーダーと日本の種苗会社が作出した品種。生でもおいしいが加熱調理・加工用向き。食べてみると濃厚で甘酸っぱく、水っぽさがなくやや固い。赤い。
③ローマトマト
イタリアで代表的な調理用トマトの品種の一つ。赤みが強い。
皮がやや厚めでゼリー成分が少ないため歯ごたえがある。野菜っぽい香りがする。
見てわかるように色が薄く、味も少し薄かった。
④ミニトマト
「ミニトマト」は重さ10g~20g程度の小さなトマトの総称で、プチトマトは品種名。
ミニトマトは完熟でそのまま食べるのに向いている物が多い。
ミニトマトは個体差のブレが少ない気がする。食べてみるといつもどおりの味。酸味が強い。
⑤カットトマト缶(比較用)
ホールトマトとカットトマトの違いはこちらの記事が参考になる。
ホールトマト缶は細長いサンマルツァーノ種、カットトマトには丸い形のトマトが使われることが多いがどちらも加熱に向いた品種のトマトが使われている。カットトマトの方がどちらかといえば煮崩れしにくい。
この実験を実施したのは12月の頭。これら5種類のトマトだが、ミニトマト以外はどれも完熟ではなく、少し青臭いものが多かった。
実際に2種類のカレーを作って食べ比べてみた。
問い
疑問点を改めて整理してみよう。
仮説
仮説としてはこうだ。
加熱用トマトと言っているくらいなのだから、加熱したほうがおいしいに決まっているのではないか?
検証方法
5種類のトマトを使い、それぞれを使ったカレーを作って食べ比べてみる。
カレーはトマトをしっかり炒めた状態で食べ比べてみることを目的とした鯖キーマと、後入れで軽く加熱した状態で食べてみるためのKalyanaラッサムの2種類。最終的に5×2で10種類を食べ比べる。
※レシピは後述。
●トマト5種類
生トマト
ローマ
シシリアンルージュ
ミニトマト
カットトマト缶詰
●カレー2種類
ブラザー再現鯖キーマ…しっかりトマトを加熱して崩し、カレーのベースに使う。
Kalyana Rasam…あとから加えてトマトに軽く火を通す。
結果
①トマトをしっかり炒めた状態で食べ比べてみる(鯖キーマ)
コバタロカレーのレシピで、コバタロカレー本人にブラザー再現鯖キーマをトマトのみ変えて5パターン作ってもらった。本来はトマト缶を使うレシピなのだが、全て同量の生トマトに変換。
評価
旨味が際立っているのはローマとシシリアンルージュの加熱用トマト。ローマは色と同様少し味わいが薄く、シシリアンルージュの方が甘い。生食用トマトより調理用トマトのほうが甘みと旨味がわかりやすい結果になった。
ミニトマトは酸味が強い。
缶詰はやはり缶詰とわかる味わいがする。それでも旨味と風味が強く、ブラザーの味に最も近い。ペースト状に分散されているので味が均質になっている。
缶詰とは反対にフレッシュな風味は生トマトにしかない。
②後入れフレッシュな状態で食べてみる(ラッサム)
kalyana rasamという、おめでたい場で出されるラッサムを作ってみた。
ラッサムをまとめて完成させたあと分割し、最後にトマトを加えてから2分ずつ加熱した。
評価
同じ加熱時間で比較した場合、ローマとシシリアンルージュは生食用トマトと比べて若干固い仕上がりとなった。
シシリアンルージュは生食用トマトに比べて甘みと旨みは強い。ローマトマトはそこまで差分がなかった。
缶詰は独特の匂いが全体に溶け込んでいて、ラッサムの場合は缶の風味が悪目立ちする。
ミニトマトは酸味が目立つ。
考察
そもそもの本題であった生食用トマトと加熱用トマトのどちらがカレー作りに向いているのか?という問題に対しては、
・じっくり加熱した場合、調理用トマトは生食用トマトに比べて甘みと旨味が際立つ。
・軽く加熱した場合、品種によるが調理用トマトのほうが甘みと旨味をより感じる。しかし皮の固さは気になる。
ということは少なくとも言えそうだ。
しかし、品質の差分によってブレが大きいため今回の実験だけでは余り確実なことはいえない。時期を選んで品質のよい生トマトを使うことで、もう少しはっきり差異がわかるかもしれない。
その他気になったこと。
ミニトマトをあえて使うレシピもあるが、酸味が目立つので使い方が難しいと感じた。、
生トマト同士での差異はそこまでわからなかったが、加熱用トマトは同じ加熱時間で見ると生食用トマトに比べて固い。加熱用トマトはよく加熱する使い方のほうが実力を発揮しそう。
生トマト同士の差分よりも、生トマトかトマト缶かの差異が大きい。ラッサムなどベジ料理の場合は特にトマト缶の味と匂いが顕著だった。
鯖キーマは缶詰を使った場合、こくと旨みが生トマトより強く感じられた。これはトマトがピューレ状に溶けているため全体に行き渡って均質化したことが原因だと推察される。
生トマトをピューレ状態にして使えば、もう少し強いコクと旨みを得られる可能性もあるかもしれない。
平均的なおいしさを目指すならトマト缶で十分で、むしろその方が好きな人も多いかもしれない。あえて既製品っぽさを出して松屋っぽいポップなカレーを目指すならトマト缶を使うのもいいかもしれない。
ラッサムの場合は缶詰の風味が悪目立ちするので生トマトを使ったほうが良いが、肉や魚などノンベジのアイテムであればトマト加工品を使った方が安定したクオリティが得られる。
生トマトはあくまでフレッシュさを出す具材として使うのがいいのかも。
残された課題
・トマト自体が生なのか缶詰なのかの差は味としてわかりやすかったが、 生トマトの品種違いの比較はそこまで差がなかった。 もっと質の高いトマトを使えばもう少し顕著に差がわかるかも?
・生トマトとトマト缶の間の差異は大きい。ラッサムはトマト缶の独特な味と匂いが顕著に出てしまっていた。
・評価のサンプル数が少なすぎたためデータの信頼性に欠ける。評価手法はもう少しちゃんと考えたほうがいいかも。
・インドのトマトを実際に使ってみたい。
・例えばイタリアにはトマトの種類がたくさんあるが、今回比べた範囲内のものはトマトのほんの一部に過ぎない。状態のいいトマトで比べてみたい。
検証用カレーレシピ
サバキーマ(コバタロカレー)
鯖キーマ材料
◆◆材料2〜3人分◆◆ 600g
サラダ油120g(大さじ10)
マスタードシード6g(小さじ2弱)
玉ねぎ500g(中2.5個)
にんにく20g(4〜5片)
しょうが20g(4〜5片)
トマト缶250g(1/2缶強)
▼パウダースパイス(ホールスパイスをミルで粉にする)
・クミンシード6g(小さじ3)
・ブラックペッパーホール2.5g(小さじ1弱)
・フェヌグリーク2.5g(小さじ1弱)
・フェンネルシード1.5g(小さじ1弱)
・コリアンダーパウダー8g(大さじ1)
・ターメリック3g(小さじ1)
・チリ2.5g(お店の大辛くらい
※市販のルウの辛口相当)(小さじ1強)
・パプリカ1g(小さじ1/2)
・鯖缶(汁込み) 150g(1缶)
・塩6g(小さじ1)
・水200g
ラッサム調理手順
Kalyana ラッサム 1.5Lの分量
■ラッサムパウダー
コリアンダー 小さじ1
トゥールダル 小さじ1
BP 小さじ1
RC 1本
クミンシード 小さじ1
■テンパリング
油 10g
赤唐辛子 5本
マスタードシード 2g
ヒング 小さじ1/2
ターメリック 5g
ジャガリー 5g
トマト 250g
タマリンド 60g
水 1.5L
塩 15g
●調理手順
ラッサムパウダーの材料を鍋で乾煎りして挽く。
トゥールダル 大さじ2.5
コリアンダーシード 大さじ2.5
クミン 小さじ2.5
BP 小さじ2.5
乾燥赤唐辛子 2.5本を弱火で乾煎りし冷ました後、ミルサーでパウダーにする。
・鍋に ターメリック 5g、ジャガリー 5g、塩 15g、タマリンド水を入れ10分煮る。
・ラッサムパウダーを加え、よく混ぜる。
・2分ほど煮込む。
・サラダ油 10g を熱し、マスタードシード2g、ヒング 小さじ1/2、乾燥赤唐辛子5本を加えてテンパリング。
・完成したものにカットしたトマト250gを加えて2分煮込む。
スペシャルサンクス
いつも場所と知恵と技術を惜しみなく提供してくださるwacca三浦さんには特別な感謝を。春から調理学校に入学したたいきくんも、いつも手伝ってくれてありがとう。今回の実験でレシピと調理を主導してくれたコバタロカレーにも感謝を。
そしていつもなにかと協力してくれるマサラ部室メンバーにも大変感謝しております!
▼ブログもやっています。
▼東京マサラ部室(https://twitter.com/masala_bu)でインドを作っています。
▼カレーのZINEを作っています。
今後もおおよそ月に一回ペースでワッカさんとカレーにまつわる疑問を検証する実験を続けていきます。
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参考
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