最もカレー作りに適したホールトマト缶はどれか?9種類比較実験@wacca【カレーのカガク】
カレー作りにおいて、トマトは欠かせないアイテムだ。栄養満点のトマトはカレーのベースになり、うまみ、酸味、テクスチャー、フレッシュさ、香りなどを与える。インドにトマトが入ってきたのは16世紀だというが、それ以前のトマトのないインド料理はいったいどういうものだったのか想像もできない。
カレー作りの材料としては、生トマト、ホールトマト、カットトマト、トマトピューレ、トマトペースト、トマトジュース、ドライトマト、トマトパウダーなど実に多くの選択肢がある。その中でどれがカレー作りに最も適しているのだろうか。
こちらの水野仁輔氏のnoteでは、「カレーのベースに使うならホールトマトがいい」と結論づけているが、果たして本当だろうか。
風味を活かしたりフレッシュ感を出すには、やはり生トマトを使うのがベストだと思う。しかし生トマトの場合、品種や産地、時期、保存状態やその年の気候などブレ幅が大きい。そこを見極める技術や脱水の技術を習得するのが難しいので、ホールトマト缶を使った方が一年中カレーの再現性を担保しやすいというのがその主な理由だ。
個人的な経験から言えば、サンバルやラサム、チャトニーなどベジの料理を作るときには生トマトを使わないとどうしても加工品っぽさが出てしまって違和感がある。試しにシンプルなダールにトマトピューレを使ったら強烈にファミレスのニオイがした。
まあ、まずは一番身近なアイテムであるトマト缶について調べてみることにしよう。
今回はホールトマト缶を9種類集めて食べ比べし、カレーに合わせて比較してみたのでレポートする。
きっと、トマト缶別の特徴の違いやカレーに使う場合にどのトマト缶を使うのがいいのかというのがわかるようになるだろう。
今回もいつもどおり、waccaの三浦さんに全面協力していただいて実験を行った。12月はディナー営業のコースも始まったので、是非とも食べに行ってください!僕も行きます。今度居酒屋営業も始まるらしい。
玉ねぎ実験やバスマティライス比較など、過去の「カレーのカガク」実験についてはこちらにまとめています。
カットトマト缶とホールトマト缶の違い
ところで、カットトマト缶とホールトマト缶は何が違うのだろうか。
カットトマト缶とホールトマト缶はそもそも使われているトマトの種類が違う。カットトマトは丸いトマト、ホールトマトは細長いトマトが使われている。ホールトマトはサンマルツァーノ種やドウチェット種という加工用品種が主に使われていて、加熱することによって美味しくなるトマト。味が濃く、煮崩れやすいのが特徴。対してカットトマトは果肉がしっかりしていて煮崩れしにくい。
こちらのサイトを参照するとわかるが、生食用と加工用では断面も栽培方法も大きく違うようだ。
こちらのnoteの記述を参考にしたが、家庭料理レベルで使う場合にはカットトマトとホールトマトに劇的な差があるかと言うと別にそうでもないらしい。
問い
生活圏内で気軽に手に入るトマト缶はたくさんあるが、各スーパーには1種類程度しかないことが多い。それぞれのメーカーによって味わいはどの程度異なるのだろうか。
ホールトマト缶の中でも最もカレー作りに適したものはどれで、それはどういった特徴があるのだろうか。
仮説
今回用意できたトマト缶はこの9種類。生活圏内のスーパーを回って買い集めた。
マンフーソ 有機トマト
KALDI ラ・プレッツィオーザ
カゴメ あらごしトマト
デルモンテ 完熟ホールトマト
ノルレェイク・インターナショナル イタリア産完熟ホールトマト
モンテベッロ オーガニック・ホールトマト
モンテベッロ ホールトマト
コプロ イタリア産完熟ホールトマト
ソルレーオネ ポモドーリ・ペラーティ
成分表示をまず読み込んでみると、一見同じように見えて実は2種類にグループ分けができることに気づいた。カゴメのあらごしトマトはあらごしトマトなので一旦除外すると、「トマト・ピューレー漬け」というものと「トマト・ジュース漬け」と記載されているものの2種類に分けられた。
①トマト・ジュース漬けグループ
②トマト・ピューレー漬けグループ
両者の製法の違いはよくわからないが、記載されている材料がちがう。
ジュース漬けの材料はトマトとトマトジュース。ピューレー漬けはトマトとトマトピューレなのだが、そこに必ずクエン酸が入っている。
クエン酸は味付けよりも保存料として添加されているもので、トマト缶特有の酸味の原因となる。これは温度にもよるが普通に煮詰めても飛ぶものではなく、むしろ全体の中でのクエン酸濃度が上がって酸っぱくなるらしい。
検証方法
今回の検証は以下の手順で行った。
トマト抜きで作ったラムカレーのグレイビー200gに、煮詰めたトマトをそれぞれ40gずつ混ぜてひと煮立ちさせて試食した。通常のカレーの量に換算すると倍量程度に相当するトマト分量になる。
総合結果
今回は6人で食べ比べを行い、「甘さ・酸味・旨み・濃さ・総合評価」の5つの項目に関してそれぞれ5段階で評価し、気になる点についてコメントを残した。購入価格はわからない状態での試験。
レーダーチャートは6人の評価結果の平均値となっている。
①トマト缶をそのまま食べてみる
トマト缶の中身をそのまま食べる機会はあまりないかもしれないが、当然食べても問題はない。食べてみると、加工されて濃くなったトマトの味が口いっぱいに広がる。同じように見えても一つ一つの缶には特徴があった。
総合評価が高かった順番に並べ、コメントを付け加えていく。
1位:「3.カゴメ あらごしトマト」
その他のコメント:
すでに料理になっている。ミートソースのようでもあり、醤油っぽい熟成感もあり、煮詰まってる感がある。
絵の具みたいに見た目がとても赤い。
甘くてうまい。そのまま食べたい。
複雑な味がしておいしい。
2位:「6.モンテベッロ オーガニックホールトマト」
コメント:
香りが弱い。柑橘系を感じる。
缶臭さが少ない。違和感がないというか自然な香りに近い。明るくて元気な太陽の子。
粒は固いのと柔らかいのが混ざっている。
きめ細かいピューレ、柔らかくて崩れている。甘みが強くてトマト感がある。
優等生でお上品なバランスのよい印象があり、クラスにいたら付き合いたいタイプ。
3位:「8.コプロ イタリア産完熟ホールトマト」/「9.ソルレーオネ ポモドーリ・ペラーティ」
三番目は同着で「8.コプロ イタリア産完熟ホールトマト」と「9.ソルレーオネ ポモドーリ・ペラーティ」であった。8はサミットで購入したかなりカジュアルな感じのトマト缶だがバランスの良さが評価された。9は同着3位となり、お上品で後味と香りはよいのに味は普通という評価が出た。
コプロ イタリア産完熟ホールトマトのコメント:
よくある嗅ぎ慣れた香り。普通っぽかった。庶民的で香り弱い。軽い。しゃばくて水っぽい。
トマトの大きさも硬さもまちまち。癖がなくて、味薄い。
旨味が少なくバランスが良い味とも言える。
後味がちょっと違和感があるが、わりとおいしい
ソルレーオネ ポモドーリ・ペラーティのコメント:
うまみが強い。
柑橘系でリッチな香り。草原の中の青臭さ、スイカ臭。
特徴的でお酒のようなニオイがする。アンモニア感かもしれない。
しゃばい。
弾力は柔らかめ。
お上品で後味と香りはよいのに味は普通
5位: 「7.モンテベッロ ホールトマト」
甘い匂いがありつつも青臭く、トマトらしい感じの香り。雨のアスファルトの匂いも少し感じられる。
粒は大きめで崩れているものがない。実がふくよかでグラマラス、粘度が高い。
酸味ちょっと強い。
水っぽくて記憶に残らない。
6位:「4.デルモンテ 完熟ホールトマト」
土臭い。獣臭い。山育ちというか、何かワイルドな香りがする。
味は薄くて甘みが少ない。酸味が強い。
粒は大小入り混じっていて柔らかめの食感。粒が崩れかけのものが多い。
7位:「1.マンフーソ 有機トマト」
しっかり土台がある味わい。強くて重みがある。
香りはオレンジっぽい。
トマトの粒が大きく、硬さと弾力がある。
酸味は弱い。まろやかでくせがない。
味はうすい、ほんのり甘く、水っぽい。
8位:「5.ノルレェイク・インターナショナル イタリア産完熟ホールトマト」
トマトジュース。鉄分のにおいがする。
ハイトーンで酸味がある。中性な感じで凡庸といえば凡庸。
清楚系で色濃くてきめ細かい。
粒は小さくてトマト固い。 テクスチャーが何か違う。
雑味がある。酸味強め、甘み、旨味うすめ。
土感があり、野菜っぽい香り。
9位:「2.KALDI ラ・プレッツィオーザ」
「味が濃い」というPOPに反し、非常に薄くて水っぽい。ジュース漬けだからだろうか。
生命力がない味で、一番香りが弱いかもしれない。
粒が小さくてトマトがすぐに崩れる。弾力がなくて色薄い。
後味が特徴的で酸味が強い。甘くて水っぽいからバランス的に酸味が強く感じられるのかもしれない。
一番まずいという意見が多発し、評価はボロクソだった。
考察
・カゴメあらごしトマトだけ異質なグラフとなっている。本来これはホールトマト缶ではない。
・トマト缶特有の酸味はクエン酸の量によって決まり、トマト自体の甘みの強弱や濃度で味の印象が変わる。甘みが薄いと相対的に酸味が強く感じる。
・同じように思えて、味わってみると個々のトマト缶はそれぞれ味も香りも違った。
・「6.モンテベッロ オーガニックホールトマト」、 「7.モンテベッロ ホールトマト」、「8.コプロ イタリア産完熟ホールトマト」は全体的に味のバランスがとれている印象。
・「4.デルモンテ 完熟ホールトマト」は際立って土臭い香りがした。
②半量煮詰めトマト比較
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