2022年中学受験用 時事問題対策テキスト 6社の比較
はじめに
この時期になると、時事問題への対策が大切になってくると思います。塾に通っている方は、配られたテキストで対策するでしょう。ですが他塾のテキストが気になったりはしませんか? また、塾に通わないで中学受験対策をしている方は、どのテキストを買ってよいか、迷うのではないでしょうか?
そこで、現在出ている6社(学研、四谷、栄光、朝日新聞出版、サピ、日能研)のテキストを全部買ってきて、比較してみました。今年は朝日新聞出版を追加しています。また中学受験を経験した現在中2の親戚の女子(昨年と同じ人)にも意見を聞いています。ユーザーからの意見は貴重かも?
皆様の選択の助けになればと思います。
(昨年版はこちらをご覧ください。テキスト代だけで結構な金額になっていますので、有益な記事だと思いましたら、なにとぞ投げ銭をお願いします。)
学研「2022年受験用重大ニュース時事問題に強くなる本」
<構成と特徴>
B5、カラー中心。TBSのnews23とタイアップしており、番組製作の様子が巻頭に4ページあります。政治、経済、国際、社会・文化、理科・環境と5つのセクションに分かれており、全部で18項目+「これも覚えておこう」の19項目。
それぞれの項目は基本的に説明2ページ+問題2ページの4ページ構成となっています。毎年恒例の星占いもあります(笑)。
<利点>
他社と比べてカラーページが多く、色で判断できるのが大きな特徴です。またすべての項目は要点が2ページにまとめられており、見開きで概要をつかむことができます。
「理科・環境」がまとめられており、理社両方で出ると思われる気象問題を、両方の視点で学ぶことができます。
最新の統計データが載っているのは非常によい点ですね。
理科を含めた問題のページ数は最も多く、演習量を稼ぐことができます。
<欠点>
重要性の順ではなく、項目順に並んでいるため、どの項目が重要なのかわかりにくくなっています。
またすべての項目の情報は見開き2ページにまとめられているため、情報が圧縮され、かなりごちゃごちゃしてしまっています。コロナ関係の情報も少なめです。
<このような人へ>
見開きで情報が完結するため、時事問題を手早く学びたい人に向いています。また項目別に並んでいるため、知識を系統立てて学びたい人に向いています。
<中2の意見>
・カラーなのはいいんだけど、色が多すぎて、目立たせたい単語が目立っていない気がする。
・大事な単語の真下に小さく説明を書くのはいま一つ見にくいので困る。
・あらましで簡単に内容がとらえられるのはいいと思う。
・注目度があるのはいいけど書いてあるところが小さすぎて目立っていない。
四谷大塚「ニュース最前線2021」
<構成と特徴>
A4、二色刷り。出そうな順に11のテーマが取りあげられています。基本的に説明2ページ、問題が2ページで、重要な項目は増ページで対応しています。11番目の項目が理科です。
受験生が生まれた年から現在までの、年ごとの主な出来事が載っているのは他にはない特徴です。
単語帳式の時事問題確認カード(表紙と理科合わせて32枚)が付属します。
<利点>
出そうな事柄はおおむねカバーされています。項目のすぐ後ろに練習問題が2ページあり、すぐに復習することができます。加えて記述問題のページがあり、詳しい解説が付属します。
時事問題カードはサピと違って事柄の説明が書いてあり、パラパラめくるだけで復習できます。
<欠点>
他社に比べると絶対的に説明の分量が足りません。取りあげる知識の幅も他社と比べると狭いです。また年表や時事用語の説明、用語集はありません。全体的なコスパは残念ながら劣ります。
<こんな人に>
とりあえず急いで時事問題を確認したい人に向いています。また記述問題に不安を抱えている人に。時事問題カードは役に立ちます。
<中2の意見>
・単語帳があるのはズボラ的には嬉しいけど書いて覚えるのも大事なのでは?と思う
・問題が一番後ろにまとまっていないのはとても良いと思う。後ろのページからわざわざ項目のページに戻らなくてもよいのはありがたい
・森喜朗が女性蔑視で辞めたのはオリンピックの項目で説明するべき。
・あれから何年ページは目の付け所がいいなと思った。
栄光ゼミナール「重大ニュース2022中学入試用」
<全体の構成>
B5、二色刷り。巻頭に日本の状況、世界の状況をまとめたカラーマンガが8ページあります(例年と同じ形式)。
社会は17項目で、国内政治、国際政治などと項目別に並んでいます。コロナや自然災害などの重要な項目はページ数が8~6ページと多く、それ以外の項目は基本2ページとなっています。理科は3項目で、説明14ページ、問題9ページと、他社より多めになっています。理科、社会とも、時事問題がどのように出題されたか実例が載っています。これは他社にはない大きな特徴です。用語集9ページ。
<利点>
全体的に説明が詳しいです。コロナについては免疫の仕組みまで詳しく説明されています。気候変動については、線状降水帯だけでなく、世界の熱帯低気圧も説明されています。国際関係については、背景が図解されており、理解しやすくなっています。
見開きの内側に用語説明が小さい文字で載っており、幅広い知識を得ることができます(理科も同様)。昨年より密度が大幅に上がったのでは?と感じます。
2021年受験の時事問題の例は、非常にありがたい情報です。
<欠点>
毎年巻頭のマンガで概要を説明していますが、さすがに絵が古すぎです。これでは逆効果なのではないかと思います。
また文字が小さく、情報が圧縮されているため、かなり見づらいです。説明は詳しいのですが、情報量が多く理解するのは簡単ではありません。
他社より演習問題が少し少なめです。
<注意点>
昨年もそうでしたが、ロシア、中国、ベラルーシの行動を「悪」として書く記述が目立ちます。こうした国の行動に問題があるのは事実です。ですがそれを判断するのは受験生です。受験でも「客観的な姿勢から書く」ことが求められます。価値観の押し付けになっている、あるいは価値観を押し付けていることに無自覚である点は、注意する必要があると思います。
<こんな人に>
理科の時事問題にも積極的に取り組みたい場合は、栄光一択です。また受験終了後、様々な社会問題の背景まで考えてみたいという人に向いています。
<中2の意見>
・マンガで子供の気を引こうとしているのかもしれないが絵が古いからたぶんあまり効果はない。
・字が多い。もうすこし纏められなかったのかと疑問。たくさん知って欲しいのはわかるけどもう少しコンパクトでいいと思う。
・「ひと目で分かる日本の世界遺産」という図があるけど、ひと目でわからん。図は見にくいものが多い。
・反中的態度を明確にするのは資料集としては適切じゃないと思う。他の会社は事実を載せて、受験生に判断を任せてるのに。
朝日新聞出版「中学受験2022時事ニュース完全版」
<全体の構成>
A4、カラー中心。この本だけ縦書きです。
最初に葉一と伊沢拓司の対談が載っています。
第一部は過去一年の重大ニュースをまとめています。ジュニアエラの記事を再構成したもので、全部で10項目です。第二部は特集で、東日本大震災、日本の政治、オリ・パラの歴史を各8ページ、カラーで紹介しています。
第三部は二色で理科(15ページ)と国語の読解力講座(8ページ)。
第四部が2020年9月から2021年8月までに起こったニュースを月ごとに、カラーで解説しています(48ページ)。
この本は他とは性質が大きく違います。他社の本には演習問題が多く載っていますが、この本は過去問が7ページ載っているだけです。一方月ごとの出来事は各4ページあり、情報量が多くなっています。2020-21年の各月の出来事を、読んで振り返るための本になっています。
総ルビなので、6年生以下でも読めるようになっています。
<利点>
第一部、第二部、第四部はいずれもフルカラーで、配色も見やすくなるよう工夫されています。理科の割合が大きく、読み物になっているので親しみやすいです。国語の読解力講座があるのは、他にはない重要な特徴です。第四部のカレンダーは、それぞれの月にどんなことが起こったかを一目で把握できます。
<欠点>
コロナについての説明がほとんどありません。オリパラの無観客試合についてもほとんど触れられていません。確実に出ると思われる緊急事態宣言やワクチン、政府や人々の対策については学ぶことができないので要注意です。正直、今年の受験には全くピントが合っていないと思います。
また予想問題がなく、過去問が7ページあるだけです。
縦書きなのはよいのですが、総ルビなのでごちゃごちゃしています。
<こんな人に>
4年生、5年生のうちに読んでおくとよいでしょう。あと時事問題が多く出る中位校を狙っている人に向いています。上位校には向いていません。そもそも他の本とコンセプトが大きく違う点に注意が必要です。
代々木ライブラリー「2022年中学受験用サピックス重大ニュース」
<全体の構成>
A4、2色刷り。
特集1は「オリンピックの無観客開催」。特集2は「新しい2つの世界遺産」で、特集はカラーです。
第1章は「変化する日本社会」です。「コロナ」「オリンピック」「衆院選」「選択的夫婦別姓」など10項目で、重要な項目は多くのページを割いています。特にコロナは10ページもあり、コロナのことを幅広く知ることができます。
第2章は「地球環境の危機と災害の脅威」です。「東日本大震災から10年」「気候変動」など5項目あります。
第3章は「国際社会の動き」です。対中関係、バイデン政権など5項目。
第4章は「理科ニュース」です。RNAワクチンの仕組み、線状降水帯の仕組みなど5項目。
この他、地図、月ごとの出来事、各種資料のページがあります。用語集は7ページあります。
付録として、一問一答形式の時事問題単語帳84枚が付属します。
<利点>
判型が大きく、空間が多いため、読みやすいです。
それぞれの章の最初には「みんなで話し合ってみよう」というコーナーがあり、考えるべき論点が提示されます。そしてそれに従って各項目が書かれています。読み物として統一感があるのが、大きな特徴です。
ハンセン病に関わる問題や、選択的夫婦別姓問題を取りあげており、昨年同様「平等」「人権」に非常に意識的です。
また中国の勢力拡大については詳しく述べていますが、記述は中立的で、中国を単純な悪として書いてはいません。
予想問題は記述、思考力が必要なものが中心となっています。答えるのは大変ですが、実際の受験に近いものとなっています。問題のレベルは全ての会社の中で最も高いです。
<欠点>
問題のページ数が少ないのは、他社と比べると大きなマイナス点です。
また単語帳は一問一答で、思考力が入り込む余地が少ない点は残念です。
<こんな人に>
「考えて答える」「問題解決力を育てる」点では最も優れています。最上位校のうち、記述が多い学校を目指す人はサピが向いているでしょう。
一方一問一答系の問題が多い上位校を目指している人は、他のテキストを選ぶべきでしょう。
<中2の意見>
・字が大きくてかなり読みやすい。知っておいてほしいランキング付きなのはいいと思う。
・ワクチン接種やらの向き合い方がちゃんとしててさすが。
・ジェンダー平等をかなり意識している。SDGsの取り組みもきちんとしている。
・国際的な目線が多いのはとてもいいと思う。中国に対してなど、意見が分かれることは中立的に事実のみ述べている感じがよい。
・「みんなで話し合ってみよう」のコーナーが本質。知識をたたき込むだけでなく社会に目を向けることこそが大切ってメッセージ性を感じる。
日能研「2022年度中学受験用 重大ニュース2021」
<全体の構成>
B5、2色刷り。
第一部は注目トピックの解説で、25項目あります。オリンピック、自然災害、衆院選、世界遺産など最初の6項目が4ページで、後は見開き2ページとなっています。
第二部は予想問題です。前半は一問一答の知識問題で、25項目すべてに予想問題があります。後半は応用問題で、最初の6項目についての、記述を含んだ難しめの問題となっています。
第3部は資料集です。歴代総理大臣、世界の情勢、主な国のデータ集などがあります。圧巻なのは用語集で、38ページもあります。
他社と違って理科はありません。
<利点>
フォントが細く、ページの空間が多いです。また本文のフォントは細く、協調部分のフォントは太いので、とても読みやすいです。
取りあげている項目の数と幅は他の会社と変わりなく、十分に幅広くなっています。また事実を中立的に記述しており、判断は受験生がするようになっています。
社会の問題ページの数はトップです。特に一問一答形式の問題が充実しており、少々マイナーと思える社会問題も確認することができます。
圧倒的に優れているのは資料ページです。政治の仕組み、世界のデータなどが簡潔にまとめられています。なにより強力なのが用語集です。受験範囲を超えると思われるような細かいことも載っていますし、アルファベットの略語の説明も載っています。この用語集だけでも買うだけの価値はあります。最も厚いのに税込み1650円ですから、明らかにコスパが高いです。
<欠点>
毎年そうですが、理科がないのは欠点です。各項目の説明は栄光、サピの方が詳しく、日能研の説明はあっさりめです。
<こんな人に>
一問一答系の時事問題を出す上位校を受ける人に向いています。また用語集が非常に幅広いため、「世の中の出来事をもとに答えさせる」「一見すると何を答えるべきかわからない問題」を出す学校に向いています。
記述が多い最上位校は、サピと併用するのがよいでしょう。
<中2の意見>
・図の入れ方が他社より見やすい。小見出し付きなのが見やすい。
・単語より文章を太字にしがち? ニュースのポイントがちょっと目に入りにくいかもしれない。
・資料が後ろにまとまっているのがいい。
6社の比較
6社の本をデータと読み込んだ印象で比べてみました。知識量から奥深さは5段階で評価しています。
問題ページが一番多いのは学研です。社会の問題に限れば日能研です。
知識量が多いのは日能研です。やはり用語集と資料ページが強いです。本文だけで限ると、栄光→学研・サピ→日能研→四谷の順です。
思考力を育てるのはサピが頭一つ抜けています。日能研が続きます。
卒業後の学びにつながる「奥深さ」は、サピ、日能研が優れています。
運用の方法は?
・最上位生はサピと日能研の併用がベストです。サピで思考力を育て、日能研で語句の知識を学べば最強です。
・一問一答系、初見で戸惑うような問題が多い学校は日能研が向いています。
・記述が多い学校はやはりサピでしょう。
・受験直前に急いで学びたい人は四谷かジュニアエラです。
・栄光、学研はほぼ同じレベルで、受験に必要な知識は十分学べます。カラーですがちょっとごちゃごちゃしている学研、二色で比較的見やすい栄光で選ぶとよいでしょう。
・ジュニアエラは上位校には向いていません。「見て確認する」ための本です。これから受験本番を迎える4、5年生に向いています。
おわりに
各社の特徴は昨年と大きく変わりませんでした。ですが栄光が質量ともに大幅に上がった印象です。
おそらく今後は、中学受験ブームの盛り上がりや、現代社会の問題(Problem)を問う問題(Question)がさらに増加するでしょうから、各社工夫をこらしてくるでしょう。
加えてこれからは、独自の動画配信を行なったり、追加コンテンツをWebで配信するといった、デジタル対応も進んでいくでしょう。オリジナル動画を配信した会社が、おそらく一歩先を行くと思います。
そのためちょっと大変ではありますが、2022年受験の方だけでなく、2023年、2024年受験の方も、各社の重大ニュースの情報をつかんでおくと良いと思います。中学受験は情報戦でもあります。情報をつかむのは、重要な親の役割です。情報の波に取り残されないようにしたいものです。
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