第12章:他者を信頼する勇気
「他者を信頼する」ことは、アドラー心理学の重要な要素だと大輝は学んだ。しかし、理論としては理解できても、それを実生活で実践することが難しいと感じていた。信頼を示すことは、相手が裏切るかもしれないという不安を伴う。特に大輝のように過去にいじめられ、不信感が強まった経験がある者にとっては、大きなハードルだった。
ある日、図書室で新しい図書委員のメンバーと顔を合わせることになった。大輝は、メンバーの中に自分があまり話したことのない男子、石川というクラスメートがいることに気づく。彼はスポーツが得意で、よくクラスの中心にいるタイプだ。しかし、大輝にとっては苦手なタイプであり、これまではあえて接しないように避けてきた相手でもある。
図書委員の作業中、大輝はふと思った。「今のままではだめだ。ここで勇気を持って、自分から信頼を示す行動をしてみよう。」
その日、図書室の本棚整理の作業中、石川が困っている様子を見つけた。高いところに本を戻そうとしていたが、どうやら届かないらしい。大輝は一瞬躊躇したが、自分の中で何かがはじけたように感じた。「これが、今がその瞬間かもしれない。」
「手伝おうか?」
大輝は、できるだけ自然に声をかけた。
石川は笑顔で、
「ありがとう!助かるよ」
と言った。その言葉を聞いて、大輝は胸の中が温かくなるのを感じた。ほんの些細なことだったが、自分から声をかけ、手を差し伸べることができた。この小さな行動こそ、アドラー心理学で言う「他者信頼」の実践だと感じたのだ。
その後、石川と一緒に本を戻しながら、自然と会話が始まった。彼が話す内容は、サッカーや週末のイベントなど、普段なら大輝が関わらないような話題だったが、意外にも楽しさを感じた。
「今まで田中君とこんなに話すことってなかったね。田中君って面白いんだね。」
石川は笑顔でそう言った。
「そうかな、ぼくも石川君がこんなに話しやすい人だって知らなかったよ。」
大輝も自然に笑顔がこぼれた。
この体験は、大輝にとって大きな自信につながった。石川のようにクラスの中心にいる人とも、勇気を持って接することで、信頼関係を築くことができると実感したのだ。自分から行動を起こすことで、他者信頼は可能になる。大輝は、自分の中に新しい可能性を見つけた気がした。
これまで、他者に対して距離を置き、失敗や拒絶を恐れていたが、この経験を通じて、「失敗を恐れることなく、まずは信頼を示してみること」が重要だと学んだ。
コラム:他者信頼を実践するためのステップ
まずは小さな行動から始める
他者を信頼するのに大きなステップは不要です。日常生活の中で、ほんの少し手助けを申し出る、声をかけるなどの小さな行動から始めることができます。失敗を恐れない
信頼を示すことはリスクが伴いますが、それを恐れずに行動することが大切です。結果がどうであれ、自分が信頼の第一歩を踏み出したこと自体が重要です。相手の反応を気にしすぎない
アドラー心理学では、他者の反応は自分の課題ではなく、相手の課題です。自分ができるのは、自分の行動だけ。相手がどのように反応するかは、相手に委ねましょう。継続することが大切
信頼関係は一度きりの行動では築けません。日常的に他者と向き合い、少しずつ関係を深めていくことが大切です。
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