続き
「教室は水の底に沈んでいるみたいだった。」
テスト中の教室の静けさのことだった。
思わず想像してしまった。
水槽のような教室に、並々と注がれている水。
アネモネ、カタクリ、ヤマブキソウ、
おじいさんがぼくたちの知らない草花の名前を並べたとき、私は一瞬でおじいさんの過去にトリップした。
このおじいさんのことは、「ぼく」たちが出会った瞬間のところからしか知らないんだった。
そう思い出した。
このおじいさんは、どんなこれまでを過ごしてきたのだろう。
こんなに草花に詳しいなんて。
でも野菜ではないから、田舎か山の近くでそだったのかな。
1人になる前は、誰かと暮らしていたのかな。
草花に詳しい知り合いか、友達か、親か、恋人か、誰かがいたのかな。
ちょっと考えただけでおじいさんのことを1ページ前よりも好きになった。
読了
ぶどうが残ってたのも少年たち宛で手紙が残されていたのもなんかもう全部全部胸が潰れた。
おじいさん、ぶどうを洗ってお皿に乗せて、机に置いて、布団に横になるときにはきっとわかってたんじゃないかと思う。
少年たちとおじいさん、一緒に過ごしたのは、人生のほんの一夏なのに、こんなにも深く繋がるんだな。
それでもきっと少年たちはこれから大きくなって、日常に戻って、この夏のこともおじいさんのことも、社会人になったりしたら思い出す時間は減るだろうけど、たまに思い出して、会いたくなったり、心の中の夏の庭に行ったりするのかな。