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「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」の鑑賞レポート

「MY SKILL UP DAY」は、イベントや展覧会へ行ってきた社員による鑑賞レポートです。
展覧会の内容やそこから得た知見や考えなどを、広告制作会社ならではの視点を交えながらまとめることで、書き手にとっては考えの整理と記憶の定着、読み手にとっては行く手間を省いてイベントや展覧会の大枠や知見を得ることができるような、レポートにしていきます。


今回行ってきた展覧会

今回展示会を見に行ってきたのは、ピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)でプロジェクトマネージャーをしている鈴木香穂里です。

行ってきたのは、六本木の森美術館で行われている「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」です。スキルアップデーを使って行ってきました。

・シアスター・ゲイツ展とは
世界が注目するブラック・アーティストの日本初個展。陶芸、建築、音楽で日本文化と黒人文化の新しいハイブリッドを描く、壮大なインスタレーションが展示されています。
本展はゲイツの多角的な実践を通し、世界で注目を集め続けるブラック・アートの魅力に迫ります。同時に、手仕事への称賛、人種と政治への問い、文化の新たな融合などを謳う現代アートの意義を実感する機会となるでしょう。(展覧会HPより参照)

・スキルアップデーとは
クアドラが独自で設定している、有給休暇とは別に「自身やチームのメンバーをスキルアップさせるために使う日」です。
ここで得た知見を他の社員に共有することで、会社全体のスキルアップを目指しています。

黒人アーティストによる個展が日本で初めてということ、私自身の多人種理解と知識が薄ことに以前から危機感を持っていたこと、無意識な人種差別による作品の炎上を知って他人事ではないなと感じたことなど、体験コンテンツは少ないながらも行く価値はあると感じたため、行ってきました。

「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」に行ってみて

展覧会の会場構成は、おもに3つの区分に分かれていて、導入には黒人文化を体感するエリア、その次に実際にアフロ民藝と呼ばれる作品など、どちらかといえば古典的でゲイツ氏の作品を中心としたエリア、最後には現代的な最近のゲイツ氏の作品が置かれたインスタレーション要素の多いエリアとなっていました。

ここから、私が鑑賞していく中で考えたことを3つの視点から話していきます。
※あくまで個人の感想と考察になります。ご承知おきください。

五感による体験価値

シアスター・ゲイツ《ヘブンリー・コード》(2022)

今回の展覧会は全体を通して、シアスター・ゲイツ氏自身や民芸品の作品をみせることが目的の展示というよりも、黒人文化そのものを伝えるための展示という印象を受けました。

特に最初の展示ブースはその象徴で、床面には今回のために常滑で焼かれたレンガが敷き詰められ、壁面には京都の老舗と協働したお香の作品、奥からはアメリカの黒人教会やゴスペルで使用されるオルガンの単音の音色が響き渡っていました。
触覚、嗅覚、聴覚、視覚といった味覚以外の五感によって、黒人文化を身体全体で感じられるつくりになっていました。

シアスター・ゲイツ《黒人仏教徒の香りの実践》(2024)

少し話は逸れますが、良い会議には五感を使うと良いという話を聞いたことがあります。詳細は省くのですが、会議参加者の五感をフルに使わせることで、思いもよらない意見が出てきたり会議が円滑に進んだりと、会議が良いほうに進んでいくそうです。

これを、五感の刺激や共有が、思考や記憶に対し良い作用をもたらすというように解釈すると、今回の観客の五感に訴えかける展示は、これから文化を伝えていくための導入として非常に有効な手段であるなと感じました。
この魅せ方は今後何かに使えそうな気がします。

思考過程ではなく思考元をみせる

私が今まで行ったことのある展覧会、特に特定のアーティストの個展では、その人の学生時代のスケッチや、作品が出来上がるまでの思考スケッチがその人の思考背景として紹介されていることがほとんどでした。

ブラック・ライブリー&ブラック・スペース

しかし、今回はゲイツ氏の思考過程ではなく、ゲイツ氏自身がリサーチに使ってきた本や雑誌などがいくつかの大きな本棚に並べられ、しかも一部の本は閲覧自由となっていました。
実際に手に取って読んでみることができ、どれも日本では見たことの無い本ばかりだけど、その中に日本語で書かれた本もある空間は、ただ思考過程のスケッチが並んでいるだけの展示よりも、黒人文化というテーマに対して能動的に鑑賞している感覚がありました。
日本と共通の考え方やテーマで書かれている本を見つけたり、生活が垣間見える特集が書かれた雑誌を読んだりすると、概念としてしか捉えられていなかった遠い存在の黒人文化に親近感を覚えるようになりました。

思考元をみせることで、自分から調べてみたいと思わせ観客に能動的な行動を起こさせることができるのかもしれないと感じました。

作品そのものの見ごたえはもちろんありますが、全体を通しての魅せ方自体が、黒人文化に対しての知識があまりない人でも黒人文化を自分ごと化として捉えて能動的に知っていくきっかけになれるものであると感じました。

ひとりのアーティストを通じて、文化全体を知ることができる展覧会は初めてだったので、とてもおもしろい経験になりました。

シアスター・ゲイツ《ドリス様式神殿のためのブラック・ベッセル(黒い器)》(2022-2023)

広告と通じる、無価値への価値創造

シアスター・ゲイツ《みんなで酒を飲もう》(2024)の展示風景

最後のブースはかなり派手な装飾でネオンにDJブースなど、それまでの厳かな雰囲気とはまた違っていて現代的で華やかで、これからまた日常へかえっていく人たちと寄り添うようでありながら、ゲイツ氏自身の世界へ引っ張っていくような、そんな空間でした。

そこの一番目立つ壁には一面棚が設置され、そこに昔に常滑の無名の陶芸家たちが制作した壺が並んでいました。それらはむかし酒屋から量り売りしてもらうために使われていた壺で、現在では価値はほとんどありません。
その壺に対してゲイツ氏は、自身のロゴマークを刻印して自身の作品として昇華させていました。

価値を創造するという作品は時折見かけます。
最近の事例でいうと、カンヌライオンズにノミネートされていたコカ・コーラの「Thanks for Coke-Creating」などがあげられるのではないでしょうか。
本来なら価値が与えられないものに対して、ブランド自ら価値を与えるという視点に通じるところがあるなと感じました。愛を感じられる価値創造の施策、わたしはとても好きです。

本展示会で随所に設置されていたタールペインティングの作品のひとつ。
不当に差別されてきた黒人労働者たちの境遇を端的に物語るタールを用いている。

展覧会を通して観客に何を伝えるのか、何を観客に感じてもらい、何を持って帰ってもらうのか。ただアーティストや作品の魅力を伝えるだけではないということを改めて感じさせられた、面白い体験となりました。

今回の展覧会では体験系コンテンツが無かったので、次回は体験系のものが多い展覧会やイベントのレポートができたらと思います。

この展覧会が気になったら

「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」の開催概要は下記の通りです。気になった方はぜひ足を運んでみてください。

・会期
2024年4月24日〜9月1日(会期中無休)

・会場
森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
アクセスはこちら

・開館時間
10:00〜22:00
(火曜日のみ17:00まで、ただし4月30日、8月13日は22:00まで)
※入館は閉館時間の30分前まで

・料金
[平日]一般 2000円 / 学生(高校・大学生)1400円 /シニア(65歳以上)1700円 / 子供(中学生以下)無料
[土・日・休日]一般 2200円 / 学生(高校・大学生)1500円 / シニア(65歳以上)1900円 / 子供(中学生以下)無料

ここまで読んでいただきありがとうございました。ご意見・ご感想・ご指摘等ありましたら、コメント欄までお願いいたします。

(この記事の内容は2024年8月9日時点での情報です)

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