「ADFEST 2024 視察レポート」前編。GRANDE受賞者が語る! 最新トレンド、広告クリエイティブの未来。クリエイティブ業界はAIにどう向き合うべきか?
2024年3月、タイ・パタヤで開催されたアジア最大級の広告祭「ADFEST 2024」。今年もピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)は現地視察に行ってまいりました。
さらに、クアドラが参画した、味の素冷凍食品と本田事務所による「冷凍餃子フライパンチャレンジ」はADFEST 2024において、PR部門であるPR Lotusで、最優秀賞「GRANDE」のほか、「GOLD」「BRONZE」の計3つのトロフィーを獲得。表彰式にも登壇させていただきました!
そして、2024年4月4日(木)にクアドラ主催のADFEST 2024視察レポートイベントを開催。現地視察に行ったクリエイティブディレクター 阿部達也と、プロデューサー 師富玲子がスピーカーとして、現地での学びを皆さんにお届けしました。
今回は、その視察レポート内容を前後編の2回に分けてまとめていきます。前編では、ADEFST 2024の特徴や傾向、また作品やジュリーの方々の言葉から得た学びをお届けしていきます。
ABOUT ADFEST
増えたものと減ったもの
広告賞は毎年少しずつ変化していく部分がありますが、ADFEST 2024は昨年とどこが変わったのかご紹介します。まず、増えたものが2つありました。
今年から「Sustainable Lotus」の部門が追加されました。これまでは他部門のサブカテゴリーとして、こういった点を評価していましたが、独立した一つの部門となりました。
ちなみに、Cannes Lions 2023でも広告の制作や展開に伴うCO2排出量やサステナビリティ関連のインパクトについての情報提出が推奨され、応募条件が変更されており、サステナビリティに対する意識はますます重要視されてきているようです。
また、今年から「Regional Agency of the Year」が追加されました。もともと、その年に最も受賞数が多いエージェンシーへ贈られる「Agency of the Year」がありましたが、今年から対象エリアを6つに分け、エリアごとに最も高い受賞スコアを獲得したエージェンシーを称える部門としてRegional Agency of the Yearが新設されました。
一方で減ってしまったものもあります。これは今年のエントリー数、参加都市数、参加者、スピーカー数、ジュリー数で、赤字が昨年からの増減数を表しています。
参加都市の数は増えていますが、他は減少。コロナ前から去年にかけても減少傾向にあるため、今年もまだ復活はできていない模様です。
コロナ禍から立ちあがろうという意図で、去年のテーマは「RISE」でしたが、今年のテーマは「HUMAN INTELLIGENCE」。
「HUMAN INTELLIGENCE」はAIの進歩に対し、人間としての知性はどうあるべきか? を表した言葉で、略語の「HI」は「Hi」という挨拶としても、ADFESTのサイトで多様されていました。
そんなテーマを表現したムービーは、毎回アワードショー(受賞者発表会)の冒頭などで流されます。今年のムービーがこちらです。
ムービー冒頭では、ヒロインが“クリエイティビティのトンネル”を象徴したアイデアとインスピレーションの渦を潜り抜け、AIの無数の声それぞれが注目を集めようと競い合います。ヒロインがこの新しい世界に順応するにつれて、ムービー内の音楽はリズムにまとまりを持ち、これは、ヒロインがデジタル領域を疾走する様子を音で表現しており、AIが提示する可能性の海を巧みに操れるようになっていくことを比喩しています。
AIの脅威
そんな「HUMAN INTELLIGENCE」というテーマが意識するAI。今年はセミナーでも、AIをテーマとしたものが多かったですが、特にAIと人間が「vs」構造になっているものも見受けられました。これは裏を返せば、世界はAIを敵とみなし、恐れているということです。
実際、地政学リスクを専門に扱うコンサルティングファーム「ユーラシア・グループ」が毎年発表する「世界の10大リスク」では、2023年、2024年と2年連続でAIが入っています。
なぜAIが怖いのか? 仕事がとられるかもしれないという側面が、クリエイターにおいては一番大きいでしょう。
AIの使い方
では、そんなAIはクリエイティブ業界ではどのように使われることが多いのか? DDB Group Aotearoa NZのチーフクリエイティブオフィサーであるゲイリー・スティール氏はこう語ります。
AIには「合理化」という特徴があり、過去の多くの実例を学習し、瞬時に最適解を導き出すことができます。しかしそれは同時に「均一化」に向かうということでもあります。AIには長所と短所がありますが、人間の本来であればショートカットしたい、ある意味効率の悪い作業の負荷削減にAIを活用することは、問題のない使い方だと言えます。
実際にAIを人間の負荷の削減のために使った作品を3つご紹介します。
「UNDERCOVER」
「AI-DEATE」
「DR. DICK PIC」
AIはプログラムしておけば、何があろうと人間よりも効率的に仕事をこなしてくれます。しかし、実はここが一番AIの怖いところ。『21 Lessons:21世紀の人類のための21の思考』(ユヴァル・ノア・ハラリ氏著)には、このようなことが書かれています。
つまり、ツールであるが故に、AIには感情も倫理観もありません。良くも悪くも、その「指示」を全うしてしまいます。本当に恐るべきはその純粋さなのです。例えば、車に「目的地に着くまで交通規則を守り、最短ルートを最速で走れ」プログラムすれば、道端で苦しんでいる人がいても、止まって助けることはありません。逆に「ここに止まっている間は絶対に動くな」とプログラムすれば、火山が噴火してマグマが迫ってきたとしても、動き出すことはありません。
人の為のAI
では、そんなピュアすぎるツールであるAIを私たちはどう使うべきなのか? 同書にはこのようなことも書かれています。
先ほど例に挙げた通り、AIはインプットしたプログラムに純粋に従います。AIに「正解」を入力するのは私たち人間です。つまり、何にでも染まり、秀に実行できるAIには、私たち一人ひとりの哲学や倫理感をもって、正しい方向へ導いてあげることが重要になってきます。
T&DAのエグゼクティブディレクターであるタイロン・エステファン氏はこう語ります。
AIをはじめとしたプログラムは教え方によっては、また狭い範囲しか教えなかった場合、間違えることがあります。AIを使う際はこういったことに注意しておく必要があります。
AIの過去のデータ蓄積による間違いを扱った作品がエントリーの中にも見られました。
「CORRECT THE INTERNET」
「FIXING THE BAIS」
これらの作品からクリエイターはAIに対して「倫理感」を教育していかなければならないということが言えます。そして、そもそもAIというツールが、今やろうとしている目的に対して必要なのかを考えることも重要です。
I&CO創業パートナーのレイ・イナモト氏はこう語ります。
ADFEST 2024でのスピーカーやジュリー共通の見解は「vs AIではなく、with AIである」ということでした。AIに対して「vs」といって戦う姿勢でいるのではなく、技術としてはウェルカムになりつつ正しく扱うことで、便利になる「時もある」のです。あくまでツールとして活用し、AIを使うことが目的ではなく、目的のためのAIであるべきだと言えます。これは去年のCannes Lionsでも言われていたことでしたが、ADFEST 2024でも各所から何度も聞く言葉でした。
さらに、Dentsu Lab Tokyoのクリエイティブディレクターである田中直基氏、Cheil WorldwideのグローバルチーフクリエイティブオフィサーでADFEST 2024グランドジュリーのマルコム・ポイントン氏はこう語ります。
結局、AIがあろうが無かろうが、広告やクリエイティブがやってきたことは、人間とのコミュニケーションの中にあり続けます。私たちは技術が進化しても、人間に向き合うことを忘れてはいけません。つまり、人間は人間とコミュニケーションをとりますが、ブランドもまた(法人というように)人間的な存在として捉えるべきなのです。
人の為(のAI)
クリエイティブは常に人に向き合っていることを確認するため、ここでようやく今年の受賞作、特にその中でもGRANDEを獲った作品を見てみましょう。
今年のGRANDEは重複もあり、すべてでこの10作品です。これら共通点はAIを使った作品は一つもないということ。その代わりに、どれも人のための作品であり、具体的に喜ぶ人の顔が浮かぶものが多いです。
有名作も多いため、去年のCannes LionsやADFESTで見たことのない、今年初めて登場した作品を2つ紹介します。
「MCDONALD'S WI-FRIES」
「Project Humanity」
これらの作品はジュリーのどのような判断で受賞に至ったのでしょうか?審査をしたジュリーたちの言葉を見ていきます。
去年のCannes Lionsもそうでしたが、手法としての新規性は目減りし、昔見たようなシンプルで芯の太いアイデアの受賞が再び増えてきています。逆を言えば、AIの脅威のおかげで、技術がより技術として切り離され、その派手さに誤魔化されない、アイデアそのものの重要度が大切になってきたということです。これこそがADFEST 2024のテーマである「Human Intelligence」なのではないでしょうか。
前編のまとめ
ここまで、ADEFST 2024の特徴や傾向、また作品やジュリーの方々の言葉をもとに、クリエイティブ業界はAIにどう向き合うべきか? についてお届けしていきました。後編では、ADEFST 2024での学びを普段の業務にどう活かせばいいのか? 日本のクリエイターとして心がけるべきことをお届けしていきます。ぜひご覧ください!
また、本レポートの録画データは以下からご視聴いただけます。こちらもご覧いただけますと幸いです!
(この記事の内容は2024年4月15日時点での情報です)