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幸せはうどんの器の中に:パリにて

パリのオペラ座の近くに、美味しいうどん屋さんがあると聞いた。
フランスで暮らしてもうすぐ10年。
私はノルマンディーの小さな街に住んでいる。

パリに行くと決めた夜、なんだかそわそわして眠れなかった。
それはきっと、うどんが食べられるからじゃない。
明日、日本に少しだけ帰れるような気がしたから。

「12時半過ぎると混むから。」
友達のアドバイスを思い出し、12時ぴったりに到着。
お店の前に着いた。
「KAMAKIRI HAKATA UDON」
入り口を開けた瞬間、私の中で「カチッ」と
何かが音を立てた。

出汁の香り。
「こんにちは!」
ここは、パリなんだっけ?

店員さんがメニューを開いて渡してくれた。ページをめくると、真っ先に目に飛び込んできたのは、「きつねうどん」の写真とその文字

14ユーロ
パリの物価を考えれば驚くほどリーズナブルだけど、その時、私の中では値段なんてどうでもよかった。

注文を告げる声が、少し震えていた気がする。
パリのオペラ座近くで、きつねうどんが食べられるなんて。
世界って、なんだか不思議だ。

うどんが運ばれてきた。
出汁の色が、とても綺麗。

最初の一口で、目を閉じた。
耳に残る天ぷらを揚げる音が、遠い記憶を呼び起こす。

出汁が体に染みわたる。
うどんは、しっかりとしたこしがあって、
天ぷらはサクサク、きつねはジューシー。

たった14ユーロ。
だけど、この一杯に出会えたことは、きっと私の宝物になる。

帰りのバスで考えた。
幸せって、意外と小さな器に入っているのかもしれない。うどんの器くらいの大きさに。

パリの街に沈む夕陽を眺めながら、
「次はいつここに来よう」と、もう次回の訪問を考える自分に気づいた。

家に帰ったら、日記に書こう。
「今日、パリで、おうどんを食べました。
とても、しあわせでした。」

それだけのことなのに、胸がいっぱいになる。
そんな日もあるんだなと思った。

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