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2023年継続トレンド「Pet Humanization=ペットの家族化/人間化」とビジネス機会

US Chamber of Commerce(米国商工会議所?)のウェブで掲出されていたコラムがよくまとまっていたので意訳しながら紹介します。タイトルは「How the Pet Humanization Trend Is Creating New Brands and Business Opportunities」。要は最近至るとこで言われるペットビジネスのトレンド「Pet Humanization」=ペットの家族化/ペットの人間化、が生み出すビジネスの可能性について解説したものです。既に様々なメディアでも使用されている言葉で「ペット・ヒューマニゼーションやペット・ヒューマナイゼーション」と呼ばれます。

「Pet Humanization」がなぜ重要なのか。

ペットの家族化/人間化

小規模なスタートアップから米国大手のペット小売まで、さまざまな企業が「Pet Humanization」というトレンドを活用しマネタイズしており、例えば人間でも食べられる品質の生鮮食品を使ったフードから、ウェアラブル(フィットネストラッカー)、医療診断ツールに至るまで、新しい製品やサービスが誕生しています。

パンデミックがペット市場の起爆剤に

米国では1億1400万世帯以上が犬や猫を飼っています。実際にミレニアル世代の32%、Z世代の14%がペットを飼育しており、ペットへの支出は今後も長期的に継続的な成長を示すと予想されています。犬や猫を家族の一員と考えるアメリカ人は増えているため、ペットを我が子のように考えるビジネスが爆発的に増えています。

パンデミックの間に米国においては新たに2300万もの世帯がペットを飼い始めたためペットに関する消費は増大しました。American Pet Products Associationが提供するデータでは、ペット関連の支出は2018年の900億ドルから2021年には1230億ドル(3年で1.4倍)に跳ね上がったといいます。

しかしパンデミック以前にも多くのペットオーナーが自分たちを「Pet Parents=ペットの親(ペットを所有する"Pet Owner"では無い)」と考えるトレンドは発生しており、したがってペットの食事や日用品、そして医療等への支出は増加していたため、パンデミックを通じて、その傾向に拍車がかかったと言えるでしょう。ペット保険会社など民間企業との協業も行うバージニア工科大学バージニア・メリーランド獣医学部准教授のAudrey Ruple博士も「ペットはすでに所有物ではなく、家庭の一部、家族の一部へと変化している」と語ります。

小売大手がミレニアル世代とZ世代の「ペットの親」の心と"財布"を手に入れるための競争を激化。

2011年に創業、2019年に上場したオンラインペットリテールのChewyは、ペットの飼い主を常に"Pet Parents(=親)"と呼ぶことに気をつけながら、Pet Humanizationのトレンドに寄り添っています。定期購買を行う顧客にはペットの肖像画を送ったり、さらにペットが亡くなったときには、花やお悔やみ状を送ったりして、"ペットの親たち"のペットに対する深い愛情を理解してビジネスを行っています。

顧客にペットの肖像画を送るChewy

Walmartはペットに特化した最大手メディアのThe Dodoとの提携を発表し、ペットの親によるペットの親のための「Pet Lovers Box(月額約20ドルでおもちゃやトリーツが届くサブスクBOX)」を提供することを明らかにしました。(記事では触れられていませんがWalmartは元来は人向けの小売業でしたがペットビジネスを新たな収益源とすべく「Walmart Total Petcare」として、ペットに関わる医療、薬の配送、保険、ペットケアのC2Cマッチング等、他社と協業しながら事業開発を進めています。紹介した記事はこちら

デジタル特化のChewyと異なり実店舗を持つ大手ペットリテールPetcoのCEOであるRon Coughlinは同社の決算説明会で「Pet Humanizationのトレンドは今後も売上を押し上げ続ける恒久的なシフトである。この強いトレンドは過去10年にわたって顕在化してきたもので、特にZ世代とミレニアル世代で顕著である」と指摘しました。さらに「Z世代とミレニアル世代がペットの親になり、その数が増えるにつれて、より質の高いフードやサービスを求めて出費するPremiumization(=消費の高級化)の傾向が強まる」とも彼は続けました。(Petcoのペットケアサービスについて紹介した記事はこちら。)

Pet Humanizationが再構築する5つの重要カテゴリ

次に、Pet Humanizationのトレンドによって破壊と創造が進む5つのカテゴリーを、具体例と共に紹介します。①食べ物②サプリメント③保険④医療⑤狭義のペットテック。

1. 食べ物。Human-Gradeなフードが当たり前に。

Pet Humanizationの流れを受けて、犬や猫のためのHuman-Grade(ヒューマングレード=人間でも食べられるという意味)の食事を提供するブランドが数多く誕生しています。中には、全粒粉のマカロニやサツマイモ、カボチャなど、人間の家族が食べているような食事をイメージした食事も登場しています。

西海岸を拠点に犬用のフレッシュフードを展開するJustFoodForDogsは、大手小売Petcoと提携してPetco店舗内に専用キッチンを開設。さらに冷凍ケースでディスプレイし販売する冷凍食のラインナップを展開しています。American Pet Products Associationによると、米国人は2021年、ドッグフードに2億8700万ドル、キャットフードに2億5400万ドルを支出。食品は動物医療に次ぎ2番目に大きな支出分野となっています。

売上を伸ばす冷凍のフレッシュフード

2.サプリメント。根付くペットの「ウェルネス消費」。

ペットの飼い主自身が、より良い睡眠を求め、免疫力を高め、不安を解消するために栄養補助食品を摂取することが増えているように、ペットに対しても自然な方法で心身の健康状態を保とうとする商品が増えています。業界レポートによると、アメリカにおけるペット用サプリメントの売上は2020年に21%急増し、2025年までに10億ドル(約1400億円)を超えると予想されています。

急成長中を遂げているスタートアップNative Petは今年シリーズAラウンドで600万ドルの資金を調達、それまで特化していたオンラインでの販売をリアル店舗に拡張し、大手小売Targetの300店舗に流通を拡大させました。共同創業者のDan Schaeferは「2017年に健康上の問題を抱えたラブラドール・レトリバーを飼い、犬用の栄養・健康サプリメントが乏しい現状を前に、友人とともにNative Petを起業するきっかけを得た」と語り、そして「愛犬を迎えた2014年に機能性ペットフードやサプリメントは巨大なカテゴリーになると話したことを覚えています。ペットの親は、人間と同じように、食べ物は薬だと考えるようになってきていると強く感じている」と続けました。Native Petは他のブランドで使われているソフト・チューよりも、より食品に近い感触のユニークなMade-in-the-USの安心安全な製品を作ることで競合他社との差別化を図り、同社の売上は年々倍増しています。

Native Petが展開するペット向けサプリメントのラインナップ

3.ペット保険。次世代の購買習慣に沿った販売戦略が肝。

手術や医療費用の抑制を求める飼い主の増加により、ペット保険需要が急増しており且つ今後も市場拡大が見込まれるカテゴリーです(実際にアメリカにおけるペット保険加入率は低く2-3%)。

各大手小売も保険に対する需要に応えるべく市場を開拓しています。Petcoは独自の保険プランを提供。Chewyはペット保険会社Trupanionと提携。Walmartはペット保険会社Fetch by The Dodoと提携して人向け保険サービスWalmart Insurance Servicesにペット保険を追加すると発表。

Fetch by The Dodoは、もともとPetplanという社名でした。10年以上前からペット保険を販売していましたが、ペットに特化したメディア「The Dodo」がPetPlanの少数株式を取得したことで、PetPlanのブランド名は「Fetch by The Dodo」に変更(その際に紹介した記事はこちら)。同社はテクノロジーを刷新、そしてペットに対する新しい考え方に順応することで、次世代の若い飼い主を顧客として取り込むことに着手しました。「ここ数年、ただの保険会社からInsure-Techカンパニーへと転換するために数百万ドルを費やしました。これまで顧客からの電話問い合わせで対応しなければならなかったことは全て、スマホやPCで、そして、チャットボットやライブチャットで済むようになった。それが次の消費を担う若いミレニアル世代が望むビジネスのあり方だからです」と、Fetch by The DodoのCEOであるPaul Guyardoは語りました。そして、Pet Humanizationの流れにより、飼い主は我が子を扱うかのようにペットを守り寿命を延ばすためにできることは何でもしたいという気持ちが強くなっているという。「私の親の世代では、ペットが病気になったら丁重に安楽死させるものでした。しかし今日のペットの親にとって、ペットは家族の一員であり、家族の一員である人間と同じように、愛情や配慮をもってペットに接したいのです」と続けました。ミレニアル世代とZ世代の飼い主は、ペットの健康を維持するための信頼できる情報やアドバイスを求めています。Fetch by The Dodoは、犬の飼い主のための健康予測プラットフォームの立ち上げを準備しており、犬種に応じた特定の犬の健康上の懸念事項と、事前に講じるべき予防策を列挙した健康レポートを無料で提供する予定です。

Fetch by the Dodoによる犬の健康予測プラットフォーム

4. 獣医療。人間医療のトレンドを反映する。

ペットを人間として見立てたことで、人間の医療と同じような新しい獣医療が行われるようになっています。人向けの緊急救命医療で存在するように誰もが予約無しで入れるウォークイン・クリニック、会費制で24時間いつでも診療を受けられるブティック・クリニック、オンライン型のテレヘルスなど、若い飼い主が求める次世代型の獣医療が次々と登場しています。

東海岸を拠点とするBond Vetは、CityMDの犬用緊急医療クリニックをモデルにした動物病院で、急速に拡大しており、2022年内に11拠点から30拠点以上に拡大する見込みです。

会員制モデルを採用し、24時間365日のオンライン相談にも対応するブティック型の動物病院Modern Animalは、既に1億6400万ドルを調達し、ロサンゼルスとサンフランシスコに5つのクリニックを持ち、2023年までには西海岸にさらに6つのクリニックをオープンする予定です。

2022年初めには、オンライン薬局のPetMed Express(旧称1800PetMeds)がPetMedの顧客に遠隔でのオンライン相談/診療を提供するため、既に同様のサービスを展開しているスタートアップVetsterと提携を結ぶなどしてサービス拡張を行いました。

外観 / Modern Animal
スマホで簡単に診療予約やオンライン相談が可能 / Modern Animal

5. ペットテック。コネクテッド・カラー、犬のDNA検査など。

過去10年間、ペットテックのスタートアップが爆発的に増えています。人間のために発明されて生活の進化をもたらしたテクノロジーがペットにも応用されつつあります。犬や猫のGPS追跡やデジタルIDタグ、飼い主がスマートフォンからペットの行動を監視できる首輪などのスタートアップの創業が相次いでいます。また、犬や猫のための新しい医療検査やデバイスの開発も進められています。

2015年以降、Embark Veterinaryは犬用のDNA検査キットを100万個以上販売しました。人間のDNA検査を行うスタートアップでユニコーンの23andMeの共同創業者を含む投資家が支援する同社は、2020年から2021年にかけて売上高が倍増しました。

犬のDNA検査 / Embark Veterinary

2016年に設立されたAnimal Biomeは、犬猫の便サンプルを3万件以上検査し、ペットの消化や腸の健康についての情報を飼い主に提供しています。

ペットの腸内健康を検査 / Animal Biome

コネチカット州で携帯型超音波装置を製造するデジタルヘルス企業Butterfly Networkは、動物用の専用デバイス「Butterfly iQ + Vet」を開発しました。2022年5月に大手ペット小売Petcoは店舗に併設している200の動物病院で、この装置を使用することを発表しました。「この技術を加えることでペットの親に安心を与えられるだけでなく、Petcoの病院に優秀な獣医を集めることができる。獣医療に関わる専門家が、どの病院に入るか選ぶ前に、最も求めていた技術の一つである」とCEOのRon Coughlinは語りました。

Butterfly iQ + Vet 携帯型超音波検査装置 / Butterfly Network + Petco

以上。記事に登場したフードやペット保険、大手小売によるペットケア事業への参入等に関連した記事は以下からご確認ください。

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