10年ぶりの日本・・・・
10年前の出国は成田だったが、折角の帰国に選んだ場所は生まれ育った名古屋。苦い思い出の方が結果として多かった東京での会社経営時代の知り合いに合う事無く、久しぶりの日本を満喫するには、やはり地元が一番だった。
出国時には、小牧空港しかなかったのだがSQ機は新設された中部国際空港に離陸した。
久しぶりの日本、入国から荷物の受け取りまで、列整然と行われていく。何処かオートメーションの工場を連想させられるのだが、そこが日本を懐かしく感じさせられた。
シャンカールが、予約してくれているのはヒルトンホテル。名古屋市内までは、直結のセントライナーと言う電車が走っている様なのでそれを使い、市内へ向かった。
アフリカ、ドバイ、インドでの生活を10年も続けてきた身体には、名古屋とは言え一月の寒さは堪えるのだが、それはそれで懐かしさも同時に感じていた。
金山駅に到着し、タクシーを拾った。
「お客さんどえれー(随分の意)日焼けされてますねぇ」
久しぶりの名古屋の言葉が嬉しかった。
「いやぁ、ちょっと南の方へ出稼ぎでね!」
高齢のタクシー運転手に、俺の送った10年間を理解できる訳がない。
タクシーは、程なくヒルトン名古屋の車寄せに到着した。
ドバイや、チャンナイではパターン化していたエグゼクティブスイーツなのだが、会社が厳しい経営に陥った頃の思い出を多く持つ日本で、シャンカールが用意したこの部屋に何処か見分不相応な錯覚に陥る所が、自分が帰国した最初の実感だった。
名古屋入りに際して、食べたいものなど10年分の記憶が駆け上がってくるのだが、
「まぁ、急がば回れだ・・」
バスタブでそう呟いた後、屋上のバーで何杯かのバーボンソーダを名古屋の町を見下ろしながら飲み、少し頭と体をほぐした後、ホテル近くの居酒屋で10年ぶりの名古屋飯を摘みながらこの夜を終えた。
「さぁ、明日から打ち合わせだ」
ホテルに戻り、やたらハイテンションな見知らぬ若手芸人の何処が笑いなのか?分からないTV番組をつけた間々、眠りについた夜だった。