【映画の中の詩】『チップス先生さようなら』(1939)
❝美しき青きドナウ❞ は詩人のこころのなかにのみ流れる?
少年時代の初恋以外は女性に無縁の中年の堅物教師チップスが旅行中に出会ったキャサリンに惹かれるのですが、彼女の方も茶色いドナウ川が「恋をするものには青く見える」状態になっている、という場面。
「美しく青きドナウ」はいうまでもなくヨハン・シュトラウス2世作曲のウィンナ・ワルツの名曲なのですが、問題なのはその歌詞で
〈いとも青きドナウよ、
なんと美しく青いことか
谷や野をつらぬき、
おだやかに流れゆき、
われらがウィーンに挨拶を送る〉
(「美しく青きドナウ」)
このように美しく讃えられているドナウ川が、実際に見ると青くも美しくもないので観光客がみんながっかりするということです。
映画の中では「恋をしているものだけにはドナウは青く見えるのだ」という伝説があることをチップスに言わせています。
俗に、恋をしたら誰でも詩人になる、と言いますから詩人ならば恋をしていなくてもドナウは常に青く美しく流れていると見える(?)のかもしれません。
主演はロバート・ドーナットとグリア・ガースン。
チップスの青年期から最期までの六十数年間を一人で演じきったドーナットはアカデミー賞で『風と共に去りぬ』のクラーク・ゲーブルを抑えて主演男優賞を獲得しました。
ドイツ軍の爆撃の中で行われるラテン語の授業。この場面を見て「なぜ避難しないのか!」と疑問に思われるでしょうが、原作の方にちゃんと説明がありました。
参考リンク:
ガリヤ戦記3版(岩波文庫)カエサル著,近山金次訳
https://dl.ndl.go.jp/pid/3007719/1/54